第12話 競走
ヒナミと呼ばれたKTMのバイクに乗った女の子。
なぜか、はるなっちと仲が良くないようで、バイクメーカーについて罵り合っている。
その子は細く茶色い髪の毛が腰まであって、目の色も少し茶色っぽい。
綺麗とか可愛いとか言われる系統の顔つきなのだが、はるなっちと話している感じはかなりガラが悪い感じに見える。
イケイケ女子高生とガラの悪いハーフ女子高生が展望所で言い争いをしている状況をどうしたものかと見ていると、何か二人で話がまとまったようで二人ともバイクに乗ってエンジンをかける。
「どうするの?」
はるなっちに聞くと
「ケニーロードの下りでこいつと勝負することになったわ。
私たちは先に行ってるから後でゆっくり追ってきなさい!」
と言って2台のバイクはさっききた道を戻っていく。
スーパーカブって、そんな競争するようなバイクだったっけ?
そう思いつつ、とりあえず、私も後を追うことにした。
しかし、二人のバイクは排気量が私のよりちっちゃいのにあの速さはなんだろう。
コーナーをスーッと曲がっていくのはいまだに真似できない。
なか足出して曲がってるし。
もはや姿さえ見えなくなり、たまにすれ違うバイクが居たり。
何台かは手を振ってくれたけれど、私はカーブを命懸けで曲がっているのだからそんな余裕はない。
はるなっちの「ヤエーするときはこれだけ注意すること」に書いてあったことを相手にも読ませてあげたいところだわ。
下りのケニーロードはさらに怖かった。
最大で11%の勾配があったりするので下りのコーナーとかスピードが出過ぎて怖いし、カーブがきついし、かたがたするし、
同じ道でも登と下りじゃ雰囲気違うのね。
恐る恐る、道を下っていくと草原の風景がひらけてくる。
あ、こっちからいくほうが景色がいいんだ。
阿蘇山に手間に広がる草原と、なんか岩の山とかもあって海外の風景みたい。
ケニーロバーツという人が気に入った、というのはこんな風景を見たからではないだろうか。
それからも、きついカーブを恐る恐る走っていると、ひらけたところに展望所があるのが見えた、
そして、そこにさっきのKTMとスーパーカブが止まっている。
私が手を振りながら近づいていくと
「ハルナの友達もHONDA乗りなのね」
と私の方にヒナミと呼ばれた子が近づいてくる。
「その子、まだ免許取り立てだからレースとか申し込んだらだめよ」
「400ccに勝負とか挑まないわ」
なんか、さっきと違って、二人仲がいい感じに見えるんだけど。
他にも何台かバイクが止まっているけど、私ははるなっちの後ろに止めて
「競走はどうなったの?」
と私がヘルメットを脱ぎながら聞くと、
「私が買った」
と言ってはるなっちが手を上げる。
「今回は、対向車がUターンしてて邪魔をしたからよ。
また今度機会があったら私が勝つわ」
と言ってヒナミさんは拳を握る。
これはいわゆる、全力で勝負をすると仲良くなるというやつ?
いまひとつ二人の関係がよくわからないでいると
「この子はヒナミって言って、ヨーロッパのバイクに乗るミーハーなやつよ。
たまに私と、下りで勝負する間柄」
「友人?」
「友人ではないわ。ライバルって言ったとこかしら?」
そう言うとヒナミさんは
「ライバルとかじゃないわよ。ただの腐れ縁みたいなもの」
と言って、私のスーパフォアに勝手に跨ったりしてる
「てっきり仲悪いのかと思った」
「さっきのやり取り、あれは勝負の前にお互いテンションを上げるための儀式みたいなものよ」
「喧嘩じゃないんだ」
「KTMはHONDAが嫌い、って話があってね。そういうエピソードが結構あるのよ。それをお互い言い合ってるだけ」
それでも側から見ると十分仲が悪いように見えるが。
「ねぇ、これ私乗ってもいい?」
とヒナミさんが勝手に私のスーパーフォアに跨って言うのだが。
「戻ってくるなら」
「何言ってるの。このままあのローソンまでってことよ」
「私は何に乗ればいいの?」
「それ」
と言ってKTMを指さす。
「無理」
即答するとヒナミさんは降りてきて
「KTMの良さを体感させてあげようと言うのに」
すると笑いながらはるなっちが
「大事なデュークをこかされるわよ。桜はまだカーブとかへなちょこだから」
私はその横で力強く頷く。
「そう、残念ね。ま、でもまた学校で会うでしょうからその時にのせて上げるわよ」
そう言って、ヒナミさんは「これから家の仕事手伝いに戻らないと」と言って颯爽と西原方面へと去っていった。
結局、なんだったんだろう?
はるなっちから後で教えてもらったところ、彼女は熊本市内で海外のバイクを取り扱っている店の娘だそうで、イタリア人のお母さんと日本人のお父さんの間に生まれたハーフなのだとか。
小学校の時、はるなっちは熊本市内に住んでいて、その時の友人だとか。
中学生から南阿蘇へと引っ越し縁が切れたところ、阿蘇第二高校でまた出会ったということ。阿蘇第二高校に来たのは「バイク通学ができるから」らしい。
ケニーロードで会うと、いつもこうやって下りのレースを楽しんだりする仲と言うが。
それにしても、レースとか危ないじゃん
と私が言うと
「125ccと110ccだし、カーブがたくさんあってそんなに危ない走りはできないわ。ほぼ法定速度内しかスピード出せないし。
法定速度内で、コーナーをはみ出さないラインどりで、と安全なやり方でしかしてないわよ。レースって言ってもお互いがお互いの技量を確かめ合うためのツーリングみたいなもんよ」
だったらあんな喧嘩みたいなのしなくていいのに、と私が言うと
「どれだけ自分が、自分のバイクのメーカーを愛しているかの確認をしてる感じかしらね、まぁあなたもHONDAのバイクに乗っているのだから、メーカーについては学ぶ必要があるわよ。
なんなら、合宿中にみっちり教えてもいいけど」
「夜の勉強時間以外なら」
そして、そのまま阿蘇山登山道路の方へと移動していく。
というか、さっきの人の名前ちゃんと聞いてないけれど。
同級生のKTM乗りのヒナミさん、って覚えておけばいいかしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます