第27話 決戦「ハーフ技術」

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「はぁ……」

 俺は大きなため息をついた。いや、つくしか無かったのだ。


 ここはソーラル城の中にある廊下、俺の他にロックがいるのだが……。

 前には警備の人間、後ろにも警備の人間。そう、囲まれてしまった。屋上に飛び降りてから階段を下り、城の内装もよく分からないまま彷徨っていたら、敵に囲まれてしまった。


 しかもここは細長い廊下。逃げようにも逃げられない。警備の人間は前後合わせて20人はいるだろうか、20対2……限界がある。


「そういえば、アサシンと互角に争えたって言ってたな? ならば、やれる」

 ロックはニコッと笑った。この窮地にてこの笑顔……何を考えているのか。

 確かに黒ずくめの剣士……いやアサシンと戦ったし、何なら俺が勝利した。結果的にアサシンは自ら死の道を選んだのだが、戦闘面で言ったら……俺が勝利したと言っていいはず。


「ここは任せた」

 ロックは俺の肩をポンっと叩いた。俺に期待しているのか、それとも。まぁ、いける気がする。


 俺は背中に差してあった2本の剣を抜き、両手に持った。友情の証の盾は今は必要ない、攻撃を防ぐ必要などない。

 相手は全員重そうな鎧を着ていて、機動力には欠けている。剣と盾も磨きがかかっているが、機動力に欠けている以上、関係ない。


 息を吸って、吐く。


「やれ!」

 周りの人間はみな剣を持ったまま襲いかかる。先に言った通り、彼らに機動力など一切ない。敵からの攻撃を防ぐためだけに作られた鎧を着ているようで、本来の鎧の意味をなしていない気もする。


 俺は助走をつけて、天井に届くほど高く跳ぶ。そのまま落下の力と共に、前にいた人間の顔面に強い蹴りをかます。鎧だろうが関係ない、蹴られた人間は強く吹き飛んだ。

 着地した瞬間、背後に気配を感じた。それはそうだ、まだ兵士に囲まれている。あと19人ほどはいる。

 この勢いで背後にいた兵士に向かって回し蹴りをかます。踵で強く顔面を蹴るも、鎧を着た人間には歯が立たない。だから押すように蹴る、そうすれば相手は吹き飛ぶ。


 2人を連続で飛ばせた俺を見た彼らは距離を取り、また剣を構える。ここで俺は思い出した。鎧にはある程度の機動力を残すため、金属に覆われていない部位があることを。


「はっ!」

 気合を入れて声を出す。


 前にいた兵士3人が俺に向かって剣を構えたまま走ってくる。金属に覆われていないのは、肘と膝などといった関節部分。

 ここを狙って、剣を刺すだけ。

 兵士3人の攻撃をかわしつつ、両膝に剣を入れる。剣を入れられた兵士らは悲鳴にならない声を上げた。良かった、効いているみたいだ。


 後、15人。


 この要領で、両膝、両肘に剣を刺し込んだ。悶える者もいれば、悶え切り声も出ない者もいる。ああああ、ああああと何を言っているのか分からない声を上げる者がほとんど。これでも城に勤めている警備の人間なのか。


「いや、君が強すぎるだけなんだがな」


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 先の戦闘から数十分が経過した。あの20人だけしかいないのか、あれから一切人に出くわさない。全員屋上に集中しているのか、廊下にいる俺たちをあえて野放しにしているのか、目的は不明だが。


突如、ロックがその場にへたり込んだ。その上、何かを小さく呟いているようにも見える。


「来るぞ……」

 ロックは緊迫した口調でそう叫んだ。何かに怯えているのか、はたまた体調が優れないのか。


「来る……モンスターが」

 そうだ、彼にはモンスターの位置を特定する能力があった。それにしても、何故ここに?ここは結界が張られていて、ドラゴンも近づけないと言われていたはずだ。結界があるという情報が嘘だったというのか?


「戦うか?」と俺が聞くと、彼は切羽詰まった顔で俺の前に立ち、こう言った。


「悠長なことを言うな! 何百体ものモンスターが向かって来ている! 既に何十体か、近くにい……」

 突然彼は黙り込み、目線を俺から廊下の先に移した。


「来た……」と彼は小さく呟いた後、剣と盾を構えた。薄暗い廊下の先からコツコツと歩く音が聞こえる。どんどん近づいてくるが、複数人が歩いているようにも聞こえない。


 コツコツ……コツコツ……


「やぁ」

 目の前の人間はそう言った。人間か……人間にしては身長が高く、口の中に鋭い牙を有している。紫色の服を着ており、何とも奇妙な格好をしている。

 牙を有している時点で、普通の人間ではなさそう。モンスターだろうか、それなら楽勝だが……ロックはずっと震えている。


「スカイ、あいつ1人の体から……」

 声も震えており、最後までよく聞こえない。


「あいつ1人の体から、モンスター20体の反応が……」


 は? 目の前のあいつが人かモンスターか分からないが、モンスターだと仮定しても……20体の反応が出ることなんてあるのか。他の階層にモンスターがいるのか、だとしたら結界はどうなった? ならあいつは、20体のモンスターが結合した存在なのか、そんなこと有り得るのか?考えれば考えるほど矛盾と疑問が生じる中で、向こうから声を発した。


「モンスターの位置特定の能力を持つのか、良い人材だ。是非とも土地を与えたいものだ」と目の前のあいつは高笑い。

 ロックは負けじと剣を構えたまま、あいつの目を睨み続ける。


「おっと、冗談だよ。それにしても、いい目つきをしている。前世は獣だったのかな」


 煽り続ける奴に耐えきれず、ロックは先制攻撃を仕掛けた。盾を構えつつ、剣を奴の心臓に突き刺すように突進した。が、外れた。透明な壁にぶつかったのか、ロックは強く跳ね返されてしまった。


「私から20体分の反応があると言ったな。何のモンスターか答えられるか?」と奴はロックに尋ねる。

 普段、ロックは冷静沈着な男だ。だが、今の彼は強敵を前にして怯える小動物のようである。


「ゴーレム……ゴブリン……スライムにスケルトンに巨人にジャガーノートに……オーク、ヴァンパイ……」とロックは説明しつつも言葉を詰まらせてしまった。


「1番重要なのが言えていないぞ?何だ?」


「……ゾンビか」


「そう、私の身体には20体近くのモンスターの遺伝子が組み込まれている。俗に言う”ハーフ技術”だが」


 俗に言う……? 初めて聞いたぞ、その単語も。この男はハーフ技術のおかげで、モンスターの力を使うことができるようになったのか?透明な壁も、ゴーレムらへんの力を使ったということか?


「ハーフ技術、知らなかったのか? これは失敬、代わりに実演と行きましょうか」

奴は指を鳴らし、大きな声を発した。


「結界を解除せよ」


《結界 解除》


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