中庭に降る悪魔
「リラさん、遅くなってごめんね」
僕は、息切れする彼女に歩みよるが、
「大丈夫…それより、また
と、鋭い視線で天井を仰いだ。
『せやな、このまま消耗戦やと具合が悪いわ。早よ『巣』を見つけなあかんな』
真紅の刃から発するカアクの話から、神様の力でも『巣』とやらは見つけられないらしい。この広い敷地を手当たり次第という訳にも……
「俺のレーダーからすると、北側の棟、最上階に強い反応がある。『巣』とやらは、そこか?」そう語るツカサ先輩の左手には、タブレットの様な端末が掴まれていた。
「何でもメダルを変化出来るなんて、凄いですね」
僕の言葉に何故か顔をしかめるツカサ先輩。
「実は、俺の力は自分だけじゃ具現化出来ないんだ。『他の誰か』の願望とマッチした時にしか発現しない、扱いにくいギルティだよ…」
––– 成る程、急いでリラさんの元に向いたい願望はスポーツカーに。
イヴェを一網打尽にしたいリラの想いは殺菌光線に。
『巣』の位置を知りたいカアクの願いがレーダーになったという訳だ。
「ちなみに…今、ユウトが考えている事を具現化すると……… なんだ?これ!?」
ぐはぁ、ツカサ先輩の掌の…上に…
『
の姿がぁ! やめて、先輩。今じゃない!
本当に、ふと思った邪念なんです! 何でも思ったものが出せるって言うから……
『なんて格好させるのよ!この変態!』
ハオちゃんから発せられる、シブの罵声と…
「さあて イヴェの巣も わかったし 向かいましょうか ツカサさん」
瞳の奥の光が消えている、リラさんの言葉に僕は言い逃れの出来ない罪悪感と、恐怖を感じていました。
これは…汚名挽回せねば!(注5)
※※※※※※※※※※※※※※※※※
(注5)要注意!
汚名を挽回すると、更に汚名を着ることになります!
正しくは『汚名返上』もしくは『名誉挽回』ですので間違って覚えない様に!
※※※※※※※※※※※※※※※※※
僕たちは北の棟を目指し、中庭に出た。
中央に据えられた大きな噴水から紫の液体が滴り落ち、腰高の花壇に咲き乱れる花々の花弁はマダラ模様で、辺りは腐敗臭の様な鼻につく匂いで満ちていた。
『擬態イヴェだ!気をつけろ!』
リラの銃からナロゥの叫び声が響いたのは突然だった。
僕らの視線の先には『蝶』の姿をしたイヴェの姿が。
『しかも5頭や! ユウト!しっかり掴んどくんやで!』
「うん」僕はカアクの言葉で身体を前に蹴り出す。
すると、刃に引っ張られる感覚はあるものの、体勢は安定し目前に迫った擬態イヴェの頭部を断ち切る事が出来た。
「よしっ!」まぐれかも知れないけど上手くいった!
『おっ?やるやない! でも、まだ4体おるでっ!』
ほんの少しの気の緩みだった。
背中を駆け上がる悪寒と、本能による警鐘。
振り向くと目の前に羽を広げたイヴェが…
絶望に脚が動かなくなり、羽に包まれかけた刹那、そのイヴェの頭が吹き飛んだ。
「ユウトッ!油断しないっ!」
リラの声と共にその銃口から硝煙が上がっていた。
僕は彼女に救われたのだ。
「助かりましたっ!」
残った3体の擬態イヴェは空高く舞い上がると、輪を描く様に旋回を始める。
リラが連続で引き金を引くも、仕留める事は出来なかった。
『あの擬態イヴェの急所は頭だ…リラ、狙えるか?』
ナロゥの言葉にリラは苛立ちげに答える。
「さっきから狙っているわよ!でも、当たらないの!」
『ウチも、あの高さまでは…無理や……』
悔しそうなカアクの声が途中から聞こえづらくなる。
それは、僕の耳に違和感が…いや、耳だけでは無い…
「何…だ? これ…は」
膝を落とす、ツカサ先輩。
「ダメ…立ってられ…ない」
壁に寄り掛かるリラ。
僕の平衡感覚もおかしくなり、刃を地面に突き立て、何とか体制を維持すると空に舞うイヴェを見上げる。
上空から舞い降りる無数の怪しく輝く粉。
––– この状況の原因…
僕達に擬態イヴェの鱗粉が降り注いでいたのだった。
【次回予告】
空から降り注ぐ、危ない粉…
表記が危ないですと? ちなみにハッピーターンの粉は『ハッピーパウダー』って言います。(公式HP より)
それはさておき、3人を襲う危機!
果たして彼らはこの苦難を乗り越え『巣』までたどり着けるのか?
次回!『擬態イヴェの正体』
お楽しみに!!
––– 僕の
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