第64話 思い出話のその中に
「語ることなんてほとんどないですよ。だいたいの内容、莉亜と葉月の話すことと同じになりますから」
「いいのよそんなことは。ほれほれ話してみんしゃい」
ひとまず空いてた席に宮岸と隣同士で座る。
今更だが、部長である戸水さんが入口から一番遠い席に座るってこと以外は、特に座席は決められていないのだ。俗に言う上座ってやつ。
それでたまーに喧嘩になることがあるんだよ。と言っても葉月絡み限定だがな。
とりあえず俺が来るまでの間に、莉亜と葉月が何を話していたのかについては聞いておく。ネタ被りは勘弁なんで。
戸水さんの小学校のアルバムを開いていたと言うので、主に小学時代の思い出になったと言う。遠足に行ったとか、運動会あったとか。
まぁ小学校の思い出というか行事としては鉄板なものばかりで。そんなもんだから。
「ということで。なんか変わったエピソードとかないの?!」
月見里さんからこんな無茶振りをされるわけで。後から話すのって辛いなー。
「他、特に話すこともないんですけど。戸水さんのネタ探しのことを考えれば、学校でのことですよね」
「そうなるっすねー」
「そうなるとー……あ」
この場で話しても良いものか悩んだか、他に話すネタが思いつかないからしゃあない。
「これは五年の頃の話なんですけど」
「うんうん」
「八月のことでしたかね。夏休み真っ最中だったんですけど」
夏休みの課題のひとつ、自由研究。誰しも何をしようか、何を作ろうかと頭を抱えたことがあるだろう。六回も別のネタなんかそうそう簡単に用意できねぇっての。毎年違うネタ考えるのも大変なんだぞ。
「私何やりましたっけねー。ぜんっぜん覚えちゃいない」
「僕は毎年工作にしてたかなぁ。個人的には楽だから」
「……ん?」
とまぁ愚痴はさておき。話に戻ろうか。五年の時にだ。いつもってか毎年の恒例というか。莉亜が相談に来るんだよ。自由研究何やろうかって。
それで五年の時、夏休み終了の一週間前になって、自由研究やってなかった莉亜が家に来て相談に来たんだよ。それで……。
「ちょ待って煌晴ストップストップ!!」
「話されるとまずかったか?」
「まずいってもんじゃないわよてかなんでそんなこと覚えてんのよ!」
「まぁ……インパクトが強かったし、なんてっか……」
「やめやめ話すのやめ思い出したくないから。てか止めんなてめぇ!」
両手をじたばたとぶん回しながら迫ってくるもんだから、左手で頭を掴んで止める。
「大変なのね」
「何かと世話のかかるやつだったからな」
「呑気にそいつと、ほのぼのと話してんじゃないわよあんたわー!」
流石に可哀想なんで、話すのはやめにしておこうか。
「真相は闇の奥底に、ということか。其方もついに魔力を宿したと言うことか」
「何でもかんでもそういうことに繋げないでください」
「其方には素質があると言うのになぁ」
そういや今日の干場さん静かだなぁとは思ってたが、出てくるタイミングを伺ってたんでしょうか。てか素質ってなんのだよ。
「なんだったんすか結局」
「あぁ。莉亜になんか悪いと思ったんで、話すのやめときますね」
「そーっすかー」
「ったく勘弁して欲しいわよ」
それはこっちのセリフだ。普段どれだけ俺が莉亜に振り回されたと思ってるんですか。と言いたいところなんだが心のうちにしまっとこう。それにそろそろ止めてる左手も限界なので。
「じゃあ他なんかないんすか?」
「他かぁ……」
学校行事以外の思い出ってなると、だいたいあの二人に振り回されましたという思い出しか浮かんでこないんだよなぁ。
「自分の母校でしかなかったような行事とか……すかね」
「あるもんなんですかねぇ。なかなか行かないような場所とか?」
「んー。僕の通ってた小学校でなら、五年と六年の時にスキー遠足に行ったんですよ」
「え、スキー行くんすか何それ羨ましすぎる!!」
薫の話によれば、冬になると県の南西部にあるスキー場に行ってスキーを経験するんだとか。
それからスキーやってみたいとかいう話になって、しばらく脱線した後に本来の話に戻っていく。
「他なんかない他!」
「でも学校行事抜きってなると、なかなか厳しいっすね。むしろ定番行事とかで考えてみたらどうなんすか?」
オリジナリティというか、独創性を出そうとして変わったものを発掘しようとするよりは、遠足とか運動会のような定番イベントを深く掘り返して行った方がいいと思う。その方が色々とネタが出てくるのではないかと。
「遠足で行ったところをあげていくとか?」
「どこいったか忘れた!」
「歩くのしんどかった!」
片道で数キロは歩いたから疲れたっていうのが大半の感想だった。
「運動会のリレーで裸足で走ったとか?」
なんですかそれって、莉亜が戸水さんに聞いたら、最後の代表リレーで六年の男子は裸足で走っていたんだとか。
「障害物競走の粉から飴取り出すやつとか、パン食い競走でとにかく食欲に飢えたやつが暴走した一件なら……」
気合いの入れ方を間違えたやつですねそれ。ちなみに俺らの通ってた学校にはどっちの競技もなかったっすね。
「正直言って文化祭はつまらなかった」
「煌晴に同感」
「お兄ちゃんとりあ姉に同意」
「小中学校のはマージでつまらんっすからねー。あぁうちの文化祭は県内でも結構有名で楽しいっすよ。商業高校のそれには敵わないんすけどね」
「でも面白いのは湊の言う通りよ」
高校からは模擬店もあるし、ステージ演目もこれまでの比じゃないくらいに盛り上がるんだと言う。それに校外からもお客さんがたくさん来るんだと言う。多くの人が集まるってのが一番の違いだそうだ。
「遠足に運動会に文化祭。他って何があったかな?」
「出てこないもんっすよねー」
「これでもネタとしては十分描けそうですけどね」
同人誌を描くなら十分だと思うがね。
「あとはもうちょい掘り返してだなー。もしくは何の変哲もなかった一日かと思ったら、なんかドキッとするようなイベントがあったとか」
「告白とか? いやいやそんな経験ないない」
「煌晴がそんなことあっただなんて思えないけどね」
「お兄ちゃんがねー」
確かに、誰か女子にそういう恋愛的な告白された経験はないけどさぁ。そこまで言われちゃうと悲しいんだが。
「そういうイベントなんて、そうそうあったもんじゃないけどね」
「だよなー」
「告白じゃなくても、自分を変えるきっかけになるようなことがあったとか」
「詩織はもうちょいロマンチックな考えをねぇ」
別に変なこと入ってないと思うし、それもまたひとつの学園イベントだと思うがな。
それにしても……なんでさっきから宮岸の顔が赤いんだか。
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