第58話 指名手配編10「通り魔事件」

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 アメリカには行かない、だが情報は欲しい。だから俺はショウに黙って、情報を集めに向かった。身勝手な行動なのは分かっている、こんな事態なのに単独で動くというのはどれだけ危険かも理解している。それでも、俺たちにはすべきことがある。


 それは、戦うこと。


 どう足掻いても、俺とショウは薬物使用者であり、どんなに正義の心を残していてもその事実は変わらない。よって、力をどう使うかが大事になってくる。でも今の生活だったら、いつか悪い方向に力を使ってしまう気がする。口座は凍結されたし、持ち金も少ない。このままだったら、誰かに頼らないと死ぬ。


 俺が佐野を倒したい理由はたくさんある。悪を倒すためでもあるし、普通の生活を送りたいからでもある。だがそれ以上に、今制御できている力を失いたくない……という理由もある。ショウも俺も何らかの実験で力を手にしたが、いつそれがどうなるか分からない……何を考えたいのか自分でも分からなくなってきた。とにかく、食糧でも確保するか。ショウの分も買っておこう。


 ここは廃墟都市の隣にある都市、通称"カワサキニューシティ"。東京湾の一部を埋め立てて建てられた都市だが、薬物使用者が過去に何件か爆発事件を起こし、商業施設が立て続けに破壊されたため、都市開発の計画は途中で中止となった。昼なのにも関わらず、ここには誰もいない。強いて言うなら、野良猫と不良ぶってる学生くらいか。


 カワサキニューシティの端にあるコンビニでは24時間営業ではないものの、きちんと商品を入荷していた。そこで俺はおにぎりと弁当を購入した、もちろん顔認証機能なんてついていない店。店員には顔を見られたかもしれないが、フードを深く被っていたし「怪しい人」としか思われていないだろう。現に、ここは不良のたまり場なんだから。


「あっしたー」


 どんなに早口で言っても到底「ありがとうございました」には聞こえない言葉を発する店員は、特に俺のことを疑ってもいない様子で商品を渡してきた。賞味期限は切れているが、消費期限じゃないだけマシか。というか、コンビニなのに賞味期限切れの商品を堂々と売るなよ……せめて割引でもしておいてほしい。金ないんだから。


 さて、ここからどうしようか。情報を集めたいとは言ったものの、そもそも情報を持っている人間が少ない。NEXUSの彼らと会うのなら、待ち合わせ場所を決めておかないと。昔みたいに簡単に会える訳ではない。真田に関しても同じく。彼は情報をたくさん持っていたが、どこから手に入れているんだろうか。


 NEXUSにも入っていないが、瀧口さんとも話したい。色々あるさ、話したいことなんて。俺たちに関することもあるし、薬物使用者の事件に関するものもある。でも彼女と連絡する手段がない。どちらにせよNEXUSの誰かを経由しないと話せない。


 他に情報を持っている人といえば……真犯人と思われる奴らくらいか。SoulT、おそらく俺たちを嵌めたのは奴らだろう。佐野克己と裏で繋がっているに違いない。権力と地位を与えられる、野望を持った奴らなら何でもできる。ただ、それだと今の言っていることと話が違ってくるな。今の発言を全て真と捉える訳じゃないけど。


 それでも情報が手に入るのなら何だっていい、話せる機会があればの話だが。




 バキュン!!




 そう考えていた時、背後から何発もの銃声が聞こえた。急いで振り返って見ると、ハンドガンを持ったコンビニ店員と中学生がお互いに撃ち合い死んでいた。どうなってんだ……さっきまで普通に働いていたぞ、あの中学生だって赤いバイクに乗っていたじゃないか。


 急いで救急車を呼ぼうにも電波が繋がらず、何もできなかった。ただ死んだってのは見て分かる、銃弾が頭部を貫通しているから。肉片も血も飛び散っている。また、薬物使用者に見られる魔法陣も確認できない。となると、彼らは一般人か。なら、どうしていきなり殺し合いなんか……あまりにも急すぎる。


 無駄だと分かっていても心臓マッサージをし、それでも動かないことを確認してから原因を考えていると……聞いたことのある声が奥から聞こえた。


「おはよう。元気にしていたか」


 そう、SoulTの今だ。店員専用の休憩室から出てきた奴はマイバッグを片手に、期限切れの商品を詰めていった。なるほど、奴はテレパシー能力を持っている。やろうと思えば他人の思考も読み取れるし、書き換えることも可能。カイブツ戦の時以来だな、最悪な再会だ。こいつとはもう二度と会いたくなかった。


「おいおい、私は思考が読めるんだぞ。望んだのはお前の方だ、私にあって話したかったんだろ」


 くっそ、こいつ……俺の考えを読めるようになりやがった。前までは「お前は対象じゃない」とか言って読まなかったのに。最悪だ、それにハッタリでもない、きちんと読めてやがる。確かに情報が手に入るのなら会ってみたいとは思った、でもそれは一瞬思っただけで、本格的に会いたかった訳じゃない。第一、何で真犯人と話したいと俺が思う?


「一気に考えないでくれ、私の能力にも限界はあるのだから。まずは質問に答えよう、星田健誠の思考は私を呼んでいた。だから私が来た、気づかせるために彼らを巻き込んだのは失敗だったかな」


 あぁ、どこまでも腐ってやがる。何が俺を気づかせるために彼らを巻き込んだ、だ。殺したかったから殺したんだろ。フィクションにもせよノンフィクションにせよ、悪の組織が考えることはどこまでも最低だな。俺がよく観ていたヒーロー番組の悪もこんなんだった。


「まぁまぁ、ここは穏便に済ませようじゃないか」


 どの口が言ってんだ。


「そもそも勘違いをしている、SoulTは今回の事件に関わっていない。全て佐野克己が仕組んだものだ」


 何言ってんだ。


「疑うのも無理はない。しかし佐野克己の目的は権力の掌握。SoulTの目的は世界征服。つまり私からすれば敵という訳だな。お前らを消すために佐野と協力するメリットが無い。それに---」


 それに?


「お前らはもはや犯罪者。濡れ衣を着せられたという点では私と同じ。そこで提案だ、SoulTに入り腐った世界を潰してやらないか?」


 本当に何言ってんだ。濡れ衣を着せられたのは事実、これはお互いにそうだろう。しかし俺はお前みたいに無実の人を殺したりはしない。薬物使用者を使って世界を転覆しようとも思わない。ただ悪を潰して、正義として戦うのみ。腐った世界を潰すんじゃなく、直すのが俺たちの仕事。


 すると、俺の感情を読み取った今は拳を握りしめ、強い口調で話し始めた。


「……甘ったれるな。そう簡単にこの世界は変わらない、"通り魔"の時もそうだった。奴らは自身の利益のためなら何だってする。例え他人の財産だろうとも平気で破壊し乗っ取る。挙句の果てには殺す。一般市民は奴らを信じるだろうが、彼らもいつかは奴らに命を奪われる。人間の絞りカスみてぇな奴らにな」


 通り魔って何のことだ?


「……まだお前には話していなかったな。2018年に起きた"霞が関連続通り魔事件"、仕事帰りの13名の女性が犠牲になった。犯人は精神的な病を抱えていた22歳の青年、就活に追われる日々とトラウマに耐えきれずに近くにいた女性を殺した最悪な事件。犯人はその後"トーキョー精神治療刑務所"内で首を吊ったらしい」


 そんな残忍な事件があったなんて。そういえば内閣総理大臣暗殺未遂事件が起きたのも2018年じゃなかったのか。霞が関は同時期に2回も狙われていたのか。それに女性だけを襲うなんて最低だ、病気があったとしても到底許されるべき行為ではない。


「……というのは嘘だ、マスコミ用に作られた偽の原稿。真実は、また別にある」


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