Quiet talk:EX 夢之夢
Old hag attack:01「わたしには何もなくなった」
自分の昔を誇らしげに語る話ほど、つまらぬものはない。
誰かに語りたがる話はどれも、自慢や成功したときの話だからだ。夢見人は誰しも、自分が望む生き方をしたいと願っている。成功したがっているのだ。だから体験談や偉人伝から、成功の秘訣を聞き出そうとする。でもそれは、その人物自身がみつけた選択だからこそ成功できたのだ。
父と母はドイツで出会って結婚し、わたしが生まれたときには兄と姉がいて、夢泥棒が集まる街で育った。
だが、わたしたち夢泥棒には、夢見人がいう〈家族〉という概念はない。
振り返ると、よく生きてきたなとおもう。むなしい幼少期だ。しあわせな子供時代なんて語る価値もない。どの夢見人も、幼いころの惨めさを得意げに語りたがるものがいるだろう。だが夢泥棒の惨めさは比べものにならない。
親が子供にすることは、徹底的な夢抜きだ。ほしいもの、手を伸ばせば届くしあわせを与えては目の前ですべてを奪い取る。あたたかな料理。仲のいい友達。やさしい温もり。一度触れたら最後、取り上げられてそれらは二度と帰らない。
生きていることをすべて否定された。ひどい仕打ちをする親兄姉を憎んだ。その憎しみすらも、奪っていった。
父が消え、母が去り、兄姉はどこかへ姿を隠し、ただひとり、祖父だけがわたしに残った。けど、最後は祖父もいなくなり、わたしには何もなくなった。
いつのまにか、真っ暗闇の中でうずくまっていた。生も死もない。望みも願いも、すべて無とともにある世界。闇の世界が心の奥底まで広がり、闇とひとつになっていた。気がつくと闇の牢獄を抜け出し、夢を盗む力を身につけていた。それはまるで、心の渇き、むなしさを埋めるような行為だった。
闇の牢獄を抜け出して幾日後、自分がニューファンドランドにいることを知った。
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