第90話 覚醒

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「何だ、この光は?」


 発光が収まり、辺りを確認すると……奴らはナイフやハンドガンを構えていた。爆発能力はここでは使えない、何故なら奴も巻き込まれてしまうから。奴に自分を犠牲にする覚悟は無いからな。俺はシーツで顔についたアドレナリンと血を拭き、ハンドガンを構えている彼女に話しかけた。


「調子は?」


「もう治ってきた。それより、その血は?」


「返り血だから大丈夫……ここは俺に任せてください。瀧口さんはサポートをお願いします」


 それだけ伝えて、俺は出口を塞いでいる奴らの前に立ちはだかる。奴らの心拍数はかなり上がっており、呼吸も乱れている。アドレナリンを摂取したことにより、剥奪された能力が一時的に復活したのか。これでより、誰がどこにいるのか分かるようになった。


「殺せ!」


 バットを振りかざしてきた男の腹を蹴ると……奴は遥か先まで飛ばされていった。たった一蹴りで10mくらい、奴は壁に頭をぶつけて気絶した。アドレナリンで攻撃力も上がったのか。アドレナリンと、俺の中に眠る欲望とDream Powderが共鳴したってことだな。


 更に迫ってくる男の顔面を殴ると、そいつもまた何mか吹き飛ばされていった。これだよ、この力だよ。俺が求めていたのは。撃たれそうになっても、戻ってきた驚異的な反射神経で撃たれる前に奴の顔面を殴って気絶させる。撃つ挙動に入るだけで分かるんだよ、今の俺には。


 ナイフを振り下ろしてきた男の懐に忍び込み、アッパー。すると奴は天井に頭をぶつけて気絶した。予想を遥かに上回っている、ここまで人を軽々しく吹っ飛ばせるようになるとは。


 向かってきた男の腹を蹴り飛ばし、後ろから回ってきた男のパンチを避けて顔面を殴る。更に突進してきた奴の顔面を回し蹴り。吹き飛ばされた奴は、他の囚人にぶつかって気絶。オレンジ色の囚人服を着た奴らは、1分もかからずに全滅した。残るは赤い囚人服を着た男と、先生と、白い囚人服を着た奴らだけ。


「どいつもこいつも!」


 と、赤い囚人服を着た神谷は叫び、山崎を連れ逃げていった。追いかけようにも、目の前には白い囚人服を着た男たちが。助けを呼んだのか、さっきよりも増えて20人くらいいる。青い光を放つ俺の攻撃力は計り知れない程に強化されている。上限は俺も知らない、なら……最大出力で戦ってやる。


「星田健誠を殺せ!」


 そう叫びながら突進してきた男の顔面を掴み、俺はそいつの体を高く持ち上げた。そして勢いづけて、砲丸投げの要領で……そいつの体を奴らに向かって思いっきり投げた。


 ボギッ!!


 鈍い音と共に、奴らは崩れていく。出口を塞いでいた奴らは、高速で吹っ飛んできた仲間の体を避けきれず、その奴らまで吹っ飛んでいった。並外れた力、まるで人間じゃないみたいだ。たった一撃で10人近くを気絶させた、残りの奴らも立ち上がろうとはしているけれども、起きることはできない。


 ボコッ!!


 何故なら目の前に、青く光る人間が立っているから。下手に抵抗すれば、あいつみたいに顎が砕け散ってしまうから。ロッカーに頭をぶつけて気絶したくはないだろ。ジャッカルみたいに、顔面にガラスなんて刺さりたくないだろ。抵抗の意思を見せてこない囚人に対しては、軽く殴って気絶させておく。


 しかし、中には抗う者もいる。自分の力を過信しているのか、はたまた先生に恩があるのか。それは分からないが、俺は優しいから殺しはしない。でも、それなりの対処はする。俺は奴の拳を避けながらも窓際に追い詰め、突き飛ばす。


 バリン!!


 粉々になった窓ガラスに倒れ込んだ奴は、数秒後……発狂した。全身に粉となった破片が刺さったのだから。ベランダがあってよかったな、じゃないと地面まで真っ逆さまに落ちていくところだった。全身に破片、これなら死ぬ方がマシかもしれないな。


 そう考えていた時、俺は悪魔の論文を思い出した。匿名の何者かが残した、Dream Powderに関する論文。国際社会がDPを発見する前から、その粉の存在を知っていた人物が残したが、すぐに消されて見れなくなっていた物。「アドレナリンを摂取すると、暴走して爆発する」と書いてあったな。暴走、この暴力的な思考のことか。


 自覚はある。普通なら気絶させるところまでで終わっていた。なのに俺は、あの囚人に対して粉ガラスを全身に浴びせた。他にも顎を砕いたり、ガラスを突き刺したり……ジャッカルはアドレナリンを摂取する前だったな。やっぱり思考がおかしく、暴力的になってきているのかも。


「星田くん、大丈夫?」


 言った通りに後から追ってきた瀧口さんが、俺の姿を見て恐る恐る声をかけてきた。今だけ、彼女の心拍数とか呼吸の音色が分かる。でも、そんな能力、彼女相手には必要ない。顔を見れば分かる、彼女が何を考えているのかなんて。


 窓ガラスに映る自分の姿を見てみると、そこには青く光る鬼がいた。返り血に染まった白いパーカーはもはや白とは呼べない色をしている。黄色いシミみたいな物もできている。収まってはきているが、体は青白く光っているし、どう見ても普通の人間じゃない。


「瀧口さんは逃げて、アイツらは俺が--」


「いいや、2人で倒す。星田くんがこうなったのも私が連れてきたせいだし。山崎義三も私を狙ってきているし、私がケリをつける。だから、一緒に行こう」


 彼女は腰のケースからハンドガンを取り出し、構えながら進む。山崎は瀧口さんに対して「久しぶり」と声をかけていた。何かしらの因縁があるんだろう、とっとと脱獄すればいいのに、ここまで瀧口さんを狙う意味が分からない。俺はロッカーに入っていた特殊部隊用の盾を取り出し、彼女の前で構えながら進んでいく。


「何で山崎は瀧口さんを?」


「私が担当していた事件の犯人が山崎義三で、あるところから送られてきた証拠を元に、私のチームが逮捕した。それがいけなかったね、今考えれば。匿名で証拠を送ってくるって、臣と同じ手口だし」


 本当にその通りだった。山崎は佐野に罪を着せられ、捕まった。臣も匿名で俺たちに情報を与え、佐野を薬物使用者だと特定させた。誰かを陥れたくて、また焦っている時に来る情報は信じてしまいがち。


「実は、山崎義三は無実で、今はもう罪を犯したけれども、当時は--」


「……分かってる。じゃないと、執拗に私を狙う理由にならないからね。あの人にも家族はいた、なのに私が奪った」


 瀧口さんじゃない、悪いのは。罪を着せた佐野が悪い、全て佐野が仕組んだ罠だった。総理大臣の暗殺を防いだ佐野は、その前から能力を使って地位を高めていたんだろう。その過程で不必要になった部下や、邪魔なライバルを消し去っていった。殺さず、逮捕させたりして。


「今の山崎は薬物使用者で、STAGEの敵。STAGEがすべきことは?」


 あからさまに落ち込んで俯いている彼女に、俺は面と向かって声をかけた。


「やっと敬語が取れてきたね、倒そう」


 彼女は笑って、またハンドガンを構えた。


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