遺伝子改造のネスト

「さあさあ、冷めないうちに頂きましょう。お好きな席にお掛けくださいませ」

 実に心地よいアルマの声は、まるで草原を吹き抜けるそよ風の様に室内に流れた。

 僕達は言葉にならい、着席すると目の前には赤黒いスープが用意されていた。

そこからは地下室前で嗅いだ、あの腐敗臭が微かに漂っている。

「ユウト…わかってるな?コレは、飲んだらアカンで」

 背後に立つカアクの声はアルマには聞こえない筈だったが、彼女は何かに気付いた様に室内を眺めた。

「何かしら?女性の声が……気のせいね。

それでは、皆さん、改めまして『ダフニの館』へようこそお越し下さいました…」

 彼女は歓迎の言葉と共に食事前の祈りを口にする。そして、『さあ、頂きましょう』と、口にした時だった。


「夕食にお招き頂き、ありがとうございます。ですが、我々は『永遠』になるつもりはありませんので、この『スープ』は遠慮させて頂きます」

 そう言ったのはツカサ先輩だった。

アルマはまるで『何のこと』と言いたげに片眉を上げるが、ツカサ先輩は間髪入れず言葉を続けた。

「失礼ですが、ここ『ダフニの館』の様子は異常です。そこで、我々は少し調べさせて頂きました。そして…地下室での研究を知りました。 …ユウト、例のモノを」

 僕は先輩の望むイメージをすると、ゲノム解析機が出現した。


「あなた達……どうやって…その事を…」

アルマの言葉と表情は、憶測が真実に変わるに十分だった。ツカサ先輩はスープを機材にセットすると、機材が低い振動音を発し始めた。

「や…やめて……わたくしは…不幸な人々を救う為にっ!!」

 立ち上がるアルマに、僕は動揺を誘うように声をかけた。

「その為に…人格までも失わせるなんて…もはや、それは人殺しです。あなたのやっている事は…犯罪です」


「いやよ…違う、違う、違う!! わたくしは救いの手を…!!」

 両手で頭を抱えるアルマ。その様子に田中さんが食堂に駆け込んできた。

「貴様ら…アルマ様に…何をっ!?」

その手には細身のつるぎ…レイピアの様な刃物を持っていた。

 僕達は廊下に駆け出すと玄関に向けて走り出した。リスタの話にあった通り、館内に閉じ込められる心配があったからだ。

 「カアクちゃんっ!!玄関の扉を開けたよ!」僕の叫びにカアクは『よっしゃ!』と、裏側世界展開を口にした。

 すると、すぐさま視界が歪み紫のモヤがかった世界に変貌を遂げる。

 僕達はバックサイドに入ることが出来たのだった。

 「ギルティ『サガ』僕の役目を果たそう…カアク!!」僕は真紅の刃を握りしめた。


 …そして

「早速、お出ましじゃな!?」

リスタの視線に先、そこには紫色したロブスターの群が待ち構えていた。

「ユウトっ!作戦通りに私達が囮になるわ!

ネスト』はお願いね! ギルティ『ショウ』ナロゥ!やるわよっ!」

 リラが擬態イヴェに銃口を向けながら僕に微笑みかけた。

 「わおんっ!!」ハムもギルティーを発動させ、皆んなの周りに透明な防壁を展開する…が。


「………ツカサさんっ!?私達も、クラブクラッカーをっ!! リラさんのイメージは、もう届いている筈よ!?」

 シブの焦る声がエントランスに響く。

「……みんな、……すまない」

ツカサ先輩は、間違いなくそう言った。

 僕が耳を疑う間も無く、ツカサ先輩は僕達を置いて外に駆け出していた。


「ツカサ先輩っ!なにをっ!?」

僕達は先輩を追って、庭に出るがおびただしいイヴェと擬態ロブスターが襲いかかって来た。




       【次回予告】


  次回!『崩れる輪(サークル)』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る