第4話 阿蘇南部広域農道
免許も取った。
バイクもある。
となると、後は実践あるのみ。
天気が良く、風も少なく車の少ない、夏休みの平日早朝に少し走ってみることにした。
観光地なので、土日には車が多くてあぶないし。
教習車と同じバイクのおかげで、そこまで緊張しなくて済むのがありがたい。
ガレージのシャッターをあけ、初めて外に父の残してくれたCB400スーパーフォアを押していく。
教習所で習った通りに、体重をかけながらゆっくりと。しかし重たい。私の体重の4倍くらいあるのかしら。
少し自分の体重のサバを読みつつそんなことを考える。
平なところまで来てセンタースタンドを立てる。
思い切り体重をかけるとなんとか立ち上がってくれた。
ガレージのシャッターを閉め、戸締りをして。
ヘルメットとグローブを身につけ、服装は木綿の長袖長ズボン。
まだプロテクターは買い揃えてないけれど、ゆっくり走るから問題ないでしょう。
サイドスタンドで立ててからセンタースタンドを倒し、CB400スーパーフォアに跨りエンジンをかける。
?
真ん中に液晶画面があるけど、これは何?
Nと出ているのは、ニュートラル? 時計も出てる。
クラッチを握ってギアを入れると、1になった。
ギアの入っているのを教えてくれるのか。
思わずクラッチを離すととエンストした。
何やらボタンを押すと表示が変わるらしいがよくわからない。後で説明書読んでおこう。
教習所を思い出しながら、もう一度ニュートラルに入れてエンジンをかける。
そして、ギアを入れて、サイドスタンドを倒す。
自分の体重がバイクに乗りサスペンションが沈む。
足はしっかり両足ともに地面に着くから大丈夫。靴はくるぶしまであるバスケットシューズを履いている。底が平な方が運転がしやすいという話を聞いたこともあるし。
ゆっくりクラッチを離しながら、スロットルを回すと
またエンストした。
どうやらもう少し回さないといけないらしい。
なかなかスタートできないぞ。
少しエンジンを回し気味にして、クラッチをゆっくり繋いでそろそろと動かし始める。
最初は両足をつけていたのを、足を地面から離し、そして思い切ってスロットルを開ける。
エンジン音が高まり、力強く前に押し出される。
あっという間に自転車よりも早くなるので急いでブレーキ。
そしてゆっくりと別荘地を抜けて下り坂を降りる。ここはカーブが連続しているので曲がる時が怖い。
倒して曲がると言われているけど、倒すと転けそうでやっぱり怖い。
右が特に、そのまま倒れてしまいそうでもっと怖い。
ニーグリップニーグリップ
頭の中で唱える呪文。でもくるぶしでバイクを押さえた方がいいとか教えてもらったので、それもやってみる。
足がつりそう
今日の目的地は、阿蘇南部広域農道。
広域農道、と呼ばれるところは道が広く車が少ないもので、走りやすいと地図にも書いてあるし、カーブが少ないのが良い。
ここを真っ直ぐ進むと、高森の方まで抜ける道となっている。もう少し技術が上がったら、ここから国道に出てぐるっと南阿蘇を回って走ってみたいけど、今日はここを、高森田楽村まで行って帰ってくる予定。
広域農道に入ると、車がほとんどいない。
しばらく走ると緩やかなカーブはあるけれどほとんど真っ直ぐと言っていいくらい。多少の高低差があるので、ジェットコースターみたいで楽しいし。
法定速度より少し遅いくらいで早めにギアを変えながら走っていく。
ギアを変えるのは4500くらい、5000回転以下でやるとちょうどいいくらいかな?回転数も見ながら慎重にギアを変えていく。
段々とエンジン音でその辺りがわかるようになってくると、少し心に余裕が出てきた。
慣れてくると流れる景色を目で追えるようになってきて、段々と近づいていく根子岳、近づいては遠ざかっていく牛の堆肥の匂い、朝の湿気のある草の匂い、木々の匂い、いろんな匂いも感じられるようになる。
背の高い針葉樹林の間から見える青い空、白い雲。夏の朝はなんとも気持ちがいいじゃない。
前後に誰もいない状態でこの道を走っていると、自分専用道路みたいでテンションが上がる!
と走っていると背後からバイクのエンジン音が聞こえてきて、気がつくとすぐ後ろに何かオレンジの昆虫みたいなライトしたのがいるのに気づいた。
私は遅いから、先に行って欲しい。
そう思って左によけると意図がわかったようでさっと追い越し、カラカラとしたエンジン音を響かせて走り去っていった。
あのバイク、ピンクナンバーだったけど。
あまりの速さに呆気に取られていると、向こうから今度は軽トラがすごいスピードで走ってすれ違っていった。
その後、背後から恐ろしいスピードで走ってくる軽トラに煽られたり、すごいスピードで走ってくる青や赤いいバイクに追い抜かれたり
農道なのにめっちゃスピード出しててみんな怖い
法定速度を確認する。
多分、みんなこの倍くらいで走っているんじゃないかしら。
最初の練習にこの道を選んだことを後悔していると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
途中にある別荘地のパン屋さんの香りらしい。
朝食をそこで買っていくのもいいかも
引き返してきたら買って帰ろう。
と思っていたのだけれど、結局帰りは国道を帰ってくることになりました。
その後もすごいスピードで追い越していく車やバイクに遭遇して、この道は危ない、もっとレベルを上げていくべき道だったと悟ったわけ。
高速道路みたいにみんな早い、道はそんなに広くないのに。
国道の方がみんなゆっくり走ってて安全運転だった。
広域農道、とか思って油断していると怖い道だったりすることを体験できたけど。
カーブを曲がるときが、まだまだ練習必要だと痛感したので、今度はゆっくり走れそうな、峠道を選んでみようと思った。
確か阿蘇吉田線は、制限速度が30とか40とかだから、大丈夫よね。
始めての公道運転は、怖い思いしたけれど、スロットルを開けて走り出す感じ、風を受けて、走る感じが心ときめかせてくれる。
なんだろう、この感じ。
幼い時に経験したような。初めて何かができた時に体験したような。
純粋に、楽しい、という気持ち。
母が亡くなって以来、久々に感じることができたように思える。
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