第39話 アダムとイヴ

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 部屋に案内され、冷たい紅茶を出された。目の前にはセルバー村の村長、横には召使いを名乗る女性がいる。


「私がこの村の村長の、ガラ・フロートじゃ」


 白髪に白髭、威厳からしても歳も結構いってるだろう。また村長の格好は奇抜。地面につくほど長い黄色いマントを羽織り、赤と金が混ざった煌びやかに光る帽子を被っている。他の村人は質素な格好をしていたから、尚更この村長が目立つ。


「強制労働所……という言葉をご存知ですか」


 ロックが話を切り込んでいく。強制労働所という言葉を聞くと、彼は驚いたように話し始めた。


「それはあくまでも都市伝説の一種ではなかったのか。聞いたことはあるが、噂の範疇に過ぎないはずだ」


「いえ、実在すると思われます。何せモンスターを憎むようにせ----」


 ロックは説明途中自ら口を塞いだ。モンスターを憎むように洗脳されているという情報は正しいのだが、今それを普通の人間に言っても信用される訳がない、そういう意図があったのだろう。


 村長は悩んだ後、腕を組みながら「君たちに見せたいものがある、レイはそこで待っておれ」と言った。レイというのは使用人のことだろう。一体俺たち3人に何を見せたいのか。


 彼は立ち上がり、俺たちに着いてくるように言った。彼は廊下の絵画を俺たちに紹介した。

 これは男が時計台を建築している様子だ……とか、こっちは女性が何人もの子供を育てている様子……とか。神話の方も紹介された。


 それは昔、アダムとイヴという2人の人間がこの世に生まれた。神が天と地を作った後、アダムとイヴを作ったとのこと。


 2人は園で幸せに暮らしていたが、食べてはいけないとされている果実を食べてしまい、園を追放されてしまった。そこから人間には罪として、病気や労働の苦しみが纏うようになった……らしい。


 目の前の複数の絵画には、2人の人間が描かれている。果実を食べた後なのか、罪を意識するようになった2人は腰をある葉で覆い、大事な部分を見せないようにと変わっていった。


「都市伝説と同じじゃ。信じるのも信じないのも己次第。もっとも、私は信じとうないがな」


 廊下の最後の絵画には、アダムとイヴの他に2人の人間が描かれていた。題名は『破滅』と書いてある。


「神はアダムとイヴを作ったことを後悔したのか知らんが、もう1組のアダムとイヴを作った。罪を犯さないようにと、ある心を植え付けた……そうじゃが、この話は置いとき。見せたいものは地下にある」


 廊下に不自然に立てかけてあった本棚の一部が扉のように開いた。隠し扉だったか、先には人がギリギリ通れるくらいの大きさの通路が続いていた。薄暗く、前も見えない。足元も見えないため、村長の長いマントで足をひっかけそうで怖い。


 いざ地下室に入ると、これもまたユー・エンドの地下室と同じように、重要そうな書類が大量に置いてある。所々に蜘蛛の巣がかかっており、村長も久々にここに入るようで、地下室の鍵を開けるのにも、あまり手馴れていない。


「君たちになら見せてもいいだろう」


 そう言って彼が机の引き出しから取り出したのは、数枚の絵画。モンスターと触れ合う人間の姿が描かれている。スケルトンと共にはしゃぐ子供、花畑で花を摘む女性とスケルトン。人類が洗脳されるよりも昔の絵画か。


「この絵が存在する理由が分からない、人間とモンスターが共存するなんて有り得ない。人間に害のある絵は処分しなければならないのじゃが、どうしても残しておきたいと感じのじゃ。私の本能か、はたまた……本能か」


 村長は俯きつつもそう語った。


 過去には本当にモンスターと人間が共存していた。その証拠に絵画が残っている。村長もこの絵画を処分せずに残した。洗脳されているのは確かだが、それでも残してくれた村長に感謝するしかない。


「申し訳ないが、私が知っている情報はもう無い。外に出よう」


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 使用人と村長と共に、セルバー村を探索した。ストラート村やレインマークでは見たことがないものばかり。興味が湧くものばかりで、実際にヘイトリッドとロックは村長や使用人に質問ばかりしていた。ルカは呆れたように見ているだけ。


 俺は丘の上にそびえ立つ、古城を見つけた。


「あれは、ラグナーレ城だな。昔ある戦争で使われていたらしいが、人同士の戦争がほぼ無くなった今は使われることが無い」


 結局、取り壊すのではなく、文化として残していくらしい。

 人々を洗脳することによって、モンスターを共通の敵とした結果、戦争が無くなったということか。争いを無くすことは悪くはないが、モンスターはそれによって迫害されていった。結局は人間が良ければ全て良しなのか。


 村長たちに別れを告げ、リバイル村に帰ってきた。


「お疲れやで、あそこの村長さんどえれえ格好しとたやろ? それより、ご飯できっちょるから行きや」


 彼の強い方言にはまだ慣れないな。ご飯ができているから食べてこい……ということで合ってるな。頭を使う会話だ。


 ご飯を食べて、考えながら眠りにつく。


 明日は何をしよう。セルバー村をもう少し探索するか、それともセルバー村の奥にあるまた別の村に行くか。

 またドラゴンの所に行くか、今ドラゴンは近くの森で待機している。セルバー村やリバイル村の人間に気づかれてしまったら、また危険に晒される。近くの森と言っても、人は近づかないとされている森だし平気か。


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