『睡』の罪

「ユウ…ト……」

リラは眉を顰めて崩れ落ちていった。

ゆっくりと、ゆっくりと。

 ツカサ先輩も、何が起こったのかわからないといった表情で床に倒れ込む。ゆっくりと。


「あ……あ…う、あああぁ!!?」

 誰かの叫び声が遠くで聞こえる。

それが、僕の発したものとは気づけずに。


『リラ!ツカサ!! そんなアホなッ!』

 カアクの悲痛な声は、映画を見ているかの様で…

 そもそも、これは現実なのか?モノガタリの『創造』ではなく?

『リスタッ!! リラとツカサにハムの治癒をッ!』続いて鬼気迫るナロゥの声。

 ––– ああ、そうだ。ハムの治癒なら、きっと……

『ダメじゃ!傷が深すぎる! 今すぐアジトに戻らんと手遅れになるぞ!』

 ––– 今…すぐ。だって?

『ああっ、ツカサさんの脈が!弱まって!』

シブの取り乱す声。こんな事って…


「ユウトさん、これが力の差で真実よ。 わかってくれたかしら? 大切な人が失われる苦痛を。 …どう?もう、こんな世界物語を終わらせたいでしょう?」

 マミは血に濡れた翼を羽ばたかせ、僕の頬に血飛沫が掛かる。

 …僕は…僕は……何をしている?

そんな中、僕の肩を揺さぶったのはネムだった。

「しっかりしなさい!アナタが諦めてどうするのよ!?」

 ––– ごめん、皆んな…僕どうすれば良いか解らな……ネム?!

「ネムさん! 『睡』のギルティの効果は?! 僕が望む力を得る事が出来るのかッ?!」

『え…ええ。だけど!』

––– もう迷いはなかった。

僕は赤いカケラを握りしめた。

「…ギルティ『スイ』! ネム、僕の望みを叶えてくれ!」

 

 ––– そして、この時から僕は睡眠欲を失った。

 これで、僕の命に制限時間が付いた事になるのかな? 人が寝ないで死ぬ事は実証されていないけど、動物実験では週数間しかもたないってネットに書いてあったな……

 ––– でも、僕はそうなっても。

ツカサ先輩を救いたい。

リラが笑って過ごせる未来を守りたい。

 だから『観測者』さん。

どうか、僕に力を与えて欲しい。

 願って欲しい。

––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

この世界ライトノベルが続くことを…

––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


 赤いカケラは僕の右手に吸い込まれ消えた。「ああ、ああぁぁあ!!」直ぐに襲ってきたのは割れそうな程の強烈な頭の痛みだった。

「ユウトさん、アナタ何を望んだの? とんでもない『ギルティ』の量よ!」

 ネムの声に、僕は声を絞り出して答えた。

「転位……ゲートを作ったから、みんなを…アジトに……くっ!」

 その言葉の通り、リラとツカサが倒れる床に転位ゲートを僕は作り出した。

 それは以前、モノガタリと共にエデンへ転移したゲートと同じものだった。

 リラとツカサは落ちる様にゲートに吸い込まれ、姿が消えた。

『ユウト!アンタも逃げるで!』赤い刃の声に僕は首を振る。

「ダメだよカアクちゃん。僕がモノガタリを食い止めないと……アジトまで追って来てしまう。悪いけど、このまま最後まで付き合ってもらうよ」

 苦笑いを浮かべる僕の足元で、『クゥ〜ン』とのハムの声に、頭を優しく撫でながら、「ハムもゴメンね。僕を助けてくれるかい?」と、問いかけると、『ワン!』という声が返って来た。


『何を今更…… いや、もう油断はしない。マミ、ユウトにトドメを刺すぞ 』

 モノガタリの声に「ええ」と、マミが答え、翼を広げる。

「分からずやのユウトさん、じゃあね」

マミが口走った瞬間、僕は目の前にゲートを創り出した。突進して来たであろうマミはその中に吸い込まれ、姿が消えた。

『ユウトさん、やるじゃない。この力、上手く使ってモノガタリを倒すことを願っているわ。私はもうすぐカアクと融合して消えちゃうけど、先にクゥと一緒にカアクの中で待ってるわ。じゃあ…また…ね』

 次第に消えゆくネムの気配に僕は言った。

「ネムさん、有難う御座います。決着をつけて直ぐに行きます」と。


「カアクちゃん、行くよ。ハッピーエンドを掴み取るんだ」

 僕はそういうとゲートに飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る