第34話 花火大会イベントライブ②
「みなさーん!こんにちは! 今年もこの時がやってまいりました!! 唐津花火大会フェスティバルでーす」
そして司会の女性がイベントの開始を知らせると同時に、会場に集まった客の歓声の声が広がっていく。
その声をステージの裏できていた朝矢たちは自然と緊張してくる。
朝矢が唐津花火大会のイベントに訪れること自体はじめてではない。子供のころからよく父親につれられてきていたことが思い出される。
とにかく父は祭りが大好きで、九州北部で開催されるイベントのほとんどはつれていかれたのではないかと思われる。
特に博多や唐津のくんち、佐賀市のバルーンフェスタは毎年のようにつれていかれた。もちろん、時期的にかぶるものもあるためにその期間は強行スケジュールとなる。
そのたびに朝矢が文句をいい、そのとなりでは楽しそうに笑っている兄の姿があった。
そういうとき、本当に父と兄は血のつながった親子だと実感がわく。とにかく、この二人は性格がにていたのだ。だから、自分は果たしてこの親の子なのか、兄の弟なのかと考えてしまうほどに性格が違っていた。
そういうことをいまは他界している祖父にいったことがあったのだが、「顔は父親そっくりだからなあ。間違いなかろう。おいの孫たい」と豪快にわらっていたことが思い出される。ちなみに祖父と父は親子。これもまた性格が違うのだから、血の繋がりと性格の繋がりはないのかもしれないとは思う。
もう、あの頃には戻れないなあ。
最後にイベントへ出掛けたのはいつの日のことだったのだろうかと考える。
もうずいぶん前の子とのように思えて、最近の子とのように思う。
少なくとも、兄がいなくなる前まではいっていたイベント。
兄がいなくなってから、父親はぴたりとイベントにいくことがなくなった。
楽しみだったくんちもバルーンフェスタ、地元の花火大会もいかなくなり、仕事ばかりするようになってしまっていた。
それほどに兄の失踪がショックだったのだろう。
(すまねえ。親父)
その姿をみるといつも謝りたくなる。
けれど、それを口に出すことはできなかった。父親に心配かけたくはなかったのだ。
朝矢は知っている。兄がいなくなった原因が自分にあることを自覚しているからこそなにもいえずにいたのだ。
警察にも捜索願いもだしていた。けれど、いっこうに兄の消息はつかめなかった。生きているのか死んでいるのかもわからない。
司会者の挨拶が終わり、最初にパフォーマンスを行うグループが紹介される。朝矢たちよりも少し上の大学生らしき人たちのバンドだ。ビジュアル系に身を包んだ大学生たちががステージへとでていく。
すると、客のほうから歓声が上がる。
彼らはそれなりにイベントなれしているらしく、ボーカルが盛り上げようと声をあげている。
「あの人たちって、たしか福岡大学の学生で結成されたバンドらしかよ」
すると、伊恩がそう説明した。
「福岡大学?」
「うん。話によれば、『ブルーリアル』に憧れたバンド作ったらしかばい」
「はあ、なんだよ。その『ブルーリアル』って?」
龍仁が怪訝な顔をする。
「あーくんのお兄さんがおったバンドばい。でも、六年ぐらい前に解散したごたっよ。結構評判のバンドでさあ。メジャーデビューしてもおかしくなかったとばい」
朝矢の横で伊恩がそんな風に説明している。朝矢は彼らの話題には入らずにじっとステージのほうを見つめていた。
その様子を複雑な顔で桜花と愛美が見ているが、彼女たちがなにかを口にすることはなかった。
「そうそう。そのバンドのメンバーのなかにさっき、射的の腕を披露しよらした男のおったとよ。その人の人気が絶大やったとばい」
伊恩がいうのはもちろん、芦屋尚孝のことだ。
容姿端麗なドラマーと話題になっていたことは朝矢も知っている。
目の色もあまり見ないものであるし、ハーフではないかとさえもいわれていたが、本人はいたって純粋な日本人らしい。。
朝矢の脳裏には彼らが楽しそうに演奏を披露する姿がありありとよみがえる。
高校時代の同郷生であった兄と尚孝は本当になかのようの友人同士だった。
だから、よくつるんでい遊びにいく姿をみかけることが多かった。
高校卒業後も進路が違っていたのだが、地元に残っていたこともあり、バンドはつづけていたようだ。
しかし、ある日、兄が消えた。
それをきっかけにバンドは解散。
尚孝はせっかく決まっていた内定を取り消し、大学まで中退し上京し警察官になった。
なぜそんな進路をとったのかは、朝矢が直接聴いたわけではない。けれど、それを選ばせたのは自分ではないかと思っている。
あれがなかったら、尚孝はそっちを選ばなかったのかもしれない。
「続きまして。今回はじめての参加の人たちですね。高校生バンド『レッド』の登場でーす」
そして、司会が朝矢たちを紹介した。
「よし!! いこう!!」
一番張り切っている伊恩が叫ぶと同時に、ステージのほうへと進んだ。
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