第113話 この人らは手のつけようがない
なんてことをゆっくりと考えていられる余裕はないらしい。早く早くと無邪気な子供のように振る舞う二人を止められるものは、もう居ない。鏑木さんの手にも追えなくなってしまった。
こうなっては、もう流れに任せるしかない。こちらの持ち合わせているものは少ないが、そこは話の中で広げていくしかない。
「あまりのめり込みすぎないようにしてくださいよ。部室には他の部員もまだいるんですから」
「わかってるわよ。校則を破ってまでやることは無いから安心して」
「すいません。その安心してって言葉を素直に信用できません」
「ひどぉい……」
そう思うのは、これまでのあなたの振る舞いを見てきた俺なりの見解です。
「まぁ決まってしまったものは仕方ないので、時間の許す限りで話をしましょう。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いえいえ。こちらとしても、もういつものことですから、お気になさらずに」
今一度資料をデーブルに広げ、改めて自分の口から説明した。
話のメインキャストとなるのは、動乱の中自らの国を逃れた第一皇子と、逃れた先の農村でクラス一人の少女だ。ちなみに、そこからエキストラの他双方の関係者として、数名のキャストを増やすとのこと。
後付け案になったが、モブとなる兵士や村人役としてエキストラの募集を明日から数名募るとのことらしい。こういうのもこの人はよくやるんだと鏑木さんは言う。
流石に当日飛び込み参加可能の案は鏑木さんによって一蹴されましたとさ。
ストーリーの流れについては国の動乱の中、皇子が国を逃れるところから始まる。
逃げ行く末に疲れ果てて倒れて彼は、とある農村の少女に介抱され、しばらくの間をその農村で過ごすことになる。自らの身分を隠しながら。
次第に打ち解けていき、皇子は自身によりそう献身的な彼女の姿に心を打たれる反面、身分を隠していることへの罪悪感をも抱いていた。
そしてある日彼は決心した。自身の国を取り戻す。そしてそれが果たされた時には、彼女を妃に迎え入れることを。
自分の中で考えた大まかなストーリーはこんな感じだ。これに演劇部の方達がさらに手を加えていき、台本を作成するとの事だ。
「それじゃあ大体はこんな感じねー。こっからさらに捻っていこうと思うわけよー」
「はい」
「しかしこの演目の原案者はあなた達ですので、台本の作成や演劇の監督に関して、こちらから漫画研究部に依頼することがあるかもしれません。そちらにも他にやることがあることはわかっています。無理のないようにこちらも努めていきますので」
「いいんですいいんです。こういうのは私にとっては苦痛ではないんでぜんっぜんオッケーですから!」
ぜんっぜんオッケーじゃないです。勝手にあれこれやってたら、また槻さんに叱られますよ、戸水さん。
それにこれだけではなくて、文芸部方面でもやる事あるのを忘れないでくださいよ。
「質問等あればビシバシ言っちゃってくださいな!」
「オッケーわかった!」
「無理のない範囲でお願いします。うちの部長は後先考えないタイプなので」
「……わかりました」
揃って親指立てている部長コンビは差し置いて。そういう事務的な話はあちらを通しては行けないようだ。部室に戻ったら、俺の口から槻さんに伝えることにしよう。
そう思った時だった。
「大桑君。電話鳴ってるけど?」
「え……あ、ホントだ」
胸ポケットに入れていたスマホが震えていた。取り出してみると電話が来ていて――――
「失礼します」
鳴り続けているので、ひとまず出ることに。相手が相手なので。
「はい、俺です。あぁ、どうもお疲れ様です。戸水さんですか? はい……はい。今は先の連絡の通りに演劇部の部室にいまして……」
「大桑君?」
「あぁはい。わかりました。迷惑かけてすみません。はい、それでは。終わったら報告します」
電話を終えて、スマホを胸ポケットにしまい直した。
「誰からだったのよ大桑君。やけにかしこまっていたけど」
「はい。槻さんからです」
俺がにっこりとした顔でその名前を出したら、戸水さんがビシッと固まり出して。
「詩織……何て言ってた? 怒ってた?」
「くれぐれも向こうの方のご迷惑にならないようにと。あとは時間を忘れてのめり込むことなく、適度に時間を見て戻ってきなさい。と」
怒っていると言うよりは、全くだ。って言うような話しぶりだった。
こちらの独断でご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした。
「向こうにもご迷惑おかけしたようで……」
「もう……いいんです。いつもの事なんです……」
振り回されるのはもう慣れちゃいました。戸水さん以前に、俺の場合莉亜や葉月のこともありますから……。
「この資料はこちらで頂いてもよろしいですか? 台本作成に活用したいので」
「もちろんです。その為の資料ですから」
「ありがとうございます。なんだかこれ以上話を続けるとキリがつかなくなりそうなので、この会合はこれでお開きにしましょう」
「えー。もうー? まだ早いよー」
早いよー。なんて言っていますけども。よっぽど夢中になっていたのか時間の進み具合に全く気がついていないようで。
「もう六時前です」
「えぇーそうなぉー……」
「はい。時計は壊れても、壊してもいませんから」
「まだまだ話し足りない……そういえば駅までは同じだったわよね戸水さん」
「気が合うようねぇ……」
これは延長確定だ。二人限定で。
そんな御二方はほっといて。その後の話については俺と鏑木さんで進めていく。
「こちらの用意が出来ましたら、また連絡します」
「わかりました。よろしくお願いします」
以上を持って今日は解散となった。後日聞いてみれば、あの後戸水さんは向こうの部長さんと帰り道でも打ち合わせに勤しんでいたとかで。
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