第7話 リア充(嘘)の自爆テロ

 今日は月に1回の服装チェックの日だ。

 俺だって服装の乱れは心身の乱れだって言うのは理解出来る。

 だけどワザワザ生徒を並べて一人づつチェックしていくのは大げさじゃないか?

 まぁ、そんなに校則が厳しい訳じゃないから困ってはいないけど、気分的によくねぇんだよな。

 指導される人も殆どいない。前回注意されたのはクラスメイトの高橋だけだ。

 ツーブロック禁止だから髪の長さ揃えてこいってやつ。

 仲良くないから、どうでもいいんだけど……隣で騒いでいる珠美がうるせぇ!


「ねぇ、聞いてるのヒロ? こんなのおかしいよ! 転校前の学校では無かった。横暴よ!」


 珠美が俺に向かって捲くし立てる。

 休み時間くらい静かにラノベを読ませてくれよ。

 俺は学校の苦情窓口でも、お悩み相談室でもないんだぜ?


「大騒ぎする事じゃないだろ? 学校指定の制服着ているし、珠美の服装なら普通に合格だ! 初めてでも安心するが良い」

「そんな事じゃない! ヒロには義侠心はないの? 今こそ学校の横暴に立ち向かうのよ!」

「義侠心……ありません、じゃ」


 めんどくさいな。別に俺は困らない。

 決められた様に制服を着こなして、校則で禁止されていない髪型するだけだ。

 嫉妬で俺を避けていたクラスメイトのお洒落事情なんて……どうでもいい事だろ?


「ねぇ、ねぇ、頑張ったら沙織が惚れるかもよ?」


 それこそどうでもいい!

 百歩譲って自分が惚れるって言えよ!

 あっ、ええっと、別に珠美に好かれたいって意味じゃないんだけど。


「私は惚れないけど協力してあげてよ。可愛い女の子のお願いよ」

「良かったなヒロ! 可愛い女子に誘われるの夢だったよね? おめでとう!」


 沙織と賢治まで現れて何を言ってるんだ!

 どこに可愛い女子がいるんだよ!

 見た目だけは可愛いよ! でも、珠美は魔王同然だぞ!

 言うこと聞いたら絶対地獄に堕ちるに決まってるだろ?


「二人は責任取れるのかよ? 悪魔との取引で俺が大切な物を奪われても!」

「誰が悪魔よ!」


 アンタだよ珠美! 俺は心の中で叫んだ。


「責任は取れないけど、笑いなら取れる自信があるわよ」

「焼きそばパン奢るよ」


 それはヒドいよ沙織様!

 賢治は……許すか……焼きそばパンに感謝しろよな!

 親友の二人にまで言われたら仕方ないな。

 俺は珠美に連れられて屋上で作戦会議を行った。

 作戦がバレないようにって事だけど、屋上で女子と二人っきりって普通ならドキドキするシチュエーションだよな。

 だけど別な意味でドキドキする事態になった。

 これっ、本当に、やるの、俺!

 確かにコレなら校則に違反せず先生達をおちょくれる……だけどーー


 午後の服装チェックで謎の歓声が上がる。

 皆が注目しているのは俺と珠美の二人。


 ブレザーをまくって頭に被せた格好の俺。

 ブレザーの裾をスカートに入れた格好の珠美。

 ネクタイを蝶結びにしているのはお揃いだ!


「何を考えている……お前等?」


 先生に注意では無く、行動の真意を問われる。

 ですよねぇ~。もう引き返せない。

 珠美と関わると毎回このパターンだな。

 俺は腹をくくる……気分的には首をくくっているけどな。


「え、り、ま、き、と、か、げぇ~」

「何か問題ありました? 校則には違反してませんけど」


 俺たちの健闘を受けて爆笑の渦が生まれる。


『リア充が自爆テロした~』

『またやらかしたぞバカップル!』


 おいっ、お前は笑うな高橋!

 お前のせいだろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 結局、俺たちは放課後残って反省文を書くことになった……



 *



 珠美に巻き込まれたせいで、帰りが1時間も遅れたぜ。

 そのせいで焼きそばパンを買い損ねたのは痛い。

 焼きそばパンを奢るって言ってた賢治相棒を信じてるぜ。

 電車を降りてホームに出ると……いるじゃねぇかタマさん。

 いつもの下校時間から1時間も遅くなったのに出会えるとはね……町中では一切会わないのに。

 タマさんはどの辺に住んでるんだろう?

 後で聞いてみりゃいいか、頼れるタマさん先輩に聞きたい事があるからね。

 俺と珠美で走り寄って呼びかける。


「「タマさーん!」」

「どうした? 今日はいつも以上に騒がしいね」


 俺と珠美は何時もの配置につく。


「タマさんに貰いたいんです! 勝利の鍵を!」

「勝利の鍵ってなんだよ! 説明しなきゃ分からんだろ?」


 俺たちは学校の服装チェックについてタマさんに説明したが、いつも明確な回答をくれるタマさんが難しい顔をしている。

 タマさんでも流石に学生特有の事情にはアドバイスしづらいか?

 数分の沈黙の後、タマさんが重い口を開いた。


「『つーぶろっく』って何かね?」


 俺と珠美がこけそうになる、ベンチに座っていてもだ。


「こんな感じで髪型に段差が出来るような髪型の事で、校則で禁止されているんですよ」


 俺は手振りでタマさんに説明した。


「それは大変だね。私が学生の頃は沢山いたからねぇ。禁止されてたら先生達も大変だったろうね」

「タマさんの学生時代もツーブロック流行ってたんですね」


 珠美は気づいていないが、俺は違和感を感じて黙る……先生達?

 タマさんが俺たちと同じ年齢だった54年前に先生達の間で流行ってた?


「タマさん……その先生達どんな感じのツーブロックでした?」

「ほれっ、こんな感じで頂点が短かったさ」


 タマさんが頭頂部をさすってる!!

 やっべー、それ駄目なやつだ!


「それよ! 流石タマさん! 私の勝利の鍵!」

「待て止めろ珠美!」


 俺はすかさず、暴走する珠美を止める。こいつ理解してねぇな。

 タマさんは純粋に勘違いしているだけだけど……純粋に勘違いしているだけであってるよね?

 俺は少し不安になったーー

 だが、そんな事考えてる場合ではない!


「何ビビってるのよ! 明日、トップが短いツーブロックは何で禁止じゃないのか聞いてやるわ」


 それはジェノサイドだよ珠美さぁぁぁぁん!

 無差別攻撃だ! 戦争でも守るべきモラルがある!


「待てと言っただろ! それを言ったら担任の山口先生まで抹殺する事になるぞ!」

「ちっ、仕方がないわね。山口先生に迷惑はかけられない」


 担任の山口先生の名前を出した事で珠美が止まったぜ。

 ありがとう、そしてなんかゴメン山口先生。


「楽しそうな学生生活を送れているようだね」

「えぇ、楽しませてもらってますよ……存分にね。それよりタマさんは帰宅しなくて良いのか?」

「おやおや、寂しい事を言うねぇ。ヒロは帰って欲しいのかい?」

「ヒドいよ、ヒロ」


 俺は心配しているだけなんだけどな。

 別に早く帰れとは思っていないけど、今日はいつもより帰りが1時間遅くなってるんだぜ?


「俺たちいつもより1時間も遅くなったのに、タマさんがまだいたから心配になっただけさ。家は駅から近いんですか?」

「女性の自宅を聞き出そうとは大胆だねぇ」

「ヒロのエッチ」


 全くこの二人は……何でも恋愛に結び付けるな!

 あまりタマさんに迷惑をかけられない。俺は珠美を強引に帰らせる事にした。


「おいおいっ、駅から帰るのに時間がかかるか心配しただけだろ? 珠美、そろそろ帰るぞ」

「何でよ。今日は遅くなったから、もっとタマさんと話していたいんだけど」

「遅くなったからだ! タマさんの帰りが遅くなるだろ?」

「分かったわよ。またね」


 俺達は階段を上り改札へ向かった……そんな僕達をタマさんはベンチに座ったまま、最後まで見守っていたーー

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