第105話 ストーリー作りの心得
「さーてそれじゃあ……」
どっから取り出したのかは知らないが、莉亜は眼鏡をかけると意気揚々とホワイトボードの前へ。
「普段私がどういう感じで漫画のストーリー作ってるよか、ちょうどいい機会だから教えてあげようじゃないの」
「さっき同じこと言ったろ。それと、俺は教えてくれとは言ってないだろうが」
「うっさいわね。それにこれから演劇部依頼の脚本を作らなきゃいけないんでしょ? それにおいても、いい授業になると思うわよ」
「……お前がそう言うなら」
確かに演劇部の脚本作りとなれば、全員で携わることになるから、聞いておいて損にはならないか。あれこれ言うこともないので、ここは流れに身を任せることにしようか。
「おー。今日はりあちーとつぼみんがせんせーってことっすね」
「良い指導者というものは、部下からの提言にも耳を傾け、そして学ぶものだ。此度はこのヒナギク様がそなたらの手腕、刮目させてもらおうではないか」
「……なんで私まで?」
最初は莉亜だけだったが、いつの間にか蕾もボードの前にいた。
「あんたも同業者なんだから、黙って座ってないで何かしらしなさいよ。ただし私のアシスタントね」
「……それやる事あるの」
「まぁ不満もあるだろうが、引き受けてくれないか? 莉亜は同じ漫画描くモンとしてお前を選んでくれたんだし」
「……そう言うなら」
「ねぇ煌晴――、「ということで、やるなら早く初めてくださーい」」
なんでいつもあいつはあんたの言うことだけは素直に従うんだ。また莉亜にあぁ言われそうだから、無理やりぶった斬って先に進めさせてもらう。
「……まぁいいわ。今回は漫画描く工程ではなくて、その前のストーリーを練るところで」
そう言うと、マーカー持ってる蕾に何かを言っているようだ。それを聞いて、蕾は黒のマーカーでキュッキュと何か描き始めた。
「まずは一番の軸になる世界観ね」
「世界観……っすか」
物語の一番の要素となる世界観。現実世界、異世界、未来、過去。ゲーム内の世界など。主人公たちがどのような世界で物語を進めていくのか、というところだ。
「異世界ものって、すっごく流行ってますよね。私も前にクラスの友達に薦められたの読みましたし」
「そういうラノベ、いっぱいありますよね」
月見里さんと薫の発言に対して、莉亜からさらに追加で説明が入る。
理由の一つとしては、誰でも気軽に小説のかけるウェブサイトがあるからだと。そこにおいてそういうジャンルは読み手にも書き手にも、一定の人気があるからだそうで。
理由は多々あるそうだが、莉亜はこう言う。
「書きやすいから?」
「異世界ってその作品内だけでのオリジナルの世界だから、作者の自由に設定できるんです。それこそ多少の物理法則だって無視できちゃいますから」
「うわぁーなにそれ便利すぎ」
「でもデメリットって言うか、気をつけないといけないことだってあるんですよ」
オリジナルの世界を一から作る以上、どうしても専門用語が他のジャンルに比べて増えてしまうんだとか。国名や人名はもとより、魔法の種類や組織の名称。その他諸々うんぬんかんぬん……。
それをいかに読み手にわかりやすく、なおかつグダらずに説明しながら物語を進められるかが、書き手の手腕の見せどころなんだとか。
「まぁ詳しいことまで話すと長くなりそうなんで、今回はこれっきりにしときます」
「……やっぱり私いらないよね」
「いいのいいの。ホイホイ次々」
「……」
渋い顔しながらホワイトボードにまた文字を書く。次はジャンル。ちなみに、それとさっきの世界観という言葉が以外、ボードには何も書かれちゃいない。なんのためのアシスタントなのやら。
「ファンタジーとかラブコメとか。あとはホラーにミステリーとか」
先程の世界観と組み合わせることで、作品の中身や方向性がある程度は決まるそうな。
「この二つを先に決めてますね。これでけっこう描きやすくはなるので」
「いわば、基礎。固めておけば後々のことも考えやすい」
「アシスタントは大人しくしてくれないかしら?」
「やる事……ないから暇」
おいおい。こんなことで喧嘩すんな。同じ漫画描きなんだから仲良くやってくれ。
「次行ってくれ次」
「……わかったわよ。それじゃあ次は……キャラクターの設定ね。多くの作品は、主人公を中心に物語が進んでいきます。その物語を盛り上げる役割をするのが個性あるキャラクター達です」
「わかちーとか、個性の塊な気がしますよねー」
「名前や容姿はもちろんですけど、他にも性格とか好みとか特技とか。色んな要素によって一人のキャラが構成されているんです」
「あとは……主人公から見た立ち位置とか。家族とか友人。先輩後輩とか」
一人のキャラを構成する要素は沢山ある。それは物語に大きく関わらないモブキャラにも言えることだそうで。むしろそういう所まで疎かにせず考えるのが大事なんだとか。
「それぞれが違う中身があって、様々な関わりが物語に面白みを出すんです」
「そういうもんなのか?」
「……じゃあ煌晴君。ハーレムもので……すぐに思いつくヒロインの印象が、全部主人公大好きだったら?」
「……めっちゃつまらなそう」
てか人によっては腹が立ちそうだなそれ。
「そう。だから、個性は大事。でないと……キャラが死ぬ」
「キャラを立たせるなら、ギャップがあるとなおいいです」
「ギャップ……すか。例えばどんな感じっすかりあちー」
月見里さんの質問に、莉亜が具体例を挙げて答える。
「ちょっとベタなやつですけど、例えばクールで女子から人気のある女子がいるとします」
「ほうほう」
「実は猫とかぬいぐるみとか、可愛いものが大好きとか。男女問わず心を許した相手にはめっちゃ甘えてるとか」
「想像してみたらくっそ可愛いっすね!」
「そういうことです。そういう意外な一面があると、よりキャラが濃くなるんです」
つまりはその人の外見、第一印象からは想像つかないような振る舞いを見せるキャラってのは、より個性が現れるということだ。
「とりあえず、私の中で特に重要な要素を三つ。取り上げてみました」
「まずはこれらを決めていけってことっすね」
「ならば我に任せるがいい。このヒナギク様が……」
「ひなちーはある意味個性の塊っすね」
「私がネタキャラみたいに言うなっ!」
「えーっと……それじゃあ次はプロット……、話の大まかな流れについてをまとめたやつなんですけど、これについて……」
その後は向こうの会議に行った二人が戻ってくるまで、莉亜と蕾による説明会が行われた。
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