第44話 兄が語る、妹についての苦労話

「ふー。やっと一息つけるっすねー」

「お客さんいっぱいですねー」

「そりゃあ休みの昼時だからねー」


 バスの時間がギリギリだったからとバス停までダッシュ。駅に着いてからは近くのファミレスまで三分程歩き。休みということで人もいっぱいだったので待たされ。

 かれこれやってもう一時前だ。やっとゆっくりできる。


「とりあえずドリンクバーと……どうします?」

「私は気分的にドリアにしようかしら」

「僕はパスタに」


 テーブルに案内してもらったらまずは注文。人数分のドリンクバーと、各々頼みたいものを頼む。

 そしたら飲み物を取りに行って。雑談が始まる。


「ともかくは来る即売会に向けて……」

「あーストップストップ。ストーップわかちー」

「何よ」


 戸水さんが即売会の話題を出したところで、月見里さんが口を挟んで来た。


「せっかく部活終わりでこうして集まってるんすから、別の話題にしましょうよー。ひなちーやしおりんが居ない時に話しててもしょうがないじゃないっすかー」

「確かに湊ちゃんの言う通りだけど……なら何があるの?」

「せっかくなんですし、普段は聞けないようなこととかを聞いてみるもんっすよー」

「普段聞けないこと……ですか」


 何を聞くのだろうと考えていたら、向かいに座ってる月見里さんは俺と葉月の方を見つめてくる。


「ってなんですかその視線は」

「双子の兄妹ってことで、その辺のエピソードを色々お聞かせ願えるとー」

「……何から話せば」


 すぐにぽんぽん出てくるわけでは無いんだけども、考えてみれば色々と出てきそうだ。良い思い出も、つい最近の思い返したくはないものも。


「まぁそこは思いついたものからでもいいっすから。なんなら私から色々聞こうかと」

「まぁ周知の事実かとは思いますが、見ての通り俺に甘えたがる妹なもんで」


 現に今、右隣に座っているが明らかに距離が近い。向かいに座ってる先輩二人と薫は、拳二個分は間隔があるって言うのに、葉月の場合拳一個分入るかどうか怪しいくらいに近い。密着はしていないが、ほぼそうなってると言っても差し支えないくらいに近い。


「だってお兄ちゃん大好きなんだもーん」

「いいもんだよねー。私も葉月ちゃんみたいな妹が欲しいなーなんて」

「私もわかちーに同意でー。苦いコーヒー欲しくなるくらいに甘々っすよねー」

「なんだかほのぼのするよねー」

「えへへー」


 向こうに座ってる三人からすれば、羨ましいもんでしょう。見ていて微笑ましくもなるでしょう。でも実際。全てが全ていいもんでもなくて。


「嫌なもんではないですけど、兄としてはそろそろこの振る舞いをどうにかしてもらいたいと」

「えーどうしてっすかー」

「何をするにしたって、俺にくっついてくることがほとんどなんで。兄としては、妹にはしっかり独り立ちして欲しいものでして」


 とにかく兄である俺と一緒に居たいと思うのが、妹の葉月だ。それ故のエピソードは沢山あって。

 当然といえば当然なんだが、学校のクラス分けは毎年違うクラス。クラス発表の度に駄々をこねる葉月を宥めるのは大変だった。

 それから家の風呂。小さい頃はそんなに意識するもんでもなかったから、一緒に風呂に入ることはあったし特に抵抗もなかった。

 それを高校生になった今でも、一緒に入ろうと言ってくることがある。流石にもう勘弁な。

 でも何度か、突然風呂場に突撃してきたことはあったから、ちょっとやそっとじゃ葉月は引き下がらない。どうしたもんだか。

 他にと挙げていけばキリが無くなりそうなくらいで……。


「学校行事とかが特に大変なもんで。運動会の時なんてチーム分け別になりますから……」

「それは確かに辛いわねぇ……」

「お兄ちゃんの敵にはなりたくないとか言い出すもんですから」


 クラスが違うと、遠足とか文化祭とか。学校内での行事を別々で行動するのが普通だ。そのはずなんだけどなぁ。葉月は頑なに俺にくっつこうとしてくる。


「もちろんちゃんと友達は居るんすよ。それでも俺との方を優先なんてよくあることで」

「これは……相当っすね」

「色々不安なんすよ。自分自身のこともありますし何より……」

「兄と結婚はできない。血の繋がった双子だから」

「……いきなりだな」


 これまでオレンジジュース飲みながら、一言も発せずに話聞いてた宮岸がいきなり喋るものだから、隣にいると少しびっくりする。


「でもそうでしょう?」

「まぁ言ってる通りだな。近親婚はできないわけだし」


 それすらも覆されようものなら、もうお兄ちゃんにはどうしようもできません。さすがに天地がひっくり返っても、そうなることは無いと信じたいなぁ。


「あ、そーいえば。かおるんは前にお姉ちゃんいるってのは聞きましたけど、つぼみんはどうなんすか?」

「私……ですか。従兄弟は居ますけど、家族内では兄弟姉妹は居ないので一人っ子ですね」


 今は静岡にある新聞社で働いている従兄弟がいるという。なんでも自分のことを本当の妹みたいに可愛がってるみたいで。

 ちなみに本人は少々うんざりしているそうな。


「妹とか弟欲しいーって思うこと、ないんすか?」

「大人しいのであれば。それに――――「お待たせしましたー。ペペロンチーノのお客様ー」」

「あ、はい僕です」


 話を遮るように、店員さんが注文の品を持ってきた。

 一旦中断として、全員分が揃ったところで再開と行きまして。


「こういうのって、案外絶妙なタイミングで来るんすよね」

「そうですかね。それでなんでしたっけ」

「つぼみんの兄弟がーって話」

「先程も言ったように、兄では無いですが従兄弟がいまして。でもなんというかうっとおしくて」


 表情が優れないところを見ると、どれだけうんざりしてるかがわかる。


「大桑さんのを見てると、兄のような従兄弟と妹とでは印象が全然変わるんだなぁって」

「妹とか……じゃなくて従姉妹好きってもんすねー。あそうだ。新聞で思い出した」

「なんです?」

「そういえば小さい頃に、新聞社の見学に行ったことがあってっすね。その時はあんまり楽しいもんじゃなかったんすけど、今となっては貴重な体験をしたんだなーと」

「唐突に話題変わりますね」


 ブラコン、シスコンの話かと思えば。いきなり社会科見学の話になって。どうしてこうなる?


「それなら葉月達も小四の時に行きました!」

「あぁ。そういや行ったな」


 無理やり軌道修正するのもあれだから、とりあえずは乗ることにしよう。

 小四の秋の遠足で行ったんだっけ。それでその後班に分かれて発表会をしたっけ。


「……」

「ってどうした?」

「……なんでもない。そういえば――――「お待たせしましたー」」

「あ、はーい」


 また絶妙なタイミングで店員さんがやって来る。あれ、てか皆で頼んだのこれで全部のはずなんだけど。

 テーブルに置かれたのはチョコレートパフェ。今にもそれを頬ばろうとにこやかな顔をした薫の前に置かれた。


「お前、いつ頼んだよ」

「さっき店員さんが通りがかった時に」

「あ、かおるんだけずるいっすよ。私もなんかたーのも」

「湊ー私もー」


 パフェの注文で話が途切れて、その後宮岸からは何も聞けなかった。

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