第19話 母のカメラ

ダッダッダッダッツ


そんな音を響かせて、ガレージへと高藤先輩がやってきた。

ローソンまでは、はるなっちに迎えに行ってもらって、こちらは出迎えの用意をしてた。


といっても、はるなっちが出しっぱなしにしている工具類を片付けたり、ガレージを整理したり。

後は、リビングに座れるように座椅子とか座布団とか置いたり。


リビングにはソファーは置いてなくて、江川さん曰く

「これ、100万くらいする椅子だよ」

と言われたイームズラウンジチェアとかいう足置き付きの椅子が置いてあるのだけれど、体のサイズが合わなくて私はあんまり使ってない。

床にゴロゴロしてた方が楽だし。

あと、そんな値段が高い椅子とか聞くと、座って汚したらどうしようとか思ってしまうし。

でも江川さんはくるたびに座ってるけど。


リビングは玄関から続くような形になっていて、扉で一応区切れるようにはなっているけどほぼ素通し。いつもCBスーパーフォアで出かける時はガレージ側から出入りするので玄関はあまり使ってない気がする。

家の真ん中に大きな柱があって、そこを中心にリビングとガレージが分かれている。1階の半分はガレージでなのでバイクが3台くらい入ってきても全然大丈夫。


秋の乾いた風とともに、高藤先輩のSR400が入ってきて、その後ろからはるなっちのスーパーカブが入ってくる。

はるなっちのカブもドッドッと音がすると思ったけれど、SRに比べると全然おとなしいものなのね。


高藤さんのSR、タンクの色は綺麗な青い色で、ヘルメットもそれに合わせた色になってる。ジェットヘルにレトロなバイザーと、後は皮のオシャレなジャケットとかでレトロな感じに統一感があっておしゃれな感じがする。

それに、後ろにはサイドバックが付いていて、それもバイクの雰囲気に合わせてあって、かっこいい。


サイドバックかぁ

箱は嫌だけど、サイドバックあると便利かなぁ


と思ったけど、私のスーパーフォアにそんなのつけたらゴツくなって取り回しが悪くなりそう。

こんなスリムなバイクだからサイドバックも邪魔にならないのだと思う。


エンジンをとめ、ヘルメッとを脱いで先輩の一言が。


「何これ、すっごいおしゃれじゃない! 写真撮っていい!」


だった。

すぐにサイドバックから一眼レフのカメラを取り出し撮影を開始する。

ガレージの照明をつけたり消したり。


ガレージの中にSRを出したり入れたり。

外において撮影したり。


ガレージから家の中が入るように撮影してみたり。

なぜか私たちがリビングでくつろいでいる風を装って、バイクと一緒に写真撮られたり。


いきなり撮影会に突入してしまい、しばらくしてから。


「ごめんね、今の光の加減逃すといい写真撮れないから」


と言いながら、自分の撮影したものをチェックしてたりする。

ほんと、この人写真が趣味なんだわ。


「改めて、今日はこちらのお願い聞いてくれてありがとう!

予想以上の素敵な家でびっくりしちゃった」


高藤先輩は長身でスタイルもシュッとしているので全体的におとなしくお嬢様ぽい感じを受けるのだけれど、バイクに乗ってたりカメラを構えてたりする姿は学校で見かけるものとだいぶ印象が違って面白い。


割とアグレッシブな人なんだ。


そして、家の中を案内することになったので、1階のリビングへ入ると、あの高い椅子を見つけ「これ、ハーマンミラーのやつじゃない!」といって座ってたりする。

いいものを知っている人にはいいものがわかるのかしら。


二階の自分の部屋も見せてみるが、まぁ物も少ないので片付けるほどでもない。


そこで、先輩が食いついたのが私の持ってた一眼レフ。


「EOS 5D Mark IV じゃない! 私が使ってるの中古のMark IIIなのに、なんでこんないいもの使ってるの!」


と言いながら、早速人のカメラをガシャガシャ動かしている。

割と、この人欲望に忠実な人なのかもしれない。


そのカメラは母親からのお下がりで、自分では使いこなしてない感じがあって。

と言いながら、これまで撮影してきた庭の写真やバイク、山の写真などを見せてみると、少し渋い顔をされた。


「宝の持ち腐れ的な雰囲気があるわね」


割とはっきり言う、この人



「スマホと同じ感じで撮影するともったいないよ。

今日は、じゃあこのカメラ持って一緒に撮影して腕を磨きましょう」


とそんなこと言われてしまった。

このカメラの値段が自分のスーパーカブと同じくらいだと聞いて、はるなっちは


「しかし、さくらはほんといいものばかり親からもらっているのね。羨ましいわ」


「その代わり、本人たちがいないんだけどね」


「あ、ごめん」


「いやいいよ。本人たちはいなくても、こうやってもらったものがたくさんあるから」


そんな話を横で聞いていた高藤先輩は目元を拭いながら


「そうか、大津さんは苦労してるのよね、はしゃいじゃってごめんね」


「いえ、そんな。むしろ両親の残してくれたものにそんな価値があるというのしらなかったんで。教えてもらって嬉しいです」


と答えると、にっこり笑って


「なんでも知りたいことがあれば、私も手助けしてあげるから、家のものとかで使いこなせてないものがあったら教えてね」


と言ってくる。


あ、なんか、はるなっちと同じ匂いがするぞこの人。





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