ラストドーターズ

平野 斎

永遠の少女たち

 鉄と錆、どこまでも続く鈍色の空————。

 止まない雨は無い、とは何処かで聞いた事がある、が、汚れた血と欲望の雨を常とする身の上には随分と縁遠い話だ。そう思いながら窓の水滴をぼんやりと眺めている白髪の少女。幾許かの幼さを残しつつも、諦念を含んだ眼差しは、どこか達観した雰囲気を漂わせている。サーシャという名のこの娘が、先程から気怠げな溜め息を吐いているのは長く降り続く雨でも、いわんや自らの境遇を顧みての事でも無い。己が上で欲望のまま一心不乱に腰を振り続ける者の存在に、である。

 名も知らぬ男が部屋に来てから既に四半日、その内の七割が挿入に充てがわれているのだから。

 それにしてもこやつ、まだ果てぬか。全くこれだから人造者サイボーグとの手合いは骨が折れる……。なんとも非効率的な人間だな。私も気の短い方では無い、が、さすがに疲れてきたぞ。と少女が短く嘆息した刹那、男の律動が激しくなった。

「サーシャちゃん、も無理、出すよ。いくいくいく!」

 間抜けな嬌声を上げ、力なく覆い被さる肉の塊の脇をすり抜ける真白い髪は、無言のまま浴室へと向かう。

 汗と涎と精液に塗れた身体を洗い流しながら、少女は独りごちる。

 話には聞いていたが、人造者サイボーグが性にリソースを割くと著しく逸脱するというのは本当だったのだな。私の様な再生者リジェネーターか複数で相手をせねばあの猛りを鎮める事は生半では無いという事か……。

 身を沈めたバスタブには自浄作用を促す治癒蜜キュア・ネクタルで作られた蒸留酒、蜜天国ネクター・ヘブンの甘酸っぱい香りが拡がっている。

 この匂いを嗅ぐ度、サーシャは初めから有りもしない母親の記憶に思いを馳せ、無意識に胎児の様に身体を丸める癖があった。

 母壺マザーポッドと呼ばれる人造子宮兼治癒装置が、深き地の底より発掘されてもう300年程経っただろうか。

彼女たちはそこで培養された、




さて、と、そろそろ効いてくる頃合いか。

卑しき薔薇ロサ・ヴァルガ——膣内に仕込んでいたカプセルから溶け出した、感覚麻痺と睡眠作用をもたらすそのドラッグは

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ラストドーターズ 平野 斎 @hiranoitsuki

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