第十三章 呪われた大地の調査
第139話 緊急財政会議
謎の老婆の調査にはフィナの助けが必要不可欠。しかし、彼女は
なぜ、彼女が口を閉ざすのかわからないが、カインの調査で老婆の死は危険な病気の
ならば、それらの謎はあとに回し、まずやるべきは現実的な問題。
問題――端的に言えば……金。
――トーワ三階・執務室
私は執務室に長机を運び込ませ、皆を集め会議を行う。
会議の内容は、トーワの財政問題だ。
ノイファンの支援があるとはいえ、金とは
ここまで、領主任命の際に戴いた送り
一応、キサたちの
そこで、皆からトーワの収入に繋がりそうなアイデアを募ることにしたのだ。
集まったメンバーはエクア・フィナ・親父・カイン・ゴリン。アドバイザーとしてキサ。
ギウにはエクアを通して事情を説明しておいたのだが、彼は何か用事があるらしく欠席。
メンバーは長机に座り、私から説明を行う。
「財政はあまり芳しくない。そこで何とか産業を興し、収入を得る方法を考えてほしい。それが得られトーワが豊かになれば、今後も君たちに安定した給与を支払えるからな」
前述の通り、現在は貯金を切り崩しているような状況。
このことから彼らへの給与の見通しは暗い。
フィナに関しては当初、居候のような形でこちらが城の一角を貸しているという体系だったが、現在ではあらゆる調査の手助けを借りている。
キャビットから道具類を提供してもらいやすい環境になったとはいえ、素材などには金がかかる。
そのため、彼女は客人として扱い、協力費を支払うという形をとっている。
私はこのメンバーで唯一、ノイファンの傘下にいるゴリンへ顔を向ける。
「君には関係のないことかもしれないが、できれば参加してもらいたくて呼んだ」
「そんなことはありやせんよ。あっしはここが気に入ってやすから、何とかしたい思いは一緒でやすよ」
「ありがとう、その気持ちは嬉しく思う。これはいま話すことではないが、もし、トーワが豊かになれば、私は君を直接雇用したいと考えている。君は非常に有能な人物だからな」
「いや、その、照れやすな……」
「ふふ……もちろん、返事をすぐに頂こうと思っていない。なにせ、君や大工たちを雇う余裕がない。情けない話ではあるが」
「そんなことありやせん。てっきり、あっしはケント様の不興を買って……」
無断でノイファンに手紙を送ったことを、彼はまだ後悔していたようだ。
そのことについて、やんわりと声を掛ける。
「それはあの時言ったろ。この話はおしまいだと」
「ケント様、本当に寛大なお言葉、うれしく、嬉しく存しやすっ。本当に、本当に……」
「もういい、もういい。大丈夫だ」
私はゴリンを優しく諭し、話を本題へと移していく。
まずは、キサに畑の状況を尋ねた。
「キサたちに畑を任せたおかげでかなり拡張されたと聞いているが、将来的に野菜をアルリナに卸して収入を得ることはできないだろうか?」
「それは難しいと思うよ~。アルリナの北部には大きな農園があるから、アルリナはそこで十分賄えてるもん」
「そうか……」
「どうしても農業で収入を得ようとしたら、トーワだけでしか作っていないものにするしかないかなぁ~。そんなお野菜や果物を探す方が大変だけど。探しても、アルリナに栽培を始められたら負けちゃう」
「農業では難しいか。他に何かアイデアはないか?」
皆に視線を振る。ほとんどの者が眉間に皺を寄せる中、フィナが声を発する。
「海が近いから漁業は?」
これに対し、キサが首を横に振る。
「漁業はアルリナの主産業だよ。トーワで魚をたくさん取っても売れないと思う。それに、こっちには船がないし、人もいないし」
「そっか~。簡単な商売の経験はあるけどまともなのはないからなぁ。ちゃんとしようとすると、難しいね」
「もともとトーワがなくても半島内の経済は回ってたからね~。隙間は中々ないよ~。そうなると、トーワにしかできないことをするしかないけど……う~ん、あとは人をもっと呼んで商売の活性化。でも、人の少ないトーワに来るメリットがあんまりなぁ」
その後、会議を続けるが、これといったアイデアは出ることなく完全に停滞してしまった。
私は一度仕切りなおそうと、会議を打ち切ろうとした。
そこに彼が訪れる。
――コンコン
ノックの音。私は応える。
「入ってくれ」
ガチャリと扉を開き入ってきたのはギウ。
彼は左手に木製のバケツを持っている。
それを長机の上に置き、バケツの中にあるものを取り出して皆に見せつけた。
「ギウッ!」
「それは……海藻か?」
ギウがバケツに入れて持ってきたもの――海に生えている藻類。
それを見て、一同はぽかんとした表情を見せるが、エクアだけはポンと手を叩く。
「あ、もしかして、海藻を食料品として加工するんですか?」
この言葉に動揺が走る。
親父・キサ・ゴリンはあり得ないという言葉を飛ばす。
「いや~、海藻なんて食べもんじゃねぇでしょ」
「アルリナでも海藻は食品として扱わないもんね」
「海藻なんて海に生えてる草みたいなもんでやすからなぁ」
矢継ぎ早に出る三人の言葉にエクアは驚いたような声を上げ、私がそれに答えた。
「え? もしかして、ヴァンナスでは海藻を食べないんですか?」
「ヴァンナスではということは、大陸ガデリの方では食べるのか?」
「はい。美味しくて栄養価も高く、とても身近な食べ物ですよ」
「そうなのか? だが、クライエン大陸ではそのような話は聞かないな。そして、親父たちの様子からビュール大陸でも同様なのだろう」
「そうなんですか? でも、そうなると、これはトーワでしかできないことになるんじゃっ」
エクアは期待に語尾を弾ませた。
しかし、この期待をフィナとキサが否定する。
「いや~、海藻を食品にするというアイデアは悪くないけど、そう簡単になじみのない食品を受け入れられるとは思えない」
「私もそう思うよ~。時間を掛ければ浸透するかもしれないけど~。でも、トーワにはその余裕がないし」
「そういうことね。ギウのせっかくのアイデアだけど……」
と、フィナはギウに顔を向けるが、ギウは指先を左右に振って、甘いと言っている。
彼は海藻を見て、次に両手を洗うようなしぐさを見せて、腕をさすり始めた。
フィナはその動作の意味を考え、答えを返す。
「石鹸?」
「ぎう~」
ギウは惜しいと指を跳ねて、さらに海藻に軽く触れて、頬……えらの部分を撫で始めた。
そこでエクアが声を跳ね上げる。
「まさか、美容液ですか!?」
「ぎ、う~ん!」
おそらく、ピンポ~ンと言ったのだろう。
ギウは両指をビシッとエクアに向けた。
これを受け、フィナがバケツをのぞき込み、海藻を手に取る。
「海藻に美肌効果が?」
彼女の言葉にカインが何かを思い出したようで声を上げる。
「そういえば、クライエン大陸の一部では海藻をすりおろして顔にパックする習慣がある村がありまして、その理由は美肌だったはず」
「じゃあ、海藻にはそういった成分が?」
「それはわかりません。分析してみないと。ですがもし、そのような成分が含まれているなら、それを抽出して濃度を高めれば!」
「化粧品、美容液になるってわけね!!」
このフィナの声に、皆の声が繋がっていく。
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