第34話 日本の闇

----------


 腕を負傷し、衝撃波をモロに食らったせいかよろめいているミチルに対して、俺の真剣な拳を食らわせる。顔面に何発も、死なない程度に力を抑えながらも、でもある程度の代償は払ってもらうつもりだ。


 これは、さっきの攻撃で腕や足を切り落とされた特殊部隊の人達の分。


 ボコッ


 これは、さっきの刃の攻撃で無駄な体力を消耗したショウの分。


 ボコン……


 これは、幼馴染を失った悲しみから怒っている俺の分。


 ボコン!!


 ネイビーの戦闘スーツは、すっかりミチルの返り血で染まっていたり戦闘での砂埃を被っていたりで、もう汚れしか見えない。胸にあった丸いマークなんて見えやしない。


「待て、ケント……本当のことを言うから」


 何発か殴った後、ミチルはやっと口を開いた。口からは血が出ており喋りづらそうだが、必死に伝えようとしている様を見るに、さっきみたいに突き飛ばしてくることはないだろう。


 その時は目の前にいる赤い武士の正体が幼馴染だったということで困惑していたからだが、今は集中できるから奇襲も避けられる。だからアイツ……ミチルが何をしてこようとも受け止められる自身はある。


「ここだけの話がしたいが、特殊部隊とかあの翼野郎に聞かれたくない」とミチルが言うから、ショウには特殊部隊の前線を下げるように伝え、そのショウもまた遠くに行くように伝えた。


 更に俺の持っているイヤホンは音を出力するだけではなくマイク機能も付いているため、俺はそのイヤホンを耳から取り出して、ミチルの目の前で粉々になるまで握り締めて破壊しておいた。どうせもう少ししたら変える予定だったんだ。これで外部に音声は漏れないはず。


「おっけ……ケントが田島先輩に粉を渡したってのは嘘だ。田島先輩が鎌倉の事件の数日前に俺を呼び出して、俺の彼女の死因の真実を伝えてきた。『お前の彼女は警察に殺された』って。警察からは『死因は薬物使用者の爆発に巻き込まれた外傷』と教えられていたから、ショックだった」


 ……嫌な予感がする。


「同じく田島先輩の恋人も、薬物使用者の爆発によって巻き込まれて死んだと言われていたけど、独自のルートで調査していたら嘘だと判明した。それで田島先輩は、同じく警察やJDPA_Dを恨むSoulTからDPを受け取って武士の格好をして復讐した。結果は大成功だけど自決の道を選んで大爆発」


 ……やっぱりSoulTも関わっていたか。


「そうして代わりに共犯として俺が疑われて、そしたらSoulTが俺のところにも来て『私も愛する人を警察のせいで失った。復讐の時間だ』って言ってきて……それに従った」


 ……SoulTは会見でも「日本に全てを奪われた」なんて言っていたな。彼らの正体をどうにか特定して、裏を暴かないといけない。


「田島って人の彼女とミチルの恋人の名前は?」


「俺の彼女は佐山シグレ。田島先輩の彼女は俺の同級生でもあって……赤井」




 グチャ




 突然、目の前で横たわっているミチルの頭が何者かによって撃ち抜かれた。鎧も兜も着けていなかったため、一発で彼は死んでしまった。頭からは血と生々しい肉片が漏れ出てていて、とてもじゃないけど直視できない。あまりにも唐突すぎて、一瞬何が起こったのか理解できなかった。


 砂利の道に流れ出る血は、辺りを真っ黒に染めていく。肉片も飛び散り、当たり所が悪かったのか彼の目は半分えぐれている。鼻も原型を留めていないし、あんなにかっこよかった顔もぐちゃぐちゃだ。


 誰だよ……誰がミチルを殺したんだよ。


 周辺に特殊部隊は誰もいない。ショウももちろんいない。全員に下がってもらうように指示を出したし。それに銃声も聞こえなかった、話に集中していたから。


 何でだ、彼は確かに悪いことをした。


 でも、今は無駄な抵抗せずに話してくれていた。警察の裏側についてとか、田島という男が鎌倉の事件の犯人だということとか。ミチルはSoulTに関わっているから、ここは捕まえて深く話を聞くことだってできたはずなのに。自決したようにも見えない……何がどうなってんだ。


 このまま何もせずにいると、30秒後に辺りを巻き込むレベルの大爆発を起こしてしまう。しかし無線機は壊してしまったから、ショウや特殊部隊を呼ぶのには時間がかかる。ここは俺、独りで対処するしかない。


「ミチル、ありがとう」


 俺は彼の死体の前で手を合わせ、そのまま持ち上げた。「城を壊してはいけない」と聞いたが、仕方ない時もある。中に人はいない、重要な記念物は沢山あるが……やむを得ない。


 ミチルの両足を持ち上げて、引きずるようにして全力で城の方まで駆け抜ける。その後は全速力で壁をよじ登る。15秒も残されていないが、前に自衛隊基地の壁を登った時よりは、慣れもあるのか簡単に登れる。彼の死体は持っているという感覚を忘れるほどに、不思議と軽かった。


 その軽い死体を、天守閣の上から思いっきり、空中へ投げる。俺のDPの力も加わって、ミチルはかなり上の方へ飛んでいき……そのまま大爆発を起こした。天守閣に付いている瓦は爆発の衝撃によって耐えられずに、何枚か剥がれてしまったが城は壊れていない。


 爆風により地面に敷き詰められていた砂利が飛んでいったが、一般市民への影響はそこまでないだろう。この爆発を見たショウや特殊部隊は城の方まで戻ってきたが、報告することは特になかった。だから「1対1で話そうとしたが自決した」と伝えた。幸いなのか、爆発によって死体は消滅しているから調べようがない。


 俺にはミチルが嘘をついているようには見えない。だからこそ、SoulTを何とかしなければ。それだけじゃない。前のイメータルの尻尾も掴まないといけないし、田島や佐倉シグレの経歴も調べないと……それに、日本の闇も。


 これら全部を、独りで調べないといけない。


 誰も信用できない。


 STAGEとして、パワードとかネイビーとかいう政府に必要とされるヒーローとして戦いながらも、政府の闇を暴かなければ。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る