鈍器をホイホイ

「私……無理よ」

リラは遠く過去を見る目をしていた。

彼女は『G』が苦手なのだろう。いや、得意な人など存在しないと思うが…。


 ––– 無理強いする事もない。

 僕は『巣』を破壊することが出来るのだから、先程みたく危険な目に遭わない様に彼女には待機してもらった方がいいだろう。

「リラさんは、ここで待ってて……」

僕の言葉の途中で、ナロゥが口を挟んだ。

「リラは、苦手な事から目を背けるのかい? それでは、いつまで経ってもお父上ちちうえを超える事は…」

「お父様は関係ないでしょ!!」

 間髪入れないリラの返答には、怒気が滲み出ていた。

「ギルティ『ショウ』ナロゥは黙ってて!私は…皆んなに認めて貰うんだから!」

 リラは、青い銃を握りしめると、僕達に『行きましょう!』と、一瞥し門をくぐっていった。

 彼女の『ギルティ』は承認なのだろうか? それも親子が関係して?

 その背後に抱える大きな闇が垣間見得かいまみえる。

「リラさんっ!」僕は彼女を追いかける中で、嫌な胸騒ぎを感じていた。


「くそっ!なんて数だ!!」

僕は刃を振り回して擬態イヴェを数体倒すも、その圧倒的な数の前には無力だった。

 更には、何故かカアクの刃がやたらに重く、彼女がサボっているとしか考えられない!

 ……だって!


『どんどん、どんっ! 鈍器ドンキ

      鈍器ドンキっ!放ってホーテ〜♡』

 無機質な工場建屋内に、場違いカオスなカアクの歌声がこだまする。

 リラさんは絶叫しながら工場内のトンカチや、モンキーレンチを擬態ゴキイヴェに向かって投げ続けてるし。

 それを見て、カアクはふざけたうたをホザいてるしぃ。なんかメロディも危ないしぃ!

 ……嫌な予感は、コレかぁ。


 それでは深呼吸をして、この状況を説明しよう。

 ツカサ先輩のタブレットが示す、反応の強い建屋に入った途端の事だった。壁や天井を覆い尽くす無数の擬態イヴェの姿が…

 『カサカサ』と、這い回る足の音に、『キュ、キュ』って、あの音は何なんでしょう?鳴き声?

 …が、奏でるオーケストラは不協和音で構成されたレクイエムの如き、容赦無く僕達の精神を削り取っていきました。

 それを見たリラさんは、顔から血の気が引いてゆき…

 ……投げちゃいました。

      青い銃を…ナロゥごと。

 たぶん、リスタと柴犬ハムさんが『わおんナロゥ!!』って、吠えたからナロゥは無事だと思いますが、喚き散らしながら工場内の鈍器をホイホイ投げまくっている、リラさんの精神状態の方が心配です。


 …ホイホイ…とな?

「ツカサ先輩! 僕のイメージで、Gホイホイとか変化出来ますか!?」

「ユウトくん? 俺は機械しか……それに…… シブが『罪深き浅はかな考えねブッコロされたいの?、ユウトくん♡』って怒ってるよ?」

 …申し訳ございません。ですが、この数を僕一人ではどうする事も出来そうにありませんので。

「カアクちゃん、どうしよう!?」

『不気味なジャングル〜♪ チャンプルやぁ♪』

 …ダメだ。この邪神、使い物にならん。

集合体恐怖症なのかな?

 もはや意識がシャングリラ理想郷に逃避行していらっしゃる。


 カアクとは違って、至って冷静なシブは、

『でも、ユウトくん。イヴェが擬態した生物の特性を備えているのなら…照明をイメージしなさい』と、タブレットから囁いた。


 僕は直ぐ様、照明灯をイメージすると、それが発する眩ゆい光が建屋内の闇を払う。

 それと同時に逃げるように擬態イヴェ達は姿を隠した。


 擬態イヴェが一掃された床には、透明な防壁で守られたナロゥの姿が…

 無事で良かったが、どうやら彼は酷く落ち込んだ様子でしゃがみ込んでいた。


       【次回予告】

 お食事中の皆様、大変失礼しました。

ご気分を害されていませんか?だけに…

 取り敢えず皆は無事ですが、果たして彼らは2つ目の『巣』を破壊する事が出来るのか!?


   次回!『一難去って、また受難』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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