第65話 何の話をしてたのやら
赤くなってるって言ってもほんのりとだから、近くにいないと分からない。
周りに聞こえないくらいの声量でこっそりと宮岸に聞いた。
「どうかしたか」
「……なんでも、ない」
「なら、いいんだが。辛かったら無理せず言えよ」
ぷいって俺のいる方とは反対向いちまった。より一層顔を赤らめて。なんかもう、迂闊に変なこと聞けないな。
他の皆は宮岸の些細な変化には気がついていないようで、雑談は進んでいく。
「ベタな展開になるけど、下駄箱開けたらラブレター入ってたとか。体育館の裏に呼び出されたとか」
「逆にそんな漫画みたいなイベントが発生するんすかねーりあちー」
「ありますよ。そういう経験」
「……え?」
そう答えたの、薫でした。
なんだろう。薫のことだからオチが容易に予想できる。
「一応……聞いてもいいか」
「薫ちゃん、聞かせて聞かせて!」
「あぁはい。中学の話になるんですけども……」
中学の時、薫は男女混合のバトミントン部に所属していた。見た目や振る舞いもあって、部内でも一二を争う人気者だったそうだ。
話によれば中学二年の時だそう。薫のいた中学では、二面ある体育館をバトミントン部の他に、男女バスケ部と女子バレー部でローテーションで使っていた。
ある日のこと。二面ある体育館をバド部と男子バスケ部で使っていた。その時にバスケ部の一年がバド部の練習をしていた薫に見入ってしまったそうな。
もうこの辺で。というよりも詳細聞く前からお察しはつくが、薫の話はまだまだ続く。
秋のこと。定番の体育館の裏ではないものの、校内でもあまり人気のない場所に呼び出されたんだと。
そしてお付き合いしていただけませんかと言われたんだと。薫はお友達であればとやんわり断ったそうなんだが、向こうはどうにも引き下がらなかったそうで。
でもって薫が男であると逆に告白したら。最初は信用していないみたいで、それでもようやっと説明してやったら。
告白した側のバスケ部の男子。しばらくはまともに薫のことを見られなかったんだとか。
「薫ちゃんらしいわねー」
「今こうして思うと、この子中々ヤバいんじゃないの?」
俺の中ではこの部で一番ヤバそうな振る舞いしている貴方がそこまで言いますか、干場さん。
「可愛い顔して、これまでどれだけの男に地獄を見せてきたと言うのよ」
「天国を見た人もまれにいるんじゃないかしら? そういうのもあるって言うし」
いましたねーうん。この前にね。一度地獄を経由してのあれにはなりましたけどねー。
「しかも……」
「友達からもくそ可愛いとか結構言われてて。実は三年の時にも似たような経験があって……」
「ほうほう。なかなか業が深いですなぁー薫ちゃんも」
「自分がヤバいっていう自覚のない桐谷さんが怖いんだけど煌晴」
「うん。りあ姉に同意だよ」
まさしくその通りだよ莉亜。可愛い顔して人を選んで発作でも起こす毒でも振りまいてるんじゃないかって勝手ながら思う。
「思うんだけど煌晴」
「なんだ」
「変わった人が多いってずっと思ってたけど、なんか闇の深い人も多いんじゃないのこの部活?」
それ、今言いますか。確かに個性とは違った変わったの沢山いるけどさぁ。
コロコロ肩書きのかわる厨二病先輩だったり。真面目そうな部長に見えて超絶ドMだったり。
振る舞いというか心の内ががもはや小悪魔を超えちまって大悪党な男の娘。
でもって兄離れできない妹に時々行動が横暴な幼馴染……。
「煌晴。サラッと混ぜ込むようにして変なこと考えてないわよねぇ」
「なんのことだかさっぱりですねぇ」
「その明らかーに興味無さそうな顔が嘘を物語っているのよ」
「気の所為だ気の所為」
だから後頭部を思い切り鷲掴みにするのはやめていただけませんかねぇ。なんか指までくい込んできてものっそい痛いんですけど。
「お兄ちゃん。りあ姉怒らすと怖いよ」
「うん。よー知っとる。てなわけで止めてくれませんかねぇ葉月。葉月から言ってくれるときっと止めてくれると思うんだけど」
「お兄ちゃんごめん。りあ姉こうなると手が付けられない」
「煌晴大変だねぇ」
「他人事みてぇに言わねぇでくれませんかねぇ薫」
このまま大人しく莉亜が引き下がっているとは思えませんがねぇ。てか薫。来たのなら茶化してないで何とかしてくれませんかねぇ。
あとは宮岸。何とかしてくれ……。
「宮岸。何とかならない?」
「……無理。この人いちいち厄介で手がつけられそうにない」
「勘弁して」
「一番付き合いの長い貴方がどうにか出来ないのなら、私には無理」
「冷静な判断されるのが怖い」
宮岸ってすごい冷静って言うか、すごく淡々としてるというか。サラッと毒を吐いてくるっていうか。
てか思えばこれってなんの話だっただけか。
思い出話だったっけ。薫を始め、ここの部員はみなヤベー奴揃いって話だったっけ。
それとも思い出話でしたっけか。
「ハイハイ一年で喧嘩をしないの。どんどん話が逸れていっちゃうんだから」
「若菜が言っても説得力皆無なんだけどなぁ」
「おー。しおりんが言うとすごーく説得力が」
「主らも怖い者よなぁ」
「ひなちーも大概っすけどね」
二年も二年でなんかビリビリしてんのは、俺の気の所為ではないことをお祈りしたい。
「ともあれ色々ネタは集まったわね」
「あ。そういやそういう話でしたね色々話してちょっとでも脱線しちゃうとすーぐ忘れちゃうんすよねぇ」
「それが私たちなのよねぇ」
それをあっさり認めちゃうのはどうかと思いますよ槻さん。とうとう戸水さんに毒されました?
うちの部活はいつもこんな調子だ。それでもそれが様式美というか、もう当たり前というか。
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