巣と巣

「やっぱりぃい!! 邪神を信じて、失敗だぁスパイダーぁあ!」

 僕は一人、廊下に張り巡らされた蜘蛛の巣を潜りながら、巨大な紫色した蜘蛛を両断する。

 そう、此処ここの擬態イヴェは、巨大蜘蛛だったのだ。

 僕の嫌いなニクイ奴!

だって、複眼なのに眼があるし、牙あるし! 胴体の模様気持ち悪いしぃ!! デッカいしぃいい!!


『そんなに涙浮かべて… ウチと二人っきりで嬉し泣きかぁ? ウチも…ユウトとなら二人で記念写真を撮っても…ええで…ポッ♡』

 こんな時に?この邪神…ふざけているだと!? られてしまいなさい、独りで奇念邪神きねんじゃしん


「カアクちゃん、ツカサ先輩の言ってた教室は、この上だ!擬態イヴェが増えるだろうから、気をつけよう!」


 僕が保健室から出る前に佐々木くんを守る事となったツカサ先輩は、シブをタブレットに変えると呟いた。『巣は…俺の教室だと?! ユウトくん、三年一組の教室に反応がある。無理はするんじゃ無いぞ!』と。


 僕はてっきり自分の教室に『巣』があると思っていた。カアクは、佐々木くんが関係していると言っていたからだ。

 しかし、巣の反応があったのは離れの三年棟だった。

 僕が独りで撃破に向かうには、不安で押し潰されそうになる距離だったが、カアクとの連携が驚くほど上手くいき、難なく三年棟まで辿り着けたのだ。

 だが、棟に入った途端、待ち受けていたのは張り巡らされた蜘蛛の巣と、複数の擬態イヴェだった。


「ああっ!しまった!!」

僕は刃を握る腕ごと自由を奪われる。

後ろから擬態イヴェの放った糸が、腕に巻き付くと壁にはりつけにされたのだ。

 ……ああ、これ見よがしに突進してくる擬態蜘蛛イヴェ!

 蜘蛛ってこんなに速いの?上方修正されてません!? まるで『暴走機関車トーマラズ』みたいじゃないか!


『ユウト!! 早よ脱出せな、喰われるで!あんたの『罪』の力が落ちとるから、ウチでも振り切れん!!』

 蜘蛛の糸に捕らえられた刃から、カアクが叫ぶ!

 これが世に言う、絶体絶命? 剣が峰剣が意味ねえ?(注7)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

(注7)剣が峰『けんがみね』

「剣が峰」は、火山の噴火口の周縁の意味ですが、少しの余裕もない追いつめられた危機的状況も意味します!これホントだよ。

『剣ヶ峰に立たされる』ってね♪ 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 目の前に迫った擬態イヴェが前足を振り上げる!

 「こんなところで!終わってたまるかぁ!!」

 僕は声を張り上げ、渾身の力を腕に込める。

……しかし無情にも、蜘蛛の糸は…びくともしなかった。


 その場に鳴り響いた破砕音。


それは、僕の頭蓋骨が砕かれた音……




 …では無かった!

「ユウトっ!! 無事っ!?」

そこには銃口を構えるリラの姿が。

 ああ…助かった。危うくドクロがザクロになるところでした。

 リラさん…結婚してください…… いや、召使いでもいいです……


「あなたねぇ! 何、独りで突っ走っているのよ!? 私たちチームでしょう!」

 そう怒鳴るリラの目頭に煌めく涙が。

––– 僕を、心配して?


『おい、カアク。ユウトの罪がくなっているのはどういう事だ? まさかお前…余計な事…』リラの銃からナロゥの疑心の声が漏れるが、僕は被りを振ると「ナロゥさん、すいません。蜘蛛が苦手で遅れを取ってしまいました。スイマセン」と答えた。


「それと…… ごめんねリラさん、お陰で助かったよ。急がば回れだったね」

 僕の声に『ふんっ』とそっぽを向く彼女は、「無事だったらいいわ! この上の教室に『巣』があるのね? サポートするから、早く終わらせちゃいましょ!」と、階段に視線を向けた。

 

       【次回予告】

 女性の心はミステリーだね? ユウトよ、頑張りたまへ!

 姿を表す『薬物』の『巣』…それは若者を蝕む脆弱な社会が生み出した歪み。


 次回!『    』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!


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