第130話 私の心に応えてくれる存在
カオマニーがイラに声を荒げる。
「だからやめるニャよっ! まったく、人間族の男を見るとすぐこうなのニャ。節操がなさすぎるのニャ」
「だって~、キャビットちゃんたちは可愛いけど~、張り合いがないのよねぇ~。やっぱり人間族の方が美味しそう……もとい、楽しそうだからぁ~」
彼女の黒の瞳が私の姿をすっぽり捉える。
ぞくりと背に走る悪寒。あの瞳は捕食者の目だ……。
「カオマニー、美味しそうというのは……?」
「安心するニャ。消化の意味じゃないニャ。性的な意味ニャ」
「そうか、それはよかっ……そうも言いきれないか。なかなか危険な方のようだ」
「気を付けるニャよ。流動生命体に嵌まると性別関係にゃく、普通のことじゃ満足できなくなるニャ」
「き、気を付けよう」
「それとイラ! 可愛いは禁句にゃのニャ! キャビットに対する侮辱ニャよ!!」
「ごめんなさ~い。わたしって~、正直だからぁ」
「次言ったら、土を身体に混ぜ込んじゃうからニャっ」
「土も食べれないこともないけど、あんまり食感がねぇ~」
カオマニーは全身の毛を逆立てて怒っているが、イラの方が相変わらずのんびりした口調であまり
二人のやり取りを横目に、私は川の水に意識を向ける。
(すさまじい量の水だ。もし、遺跡が攻略でき、北の大地の浄化が可能となれば、この水は欲しい)
フィナの見立て通り、遺跡に浄化装置があり、それを正しく操作して北の大地を浄化しても、水がなければ意味がない。
「ふふ」
そんな考えに耽る自分に笑いが生まれる。
私はいつのまにか、古城トーワの発展を第一に考えるようになっている。
――ぼろぼろの城。修理を重ね、人が集まる。領主として他種族と交流を持つ。
城はまだまだ万全でなく、人も借り物。交流も始まったばかり。
だが、以前よりも美しく、賑やかになった。責任を持つ者としての繋がりを得た。
この輪を、さらにさらに大きく広げていきたい。
それが、トーワの発展につながっていく……どうやら私は、トーワという名の女性に熱を浮かされているようだ。
私の微笑みに気づいたカオマニーとイラが話しかけてくる。
「どうしたのニャ?」
「その優しい微笑みは女性を思う顔ね~。誰か大切な人がいるのかしらぁ~?」
「ああ、とても大切な伴侶がね。名はトーワという」
「まぁ、ケント様は無機物に愛情を注ぐタイプなの~?」
「彼女は私の思いに応えてくれる魅力的な女性だからな」
「あらあら、ご馳走様。それで、川を見つめて女性を思うのは何を求めてかしらぁ~? こんな激しい
クスッと笑みを浮かべるイラは私の心を見透かしている。彼女はなかなかの切れ者らしい。
だから私は包み隠すことなく胸襟を開き、カオマニーに尋ねる。
「カオマニー、君たちはどの程度川の水を利用している? この水量でも足りぬほどか?」
「にゃ? それはたくさん利用してるけどニャ、こんないっぱいは必要ないニャ。森たちもこんないっぱいの水は必要ニャいし、地下へ流れ込む分も十分すぎるものニャ」
「ということは、余力は十分ということだな?」
「ん~?」
カオマニーはちらりと東へ視線を振った。先にあるのはトーワの荒れた大地。
「にゃるほどにゃるほど。ケント様は、この川の水を欲しているのニャね」
「正直に言う。そのとおりだ。だが、今のところ北の大地は汚染されており、必要ないが」
「つまり、将来的には大地の開拓を考えているニャね?」
「可能であればそうしたいと思っている」
「んにゃ~、そういった話は親分と話してほしいニャが、ひとまずケント様が欲しているのはトーワに分けられるほど水があるかにゃいかニャね?」
「その通りだ。可能、だろうか?」
「う~ん、四分の一程度そちらに流しても問題にゃいと思うニャが、人間族は時にキャビットよりも欲深いニャ。それだけで満足できるかどうか、怪しいニャ」
「人間族はあまり信用されていないようだな」
「個人的にはニャ。にゃけど、ケント様個人に対しては、私の好感度は高いニャよ」
「ふふふ、それは光栄だ」
「でも、個人の信頼だけではどうしようもにゃいのが、責任者という立場ニャ。とにかく、親分と話してほしいニャ。親分が決めたら、森で反対する者はいにゃいニャ」
「そうか、ありがとうカオマニー」
彼女のくれた情報は大変貴重だ。
水は潤沢で、マフィンさえ説得できれば、水を分けてもらえるとわかった。
私は満足気な笑みを浮かべるが、対照的にカオマニーとイラは憂いの宿る表情を見せている。
「どうした、二人とも?」
「交渉が上手くっても、やることは山積みニャよ」
「そうよ~。トーワまでの灌漑工事に費用や人手。ケント様に当てはあるの~?」
「まったくないな。だが、今は事前交渉だけでも構わないと思っている」
「いい加減ニャね」
「そうね~」
「ふふ、そう感じるだろうが、こういったことは先手先手に話を進めておいた方がいい。外枠ができるだけでも、かなり違うものだからな」
「外枠ができても、中身のない計画ニャ。資金のない商売人は信用されないニャ」
「だが、資金がなくとも、将来性を見せる商売人には投資するだろう?」
この一言に、カオマニーは表情に冷たさを纏う。
「…………面白いことを言うニャね。ケント様は私たちが魅力に感じるものを用意できるニャか?」
「もちろん、とびきりのな。思わず君たちが投資したくなるような魅力を用意しよう」
魅力――それは言わずもがな、遺跡のことだ。
さすがの彼らも私たちが遺跡を探索しようしているとは思ってもいまい。
探索計画は秘匿とするが、探索によってもたらされる情報と知識は武器となり、魅力となる。
どのみち、北の大地は遺跡の探索が可能にならなければ浄化できない。
だが、可能になれば、それは同時に多くの者たちから魅力を攫う視線を一手に受けられるということだ。
残りの問題は、トーワの遺跡に何が眠っていて、どれだけのものを他者に渡せるかだが……どちらにしろ、何もなければ大地の浄化も不可能であり、その時点で水も不要になる。
まだまだ行き当たりばったりであることは確かだが、可能性という布石をタダで配置できるのならば、置いていても損はない。
私は未来に不安はなく、ただ楽しみに心躍らせる。
その姿を見たカオマニーは、片方の頬を上げて不敵な笑みを見せる。
「ニャフフ、お手並み拝見ニャっ」
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