第4話 たまたま出会った珠とタマ

 学校がある駅から僕達が住んでいる町の駅までは、たったの7分で辿り着く。

 だが駅の様子は全然違う。見渡す限り海と山しかないのだ!

 当然の事だが通学・通勤時間以外で駅に人がいる事は無い。

 無人駅だから駅員すらいないのさ。

 だけど駅から見える海の眺めは最高だ。

 そう思っているのは俺達だけでは無いみたいで、たまにドラマやアニメで取り上げられる。

 それが少しだけ自慢だったりする。

 今日は珍しく駅のベンチに人が座っている。

 高齢の見知らぬ女性だ……ご近所さんではないな。

 聖地巡礼とか言って一時期、集団で押し寄せて来た事はあったが、女性が一人で無人駅にいるのは珍しいな。


「制服でデートかい? デートの時くらい洒落た格好は出来んのかい?」


 はぁ? いきなり話しかけられた。

 アンタ誰だよ! デートじゃないし、余計なお世話だ!


「貧乏だからねぇ。制服しか着るものがなくてねぇ」


 俺は精一杯皮肉を込めて爺さん風に言ってみせる。


「それは済まなかったな。配慮が足りなかった」


 話しかけてきた見知らぬ女性が神妙な口ぶりで謝罪し、僕に向かって頭を下げた。

 あれっ、素直だ。

 嫌みっぽい性格だと思ったから皮肉を込めて言ったのに……


「真面目に聞かない方がよいですよ。ヒロは嘘つきだから」


 珠美が見知らぬ女性に興味を持ったようだ。

 しかし嘘つきってなんだよ。

 珠美だってこの女性と同じで殆ど初対面同然だろ?

 俺の何が分かる?


「フォッ、嘘だって分かって話に乗っかってやったのさ! ヒロだったか? 戸惑った様な顔しとったぞ」


 女性が勢いよく吹き出す。

 最悪だ、この婆さん、最悪だっ!


「珠美、私は小鳥遊珠美です」


 珠美が女性の隣に座った。


「珠美ねぇ……それは奇遇だ」


 何を思わせぶりな事を……またからかうのだろ?

 しかたねぇな。

 今更珠美を置き去りにして帰れない。俺もベンチに座った。


「私はねぇ、鈴木タマって名前なのさ。たまたま『たま』が揃ったねぇ」

「お揃いだぁ。タマさんって呼んでいいですか?」


 おいおい、珠美は信じてるのかい?

 明らかにつまらないダジャレだろ?

 適当に合わせているだけだよな?


「おやおや。ヒロは信じてくれないようだね。彼は人間不信なのかね?」

「そうなのよ! 素直に沙織と付き合ってくれればいいのに」

「沙織? 珠美さんはヒロと付き合っておらんのかね? 二人っきりで出かけてるのに?」

「ま、まぁ付き合ってはいないけど、たまには出かけたくなる……なぁって」


 誰が人間不信だ!

 あんたらが初対面の相手にプライベートな事を話しすぎなだけだ!

 しかも初対面の相手に何の説明もなく、いきなり沙織の名前を出しても分からんだろ?

 流石に二人揃って休日と知らずに登校した事は隠したようだがな。

 そろそろ帰りたいから、珠美に目配せをする。

 だが、反応したのは珠美ではなくタマさんだった。


「お二人は知らないようだけど、今日は敬老の日だからもう少し付き合ってもらえんかね?」


 タマさんや……アンタ俺達が休日と知らずに登校したの気づいていたな?

 珠美は気づいていないようだが、タマさんは中々の食わせ物だな。

 見た目は性格が良さそうな、上品なお婆さんなんだけどな……

 仕方がないが、今日はこの二人の話で一日が終わりそうだ。


「私はヒロと親戚の沙織を付き合わせる為に転校してきたの!」

「他人を付き合わせる為に転校するとは思い切った事をするもんだね。私も作戦に参加したいね」

「ぜひぜひ!」


 一体なんの作戦だ!

 しかも本人の前で作戦を立てるって、どういう神経してるんだ?

 いちいち気にするのも面倒だ。

 俺はベンチに座ったまま、黙って海を眺める。


『あぁ、早く終わらねぇかな……』


 珠美はすっかりタマさんと意気投合したようだな。

 会話には参加していないが、話の内容は聞こえている。

 タマさんは71才か……俺たちは17才だから丁度真逆だな。

 今日引っ越してきたらしいが本当に物好きだと思うよ。

 普通は移住先として思いつかない場所だし、駅前は郵便局くらいしかない。

 特徴と言えば、定期的に駅前で農作物を売ってる事くらいだからなーー



 *



 結局、話が終わるまで一時間も待たされた。

 ふうっ。ベンチから立つ。腰がいてぇ。


「やっと帰れるか」

「やっとって何よ! 失礼じゃない!」


 珠美が怒りだす。

 何で怒るんだよ? 俺は黙って待っててやったんだぜ?

 俺! 絶対! いい奴!

 珠美の様な小娘には分からなくても、タマさんなら分かってくれるさ。


「何で怒られなきゃならんのだ? 俺は大人しく待った。忠犬の様に待っていた。タマさんも、そう思うだろ?」

「その通りだねぇ。なかなか我慢強いではないか。少しくらい認めてやったらどうだい?」


 ナイス、タマさん!

 まさか本当に俺のアシストをしてくれるとは思わなかったぜ。


「分かったわよ。長々と付き合ってくれてありがと」


 珠美が謝ったぁぁぁぁっ!

 やかましい珠美も女性として大先輩のタマさんに言われたら反論は出来ないようだ。

 我らの勝利だ! さて、これで心置きなく帰れる。


「さようならタマさん」


 俺はタマさんに手を振り改札に向かおうとしたが、


「次は餌を用意しておくからね、ヒロ公!」


 プフッ!


 珠美が吹き出した声が聞こえた。やっぱ食わせ物だ!

 悔しさで俺の拳が震える。タマさーーーーん!

 悔しいがこれ以上時間を使いたくない。

 俺達はタマさんに再び別れの挨拶をして去った。

 今日は本当に疲れたな。

 駅を出て珠美とも分かれた。

 さぁ、もうひと頑張りだ!

 駅を出て自宅までも坂道が続くのだからーー

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