第48話 江ノ島

1号線


なんかこう


3号線とあんまし変わんないのね。


広いとこもあれば、狭いとこもあって。

1号線

という響きだけで何かこう、SFに出てきそうな道路を想像してしまってたわ。

高速道路じゃないから、普通の道で間違いはないのよね。


交通量の多い道なので、こういう時に小排気量のバイクは楽ちん。

すり抜けとかはしないけど、いざというときは小回りが効くからいいわね。


割と普通の道を走りつつ、日本の道路はどこも同じねー

なんて感じつつ走っていると、海の匂いが近づいてきた。


1号線から離れ、江ノ島へ向かう県道305号線へ


そして、海が見えてきて、目の前に広がる海岸線。


海岸?


海どろっどろじゃない。


薄黒い土が海と陸の境に広がってる風景が目に入ってくる。

これ砂の海岸じゃない。

私の知ってる海岸はもっと白くて輝いてる。


冬だからこんな感じなのかしら?

近づくと、砂なのはわかったが、これ川砂よね。


そこでウインドサーフィンをしている人たちがいたりするけれど、

なんか、こう、私のイメージする海ではない感じが。

有明海の干潟までドロドロじゃないけど、そっちのイメージが強い。ドロドロしてないし海の色は青いのに、砂色のせいで海岸イメージがどろっとした感じになってしまう。色のせいよね。


多分、東京人が集まる海岸は別にあって、ここは江ノ島に行く途中だから川砂が砂州のように溜まっているところなんでしょう。


こういう地形には川の砂が溜まりやすいとか言うし。


暖かな昼の日差しが差し込んできてて、バイク乗っててもそんなに寒くはないのだけれど、海の風景が薄寒いので、あまり「海!」ってイメージではない感じ。

冬の海はなんとなくもの寂しい感じがあるのは人がいないせいか、太陽が弱まって海が輝いてないからなのか。


ヒナっちに導かれるまま、海を渡る橋から島へ入るとすぐにとこにある駐輪場にバイクを止める。


島の中はバイクで移動じゃないんだ


「ここからは歩いていくよ。そのほうが楽しいから」


ヒナっちはそんなことを言っているが


「ねぇ、東京人が思い浮かべる海って、どこよ」


「? くる途中見たでしょ」


「だって、途中は川砂の溜まった泥っぽいとこしかなかったじゃない」


「・・・あれが東京人が感じる砂浜」


『え?』


私とはるなっちがハモる。


「あれ干潟じゃないの?」


割とはるなっちひどいこと言う。


「海岸=白い砂浜、とか恵まれた環境に住んでる人から見たらそうでしょうけど、ちゃんと砂の海岸。

歩いてみるとわかるから、後でいくよ」


「湘南とかにもっと白い浜があるのでしょう?」


「宮崎みたいなのイメージしてるなら、ないわ。富士山の火山灰とかが織りなす灰色の砂が基本」


「なんか思ったのと違った。東京人が集まるくらいだからワイキキみたいなのイメージしてた」


「いつのイメージよ。オズっちは感性が昭和よね」


海岸の砂質はともかく、橋を渡ってくるときの江ノ島に行く雰囲気がとっても良かった。

遠くに見えるヨットとか、そこに至るまでの海沿いの観光地っぽいおしゃれな店の雰囲気とか。


島の案内図を見ると、神社とかもあるのね。

あとは真ん中に蝋燭みたいな形の建物も見えたし。


住宅があるのもちょっと驚き。

この辺の雰囲気は港町独特の急斜面に家が立ち並ぶ感じが天草などで見た景色似てる。土地柄で建物の建て方も似たようになるものなのね。


駐輪場から歩いて、まず江島神社へと向かう。

路地のようなとこを抜けて、神社の参道へ。そしてとりあえず「ご挨拶」をしてから


「あの塔に登りましょう!」


とはるなっちが走っていくのでついていく。

でも、道はぐるっと回って目的地に行くようで、途中にある展望所とかからヨットハーバーを眺めたり。


途中にあるカフェなんかも立ち寄ってみたいとこだけれど、まずはあの塔を目指す。

冬の割には人が多く、確かにカップルが多いように感じられる。

いや、クリスマスイブだからと私がそう思っているからそう見えるのかも。


所々にある景色の良いとこで海を眺めると、太平洋と向こうに見える島影。


「この向こうはアメリカなのね」


はるなっちがそんなことを言うが、ペルーの可能性は考えないのだろうか


山育ちなので、海が珍しいのだろう。


私も海とかそんなに見ないので、ちょっとテンション上がって写真なんかもみんなでバシバシ撮ったりしてたので、割と時間がかかってしまった。

その塔は螺旋階段が中にあるのが見える。

私エレベータあるならそっち乗りたいな。


と思ってたら


「女子高生なら、歩いて上までのぼるのよ」


と変なテンションになってるはるなっちが率先して飛び込んでいく。

いやぁ、いつも歩いてないから堪えるわ。


とはいえ、私たち若いのでそんなに息も切らせずてっぺんに着くと。


カップルがぞろっといる隙間を縫って、景色を眺めることに。

江ノ島でもクリスマスな雰囲気が至る所にあり、ここにもそんな飾りとかがあったりする。


「うわー、いい景色!全部見渡せる」


そう言ってはるなっちは全ての面から島を眺めていく。途中にカップルがいようがお構いなし。

ヒナっちも割とテンション高く景色を眺めていて、色々と地形やら島の見えているものに対して説明をしてくれる。


「まさか、地元の友人とこんなとこ来られるなんて、思ってもなかったから」


とかちらっと言ってた。


「従兄弟の人とは仲良くないの?」


「年頃になってくると、何か私を女として見始めてて。

最近は一緒にいるとあんまし楽しくないし。なんか美人いとこがいるとかで男友達に自慢してたり、私を会わせようとしたりするからウザくって」


割とそんなもんなんだ。

自分には従兄弟と呼べる存在がいるのかいないのかよくわからないので、知らない世界の話を聞くようで面白い。

ヒナっちは綺麗だから、従兄弟がそんなこと考えるのも仕方ないのではないかな。

自慢したくもなろうと言うものだ。


お昼はその下にある灯台キッチン?とかいう店で軽く食事のようなおやつのような。


「バイク長く乗ってると、なんかお腹空かないの」


ヒナっちがそう言うが、私はそんなことはない。はるなっちも「長距離走ると食欲がなくなる」とか言ってたので、なんかそういう状態にならないとライダーとして一人前ではないのか?

心配になってくる。


今日のホテルの予定を話していると


「私も今日、同じ部屋に泊まるからよろしく」


ヒナっちがパンケーキを食べながらそんなことを言う


「二人部屋とったんじゃないの?」


「その部屋3人まで泊まれるらしいから、3人て入れといた。お値段は変わらないらしいから」


「ヒナミはタダで泊まる気?」


「はるなだって、オズっちからお金出してもらってんじゃん」


「2人も3人も値段変わらないならいいよ」


ヒナっちは私の言葉を聞くと、


「じゃあ、今日はよろしく。

私も200mの高さのホテルとか、泊まってみたいと思ってたのよ」


なんて嬉しそうに言うけれど。


「お父さんは放っておいていいの?」


「別に男と泊まるわけじゃないから大丈夫」


まあ確かにそうだけれど。


しかし、3人泊まれる部屋って一体どんな感じ?

昨日泊まったホテルでも、3台ベッド入れられそうな広さではなかったような。

それとも、床一面にベッドが敷かれてて、その上でゴロゴロして泊まる感じなのかしら。

それはそれで面白そう。


ホットの飲み物と甘味を吸収し、体力が一気に回復したところで、ヒナっちが


「今日はイブだから、とっておきのとこに連れていくわ」


と言って、そのあと連れてきてくれたのが


錠前がびっしりぶら下げられていて。

目の前で錠前をぶら下げてるカップルが何組もいるような、山奥の謎の空間に連れてこられてしまった。


中央に鐘があり、カップルが楽しそうに鳴らしている。

順番待ちしてるんですけど。


「ここ、いわゆる恋人たちの聖地ってやつ?」


はるなっちが反応する。


「そう」


「このたくさんの錠前は?」


「二人の愛が外れないようにだって」


「恋愛から結婚に至る確率なんて25%とか聞いたことあるわ。結婚してから離婚する可能性とか考えると、今の相手とうまくいかない確率の方が多いわけだから。

少ない確率にかけるよりも、別れる可能性を考えて、その際はさっさといい相手と出会うお願いとかにしてた方がいいじゃないの?」


そんなこと聞こえるような声で言うから、周りのカップルがじろっと睨んできたじゃない。

田舎の人は、話し声の基本音量がでかいのだから。


ヒナっちはニヤニヤして

「はるなはつくづく恋愛否定派ね」

と言うと

「恋愛はそれで儲ける人がいるから、その界隈の情報に踊らされてるだけよ。

人生のパートナーさえうまく選べたら、恋愛とかどうでもいいし」


なんてドライな。

私は一応、恋愛はしてみたいと思ってるのに。


「踊らされた人たちが、こんなとこでこんな錠前とかつけて鐘鳴らしてて嬉しがってんでしょ?ヒナミはなんで私たちをここに連れてきたん?」


また周りからの視線が痛い。はるなっち、口を開かないで。


「一応ね、私たちがここにきた記念に錠前ぶら下げとこうと思って」


もしや、ヒナっちは私やはるなっちのことをそう見てたのかしら?


「友情の錠前ってやつよ。ここで私たちの友情を誓うのよ」


なにそれ。なんかキャラ的にそんな人だったっけ?


「友情を誓うとか、そんなことヒナミ言うやつだったっけ?」


はるなっちがツッこむ。


「それは半分冗談で。実はこんなでかい南京錠もらっちゃって。

使い道がないから、こんなとこにぶら下げてみるのもいいかなと考えたわけ」


「なにそれ、蔵についてるようなの」


「従兄弟がくれた」


「なに、ヒナミ告白されたんか!」


「これ一緒につけに行こうぜ、ってのが告白ならそうだろうけど。

そういうの面倒だから、この南京錠もらって「友達とつけてくる」って今日出てきたわけ」


「それ、従兄弟さんがここで南京錠を取り付けて、その勢いで告白して、祝福の鐘を鳴らす、という流れを作っていたのでは?」


「そうだと思うから、できればそんな展開になりたくないから今日はこれ持ってきて、あなたたち二人の部屋に泊まるわけ」


「嫌いなの?」


「そんな意識してない相手から告白される可能性のある状況、とかいやじゃん。私はいとこは従兄弟、それ以上でもそれ以下でもない関係が理想」


「ヒナミも、割と苦労あるんだね」


「世の中、もっと簡単にできてたらいいのに」


そう言って、ヒナっちはガチャンと南京錠をはめて


「はい、これで私たち3人の友情がかっちりハマったってことでいい?」


「なんか、ヒナミの迷いし心をここに捨ててくるような感じだわね」


「従兄弟からの重たい気持ちをここに捨て去っていくことで、楽になりたいわけよ」


しかし、従兄弟さんがかわいそうな気もしないでもないが。

相手との気持ちのことを考えてない時点で、というか年に数回しか会わないだろうに見た目だけで付き合おうとか思っていたのかしらね。


女子を見た目だけで判断し彼女にしたい、と思う男子だったら私の敵だわ。


周りはカップルだらけなのに、私たちは3人で鐘を鳴らした。

外から一体どういう関係とみられたのかわからないけれど、こういうのもなんか楽しい。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る