第63話 昔のことを振り返りたい
「こんにちはー」
「お。よーっすお二人さーん」
部室に着てみると、中央のテーブルの上には色んなものが散乱していた。
「何してるんですか」
「あぁこれね。次のネタにならないかーって、若菜が家から持ち込んだものなの」
「これ全部……ですか?」
「全部じゃないわね。ここに置いてあったものもいくらか混じってるわ」
一部にしたって、かなりの量がある。これだけのもんを一体どうやって持ってきたんだ。
「またいっぱい持って来て。思えばそろそろ部室の掃除をしないといけないわね」
「うぇぇーマジすかしおりん。と言っても、もう七月っすからねー」
「部室の掃除?」
「学期末には部室の掃除をすることになってるの。でないとどんどん物が溜まっていっちゃうから」
槻さんにそう言われて、部室の中をぐるりを見回している。確かに入部当初と比べてみれば、随分とものが増えたようには思う。
「誰かさんのように、ここを自分の部屋みたいにあれこれと色んなものを持ち込んでは放置する人もいるから。直ぐに散らかってしまうのよ」
「ぐっ……」
槻さんは、戸水さんのことを呆れた目をしてみながらそう言う。呆れてると言うよりはあの目、笑ってるように見えて怒ってません?
「今日みたいにあれやこれやと持ち込んでくるんだから」
「どれも必要な資料なのよ!」
「掃除の度に、要らないものが沢山出てくるのよねー。整理する側としては困ったものでねー」
「春休み前なんて何が出てきましたっけ。今回は何が出てくるのやら」
もはやそれは宝探しではなくゴミを探すような作業ではないかと思う。
そういえば入部当初にあの棚の中の物を色々引っ張り出してたときがあったけど、あの時は空のペットボトルとかガムテープの芯が出てきたんだっけ。
その後も何度か中の物を引っ張り出すことはあったけど、その度にゴミが出てくるんだよな。この前なんて映画の半券が入ってたし。
「まぁ掃除をするのは今月末ね。若菜はそれまでに少しでも私物を持ち帰ること」
「はーい……」
このしょぼくれた様子だとめちゃくちゃありそうだな。
「それで。このテーブルの上の物は?」
「わかちーの卒アル。こっちは小学校ので、今私が見てるのが中学のやつ」
「はぁ。なんでいきなり?」
テーブルの上に置いてあったのは、戸水さんの卒アルと、その他もろもろ。良く目を通してみれば、クラス写真とか卒業式文集とか。
「次の同人誌のネタ探しって言って、押し入れから引っ張ったみたいっすね。あ。コレわかちーすか」
「そうそうそれね」
「なんかちっこく見えるっすね。隣にいるのと比べると」
「それは隣の子が他に比べて背が高かっただけよ」
見ているとネタ探しではなく、思い出に浸っているようにしか見えない訳だが。まぁ本来の目的から外れることなんてもういつもの事だから、あぁいつもの光景か。くらいにしか思わなくなった。そんな自分が少し怖い。
「それでどうしたの急に」
槻さんが聞き直したところで、戸水さんが答える。
「次のネタとして、SBMの学パロメインで描こうって思ってるの。それで昔ってどんなことがあったかなーってのを思い出すためにね」
「昔のことを振り返ってるわけですか」
「そゆこと」
それでも先に来ていた月見里さんと、莉亜と葉月の四人で小さい頃のことを話していたんだと。
「戸水先輩はー……あ、あった!」
「小さくて可愛らしいですね」
莉亜と葉月が、戸水さんの小学校のアルバムを開いては、クラス写真のページを見ていた。
「どれすかどれすか!」
「これですこれ。今の戸水先輩をそのまま小さくしたような感じで!」
「ほー、わかちーにもこんな時期があったんですなー」
逆にそんな時期がなかったら怖い所の問題じゃねぇよ。子供時代がないってなんだそれ。俺らいきなり誰かさんの手によって造られた人造人間でもアンドロイドでもあるまいて。
「こうしてアルバム読み返していたら、昔のことを色々と思い出しちゃって。こんなことあったんだなーとか」
「昔を振り返りたくなるのは分かりますけども、なんでわざわざ学校にまでこれ持ち寄ったんです?」
「……なんでだろう?」
本人がこれで果たして大丈夫なんだろうか。その場、その時の勢いってやつに身を任せたが故の結果ということか。
「卒業文集は? なんて書いてあるんすか?」
「これですよね。戸水先輩、読んでもいいですか?」
「恥ずかしいなー。なんて書いたかなー」
莉亜達が卒アルを読み終えると、葉月がテーブルの上の黄色い卒業文集に手を伸ばした。
それと同時に部室のドアが開く。
「何やってるの、あれ」
「あぁ宮岸か。戸水さんの持ってきた卒アルを皆して見ているところらしい」
「卒アル?」
「次の同人誌のネタのために、昔のことを振り返りたいんだと」
そういや今日の俺はずっと宮岸との過去の接点がなかったかを考えていたんだが、未だに何も思い出せずじまいである。
「二組だったからもうちょいめくって……」
「おーあったあったー! どれどれー」
「絵を描くのが大好きなので、将来は絵を描く仕事がしたいです。って」
「それ書いてた時は、イラストレーターって言葉を知らなかったからなー。お、つぼみちゃーん」
「……どうも」
何かしらの武器を構えていなくとも、最近の宮岸は戸水さんに対して警戒心バリバリである。
「良かったら二人の話も聞かせてよー」
「……」
「そこまで警戒せんくて大丈夫だって。なんかあったら俺が止めるから」
「……そう言うなら」
今日の部活は、皆の昔の頃を懐かしむ会になりそうだ。
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