第104話 創作企画について
「それにしても、なーんでいきなり引き受けることになったんだか」
「分からないわよ。若菜が何を考えてるのかなんて、私達にわかると思う?」
「そーっすよねー……わかちーはだいたいそんな感じっすからねー」
翌日のこと。昨日のことについてを、月見里さんと干場さんは語っていた。
昨日の戸水さんの宣言通り、演劇部からの依頼を引き受けることになった。でもって今日はその会議のために、戸水さんと槻さんは演劇部の部室に行っている。
全員で言っても邪魔になるであろうと言うのと、残った面々で進めておいて欲しいことがあるからということで、俺らはいつもの通りに漫研の部室に集まっている。
「それにしてもどんなお話になるんすかねー」
「それは持ち帰ってくれないと分からないわよ。でも望みあらばというのであれば、このヒナギク様の手腕を見せてあげようじゃない」
「おーぱちぱちぱちー」
先輩二人。演劇部のことについて話しているのは結構なんですが。
「てか先輩方。もうこっちは揃ってますし始めませんか?」
もうこっち来る人は揃ってますし。
「あぁすみません。あれやこれやと話してたら気が付かなくて」
「何度も声掛けたじゃないですか……」
もう十分くらい前から揃ってますよ。二年のふたりであれやこれやと話をしていて周りのことが全く耳に入ってこなかったんでしょうに。
「ハイハイ。えーっとそれじゃあわかちーから預かってた伝言をば。昨日の演劇部云々とは全く関係なくて、元々あった文芸部絡みについてっすね」
話の中身については、昨日話すことの出来なかった文芸部との共同企画についてだ。
昨年は文芸部とともにフリーマーケットの手伝いをしていたそうで、今年もそうなるであろうとのこと。
「まぁちょっと店番をしてくれってことっすね。クラスの出し物なんかもありますし、文芸部からも人が出ますから、二日間のどちらか三十分から一時間くらいで大丈夫っすね」
「店番ですか」
「そんな難しいことじゃないから気負わなくっていいっすよこうちん」
そしてそれに加え、文芸部との共同制作の作品を販売できることに。チャリティー目的の為、売上は全て、地元の医療機関に寄付されるとの事だ。
「オリジナル作品かー……。ってことは、りあ姉の描いた漫画も売られるってことですよね?」
「おーりあちーも描くんすかー」
「まだ描くとは決めてないですけど、やらせてくれるのなら是非やらせてください!」
漫画が描けると聞いてか、早速気合十分な莉亜。そういやこれまで、俺と葉月以外には自分で描いた漫画を見せたことがなかったんだっけ。
「りあちーがやるんだったら、つぼみんもやるんすか?」
「私も……ですか?」
「つぼみんだって漫画描いてるんですよね? 私つぼみんの漫画も読んでみたいっすわ」
「そう……ですか」
顔赤くデレデレとしてる蕾。そのあとは言葉が出てこないでいた。
「私、は……その……」
言葉が出ないでいる蕾だけど、その様子は時折見る莉亜のようなものを感じた。漫画を描きたくてうずうずしている莉亜に、よく似ている気がした。
「やってみたらどうだ? 参加するだけなら自由なんだし」
「煌晴……君?」
「なんか……すげー漫画描きたそうな感じがしてさ。なんて言うか、莉亜に似てる気がしてな」
「え私ってあんなんだった?」
「新作を考えてる時のお前はあれに似てると思って。ソワソワしてる感じが」
早くペンを握りたい。絵にしたい。そんなソワソワというかワクワク感と言ったらいいのか。早く描きたくてうずうずしている莉亜が脳裏に浮かび上がってきたんだ。
「私もお兄ちゃんに賛成! 蕾ちゃんの漫画も読んでみたい!」
「僕もいいんじゃないかなって思う。後は、宮岸さんの気持ち次第だけど」
葉月と薫も、蕾の企画への参加を後押しした。それを受けてか、蕾も決意を固めたようだ。
「なら……やってみよう、かな」
「そいじゃあ決まりっすね」
「それで月見里先輩。なんか決まり事ってあるんですか? 中身については自由ですか?」
「えーと。ちょーい待ってけろ」
莉亜の質問に対して、月見里さんは戸水さんから預かったのであろう書類の束をパラパラとめくり始める。しばらくして書類のうちの一枚を莉亜と蕾に見せる。
そこに書かれていたことについてをまとめるとこんな具合だ。
文芸部、漫画研究部の代表者から数名を選抜。それぞれについて『秋』をテーマにした一話読み切りの作品を作成。一人あたり二十ページ以内とする。
「シンプルなテーマなだけに、どういう話にしようものか悩むわねぇ」
「秋って一言に言っても色々あるよね。スポーツの秋とか読書の秋とか」
「あとは食欲の秋なんてのもあるよね。あ、食欲で思い出したけど、この前あんたが煌晴と行ったカフェについてなんだけど……」
「あぁ。それだったら……」
「待て。その話は部活終わってからにしろ」
ちょっと気が緩めばすぐに話が脱線してしまうんだから。放って置けないのは戸水さんに限らず、こっちも同じことだ。
「とまぁ文芸部との共同企画でそういうことをするってことですね」
「そういうことっすね。で、どうするんすか? 話すことはこれで全部ですし、早速どういう話を描くのか考えます?」
「そうですね。二ヶ月なんてあっという間ですよ」
部活の時間はまだあるので、このあとはどういう話を描こうかと言う話になった。
「それに二十ページ以内かぁ。結構短いなぁ」
「読み切りですからねぇ。わかちーが気合い入れたら、それこそラノベ五巻分の長編とか作りそうっす」
「何文字分だそれ」
俺の素朴な疑問に莉亜が答えてくれた。ものによってばらつきはあるが、だいたいで六十万字だそうだ。
「それでどんな話にするんだ」
「まずはプロットから練らないとね。話の根幹と言うか筋道というか」
「それってどうやって作るんだ」
「ほーう。気になるの煌晴?」
あ、いかん。これは変なスイッチを入れてしまった。
「いいわよ。ちょうどいい機会だから、私がどうやって漫画を作っているのか、そのプロセスを教えてやろうじゃないの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます