Magical dreamer:04「そりゃ、散々な目にあってきたさ」

 夢泥棒として生きていく以上、年長者のはなしに耳をかたむける思慮深さは必要かもしれない。とはいえ、いまのままではダメなのはわかっている。せめて、あのオボロを見返せるだけの夢を盗めるようにならなければ。


 スーシーをつまんでわたしは、

「オボロの下ではたらいていた先輩たちは、苦労したんですか」

 それとなくきいてみた。

「そりゃ、散々な目にあってきたさ」


 ミツキがいうには、オボロには限りのないほど〈逸話〉があるという。

 ノルマと納期はきびしく、守れなければ「愚鈍なオールド・ハッグ」といいふらされるばかりか、夢漬けのまましばらくほっておかれ、仕事後にたのしみにしている一杯さえ取りあげられるほど、ひどい仕打ちをされたという。

 あるとき、仲間との軽い立ちばなしをしている夢泥棒をみただけで、『あやしい』とオボロは彼をとらえて調べると、あまりの仕打ちにたまりかねて盗んだ一部をかくし持っていたそうな。

 ほかにも酒場で注文する銘柄がちがう二人をみかけただけで、『こいつらもあやしい』と感じ、調べてみると、やはりかなりの量をかくしもっていたという。

 オボロの勘のするどさは、夢泥棒とくらべても、はるかに勝っているといえそうだ。


「裏をかこうとしても、かならず見抜かれてしまうんだよ」

「そっか、心配してくれてるんだ。だから、わたしをちらちら見てくるんだね」

「いやいや、そうじゃないよ」


 ミツキは満面の笑みを浮かべた。


「オボロの下で働こうとする物好きな女夢泥棒の顔がみたいだけさ」

「物好きっていわれても……なりゆきなんだから。あ、ミツキ爺もオボロの下で働いてたんだ」

「まあな」

「嫌になったから、さっさと引退してバーマンになったんだ」

「いや、半世紀以上も働いたさ」


 意外だった。


「もっとはやく、彼から離れようとおもわなかった?」

「そういう輩もいたが、多くは文句をいいつつ引退まで仕事した」

「どうして」

「あの『へんくつな夢買い』の下で働いているというだけで、名のしれた夢泥棒になれたからさ。カスミもせいぜいがんばりなさい」


 左手をかかげたミツキにつられて、入ってきた扉へ顔をむける。

 フードをかぶる同業者たちが一人、また一人と、扉を開けて出ていく。


「また来るね」


 ミツキに礼をいい、わたしも彼らにつづいた。

 暗闇の中、こんどは急な階段をのぼるのかと扉をくぐると、

「あれ」

 見知らぬアーケードの商店街にでた。


 まわりの店舗はどこもシャッターを閉じ、新聞配達の自転車が一台、目の前を通りすぎていく。

 ふり返ると、〈宇宿辺ウシュクベ〉という看板がかかげられた店のシャッターが一枚あいていた。中をのぞいてみるも、酒瓶が陳列された薄暗く手狭な店内があるだけで、ミツキの姿はどこにもなかった。

 


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