旧家で休暇?

 僕は目を覚まし、身体を起こすと皆の表情には安堵が広がった。

「ユウトぉ、ホンマにすまんかった。一人で頑張ったんやなぁ!」

 とても元気なカアクちゃん…どうやら僕は『巣』を破壊出来たらしく地下会議室バックサイドの瘴気は消え去っていた。

 おそらく、カアクや僕の身体が回復している事から『アジト』を展開したのだろう。


「あ、あなたねぇ! ……いいえ、ユウト。有難う…助かったわ」

 そう言い手を差し伸べてくれるリラさん。

僕は照れながら、彼女の手を掴んだ。


 どうやら、皆の話によると僕一人の力で『巣』を破壊出来た訳ではなかった。

 イヴェの大群に飲み込まれた際に、リラが機転を利かし急速冷凍機をイメージしたらしい。それをツカサ先輩は具現化したのだ。

「灯りが消えたのは、その為だったんですね?」

 つまり、急にイヴェの攻撃の手が止んだのは、室内を冷やしてくれたおかげだったのだ。

「リラさん、先輩…助かりました」

僕は素直な思いを口にすると、ツカサ先輩は「俺たち、ナイスチームだな!」と、白い歯を覗かせた。


 ツカサ先輩の隣でシブは「さて、と。じゃあ、後はここから脱出ね」と、髪をかきあげ木製の扉に目を向ける。

 …そうだった。

昔から云うじゃ無いか。帰るまでが『遠足ミッション』と…

 従業員の皆様に見つかると…間違いなく捕まりますね! 不法侵入及び器物破損、下手しなくても退学になる要素は揃っています!

 ……どうしよう!? お願いですから、こんな場面で『リーダー』なんて呼ばないでくださいね?


『どうするんじゃ?リーダーユウトよ!』

 はぁい、言霊発動とはこの事ですね!

しかも、豆柴リスタさんはノーガードでした……

 どうやら、この世には邪神しか存在しないらしいですね♪


 数分後、僕達はシャバの空気を満喫していた。

「ふっ、僕の才能が自分でも恐ろしくなったよ」

「ホンマやな、神を囮に使うユウトの砕脳さいのうは人間離れしとるわ」


 僕が立てた作戦は、『豆柴リスタ撹乱作戦』。つまり、地下会議から豆柴ハムさんを解き放ち、従業員がキュンキュンしている間に逃げ出す作戦だった。

 まあ、途中で『この工場の所長が倒れた』というアナウンスで、従業員は何処かに集められた様で、ほとんど人は居なかったんだけどね?


「ユウトくん、恍惚こうこつの表情の中すまないが…」ツカサ先輩は空を指さすと、「今にも降りそうだ、急いで街に戻ろう」

と、皆と急ぎ足で歩き始めた。

 空には暗雲が立ち込め、雨の匂いが鼻をかすめる。強くなった風は木々を揺らし、嵐の前触れを知らせていた。


 そして、漁港街が見えた時だった。

遂に嵐は本性を現し、僕達にその牙を剥いた! 鳴り響く雷鳴に打ち付ける豪雨。

 そして…「あばばばぁー!」

僕の声は無惨にも強風により粉砕される。

「な…何!?この嵐! …みんな!あそこに民宿があるわ!」

 リラの指さす先に、旧家の様な趣の『彩子荘あやしそう』という看板が!

 僕達は息も絶え絶えに、民宿に駆け込んだ。


 広い石畳の玄関に、高い吹き抜けと剥き出した梁は黒ずみ、年期を感じさせるエントランスが目前に広がった。そして際立って目を引いたのは、上がりかまちに腰高もあろうか佇む日本人形…台座には『彩子人形』と銘打たれていた。


「す、すいませ〜ん!どなたか…居ませんか?」 

 僕の声が震えていたのは、雨に濡れて寒かったからだよ? お人形が怖い訳では無いよ?!

 「いらっしゃい…… この島に観光なんて珍しい事もあるもんだねぇ…」

 

 奥から姿を表した着物姿の老婆は『にぃ〜』っと、微笑むと「きつい天気になったもんじゃ、えらかったじゃろう? お上がりなさいな……ヒヒッ」と、語る。


 うん、『彩子荘あやしそう』 … とっても怪しそう。


       【次回予告】

 遂に物語はホラー展開に!?

姿を消した仲間たちと、響くユウトの絶叫!

 はたして傍観を決め込む邪神達の祈りは届くのか?

 ……そして『彩子荘あやしそう』の『彩子人形』に隠された秘密とは!?


   次回!『彩子荘の怪(前編)』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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