第80話 水着選びと気になるもの……?
目的の売り場まで向かう道中、戸水さんがあちらこちらと目移りして集団から離れていきそうになる場面もあったが、そこは引き止めてやる。でないと本来の目的が果たせないじゃないか。
「大桑君のいけずー……」
「時間なくなりますから。さっさと水着を買いに行くんじゃなかったんですか」
先輩の面倒を後輩が見なくてはならないとは。
「さてとここですかね」
「いっぱいあるのねー」
数分歩いていけば、目移りするほどにたくさんの水着が並べられた専門店に到着。
「さてとそんじゃあ。サイズは各々わかってますかね? もし不安があるなら店員さんに測って貰いますけども」
「葉月とりあ姉は大丈夫です。昨日測って来ましたから」
家に帰ってくるやすぐ、葉月の部屋で二人して測ってたっけ。お兄ちゃんは入って来ちゃダメだよって言われたけど、入らないから。
「あ。そういやちょっと大きくなってるかもしれない……」
「四月の時の数値、覚えてない……」
「そいじゃあわかちーとつぼみんは測ってもらうとしまして。こうちんは?」
「俺はいいです。そもそも水着買いに来たんじゃないので」
「ならなんで……と思いましたけど、妹さんに連れてこられたんでしたね」
「ご理解いただき何よりです」
これ以上変につつかれないだけありがたい。ただでさえ今でも落ち着かないってのに、これ以上俺の心理をえぐってくるような発言されちゃあ敵いませんから。
「俺は連れてこられただけなんで。感想とかは期待しないでくださいよ」
「まぁ気楽にしててくださいよ。そいじゃあ先にりあちーとはづちーからにしますか。なんかこういうデザインがいいとかってあります?」
月見里さんが莉亜と葉月に聞くと、二人は各々のスマホを取り出して月見里さんに見せてくる。
「葉月はなんかこう……こんな感じの大人っぽい感じでお願いします」
「私はこの、最近流行りのやつで」
「ほいほーい」
「それより、月見里先輩はいいんですか?」
「私? 私は最後でいいっすよ。皆にアドバイスすることになりそうっすから。何かあればなんでも言ってください。できる限りで手伝いますから」
水着を選ぶのはちゃんとした知識のある月見里さんに任せたほうがよさそうだ。素人は黙って、大人しく引っ込むことにする。
「店員さーん。ちょっといいすかー」
「はーい。如何しましたか?」
月見里さんが近くを歩いていた若い女性の店員さんに話しかけると、蕾と戸水さんの背中を押してその人の近くまで歩み寄る。
「水着を見たいんですけども、わかちーとつぼみん。あぁこの二人なんですけども、サイズ測ってもらってもいいですか?」
「はい。かしこまりました」
「お願いします。それじゃあそっちはそっちで。私はりあちーのから探しますか」
蕾と戸水さんは店員さんにスリーサイズを測ってもらい、莉亜と葉月は月見里に手伝ってもらいながら水着を選んでいる。
大して俺には出来ることが何も無い。水着に関する知識なんてほとんど無いし、ましてや男なんだから水着を選ぶ手伝いなんてもってのほか。
しばらくして、二人が選んだ水着を試着室で着替えているのを、スマホをいじりながら待っていた。詳しい知識もないし、俺に出来ることなんて率直な感想を述べるくらいしかないだろう。
しばらくすると、チョイチョイっと、俺の右肩を叩く手が。振り返ってみるとそこに居たのは戸水さんだった。
「あ。もう採寸終わったんですか」
でもって彼女はどこから取り出したのかスケッチブックを持っていた。
俺の質問に対して黙ってこくんと頷くと、持っていたそれを何枚かパラパラとめくっていく。俺に向かってこんなこと書かれたページを見せてくるのだ。
どっちの水着から先に見ようか?
☆やんちゃな幼馴染から
健気で可愛らしい妹から
なんで、ギャルゲーの選択肢みたいになってんの。乗っかった方がいいの? それともツッコんだ方がいいの?
「なんです。それ」
「よくあるじゃないこういうの。大桑君的には、どっちが気になるの?」
「いきなり聞かれても困るって言うか、そんな聞かれ方をされた時点でどう反応すれば良いのか……」
なんでいきなりこんなシチュエーションというか、そういうノリを持ってこられなきゃならないんだ。
この人なりに少しでも緊張ほぐそうとしてんのか。それとも単に遊んでるだけなのか。
「お兄ちゃーん。着替え、終わったよー」
「月見里先輩。私も終わりました」
「ということでこうちーん。こっち来てくださいよー」
月見里さんが呼んでいる。二人の試着が終わったようだ。
それでもさっきの戸水さんの話は途切れることなく、勝手に進行していく。
「大桑君は先に選ぶとしたらどっちから?」
「どっちでもいいでしょう。てか両方同時でいいじゃないですか」
「ロマンがないなー大桑君は。ここでどっちのルートに転ぶかが決まるんだから」
「勝手にギャルゲー世界に持ち込むのやめてくれませんか」
仮にそうなったとして、葉月は血の繋がった双子の妹なんだから、ルートは必然的にひとつしか残らないけども。
「ともかくもう行きます。戸水さんも早いとこ水着選んだらどうですか」
なんか言っていたような気もするが、これ以上話し相手するのも疲れるから無視しとく。
「お兄ちゃん遅いよー」
「そんなに待たせちゃいないだろ。せっかちだな葉月は」
試着室のカーテンから頭だけ出してる葉月と少し話してから、カーテンが一気にオープン。
黒の上はビキニタイプで、下にはスカートのようなフリルの着いた水着だ。こういうフリル、確かパレオって言ったっけ。
「どうかなどうかな!」
「こんなことしか言えないが、よく似合ってる。なんかいつもより大人っぽく見える」
「そうでしょそうでしょ! これ月見里先輩が選んでくれたやつ!」
「フリルとかは無しにして、ちょっと背伸びしてすらっと見えるヤツ選んでみました」
水着は大人っぽい。けどその場でぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいると、可愛らしいがせっかくの大人っぽさが薄れてしまう。
「煌晴。私のはどう?」
「りあちーのは今流行りのやつで、色合い的に似合いそうな青にしてみました」
続いて試着室のカーテンの向こうから出てきた莉亜の水着を。流行りと言うから少し凝ったデザインなのかと思ったが、意外にもシンプルなビキニだった。
「ど、どうなの煌晴?」
「あぁいや、流行りのって言うからもうちょい派手なっていうか凝ったやつかと思ってたから」
「なんでも、無駄に凝ったやつよりシンプルな方がかえって良かったりもするんすよ。パフェとかあれこれいろんなもの盛り付けるより、無難なやつの方が案外美味しいもんだから」
月見里さん。その例えはよくわかんないです。
「りあ姉のすっごい可愛いよ!」
「ありがとう葉月……ちゃん」
「どうした莉亜。サイズがきついか?」
「そうじゃない……けど」
莉亜の視線の向く先は、葉月の胸の方。品定めでもしてるような鋭い目をしている。対して葉月はなんのことなのかわからず、キョトンとしたまま。
殴られそうだから言わないでおくが、何となく莉亜の考えてる事は分かる。
「二人とも気に入ってる見たいっすね。りあちーのあの顔は……胸のことすか」
「だと思います。汲み取らないでいただけると」
「わかってますって。まぁ何となくはづちーの方が二センチくらいは大きいような気はしてましたけど」
「大体であればわかるもんですか」
「友達のたくさん見てきましたから。服越しだと難しいっすけど、水着とか下着状態なら、目測でわかるくらいにはなりました」
「そう……すか」
そのほとんど役にも立たない特技を、男に向けて親指立てて自慢するのは如何なもんかと思います。
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