Limited~二人のたま~

大場里桜

第1話 出会い……がしらにガコン!


「待ちなさい! 斉藤さいとう 博樹ひろき!」


 校門をくぐった所で、突如背後から自分の名前を叫ばれる。

 聞いた事がない声だな。

 振り返るとショートカットの小柄な少女が駆け寄って来ているのが見える。

 同じ高校の制服だけど初めて見る女の子だ……転校生か?

 考え事をしている一瞬の間に少女が俺に近づき……つまずいた!!

 こ、これは伝説のラッキースケベ!!

 このまま抱きとめてキスする流れでOKだよな。

 知らない子だけど事故なら仕方がないさっ!

 抱きとめる為に両手を広げる俺に、少女の顔が近づいて……近づいて……つむじがぁ!


 ガコン!


 少女の頭が俺の顎にクリーンヒット!

 彼女の唇が遠いたと同時に、俺の意識も遠のいたのであった。



 *



 はっ!

 目を覚ましたら保健室のベッドの上だった。

 倒れたのが学校の敷地内だったから、誰かが運び込んでくれたのだろう。

 俺は直ぐに顎の状態を確かめる。

 割れたのは新しい恋か……俺の顎か……両方だろうな。


 ガラッ。


 保健室のドアが開いて3人の生徒が入室する。


「よおっ、元気になったか? お姫様」


 何時も通り軽口が絶えない相棒だ。


「元気になったよ王子様」


 我が相棒である幼なじみの赤羽あかばね 賢治けんじに投げキスを飛ばす。


「相変わらず気持ち悪いのよ……少しは反省しなさい」


 もう一人の幼なじみの田中たなか 沙織さおりか……いつも説教臭い事しか言わないから全校生徒どころか、先生にまで『沙織様』って呼ばれてるんだよ。

 何を反省するってんだよ! 友人と仲が良いのは……良い事だろ?


「何時まで寝てるのよ! アンタが倒れていたら私が悪者にされるじゃないの!」


 こいつは朝の女! 俺の顎の仇!

 しかも性格悪そうだな。

 朝のトキメキを返せっ!


「そんなの知るかっ! デンジャラスつむじ!」

「はぁぁぁぁっ? 誰がデンジャラスつむじよ! 薄毛みたいな名前で呼ばないでよ!」

「失礼だなっ! 全世界の薄毛に謝れっ! お前のは命の危険がある方のデンジャラスだ!」

「まぁ間違っていないわね。私の可愛さは命の危険を感じさせるものだっからぁ」


 あぁ、頭が痛い。なんだよコイツ。

 賢治と沙織の様子を見て分かるが、ただの加害者として見舞いに来ている訳ではなさそうだ。


「なぁ賢治さんや。この危険物は誰が持ち込んだのかね?」

「誰が危険物よ!」

「私の親戚よ。今日から一緒に通うから面倒見てね」


 黙って首を振る賢治のかわりに沙織が答えた。

 この妙なテンションのメンドクサい女が沙織の親戚だって?

 沙織は少し説教臭いけど正真正銘、育ちが良いお嬢様なんだぜ。

 育ちが良い黒髪ロングのお嬢様を思い浮かべてみてくれよ?

 その思い浮かべたイメージが沙織そのもので間違いないさ。

 正に絵に描いたようなお嬢様。

 幼なじみだから普通に接しているが、本来であれば俺たちの様な一般人が関われる相手じゃない。

 まぁ高校生に身分もなにもないのだけどね。

 目の前のショートカットの小柄な少女が本当に沙織の親戚なのか気になる。

 だから不躾とは思ったが、まじまじと見てしまった。


「何ジロジロ見てるのよ。私は小鳥遊たかなし 珠美たまみ。斉藤博樹と沙織の恋を成就させる為に転校した天使よ!」


 はぁ? 何でこうなった?

 いきなり登場した新キャラが、なんで俺と沙織をくっつけようとする?

 しかも、そんなくだらねぇ理由で転校だって? 意味が分からん?


「天使だって? だから俺に裁きを与えたのか?」

「誰が裁きを与えたってぇ?」

「俺の顎に裁きを与えただろ?」

「私が与えるのは裁きじゃない! 愛だからっ! 二人をドロッドロの深い愛に沈めてあげるわ!」

「アンタが沈めたのは俺のい・し・き・だあっ!」

「下校時間だからいい加減止めましょ。初対面なのに仲がいいのは良い事だけど」


 舌戦を繰り広げる俺と珠美を沙織が止める。

 下校時間だって……そんなに長時間意識を失っていたのか。

 恐るべし珠美のつむじ!


「沙織に迷惑かけたくないから、今日はここまでにしておいてあげるわ斉藤博樹!」

「毎回フルネームは面倒じゃないかな? 僕たちはヒロって呼んでるから珠美さんも呼び方変えてみないかい?」


 ナイス賢治!

 フルネームは呼ばれる方も恥ずかしいからね。

 珠美は少し悩んだ素振りを見せた後に元気よく言った。


「分かったわよ。それじゃ貴方もあだ名で呼ぶから。宜しくねチャバネ!」


 チャバネ?

 何だよそのゴキブリみたいな呼び方は!

 賢治もつぶれたカエルの様な表情をしている。

 学校一のイケメン王子が台無しだ!


「ちょっ、珠美さん。僕は赤羽賢治だから普通はケンジって呼ぶよね?」

「茶髪で赤羽なんだからチャバネでしょ! これぞ天才の発想!」


 天才通り越して悪魔だよアンタ!

 でも黙っておこう。

 俺には大事な任務があるからだ。

 急いで帰らなければ、お気に入りの焼きそばパンが買えないのだ。

 頑張れチャバネ……じゃなくて賢治!

 ゴキブリ呼ばわりでも俺たち親友だぜ!

 早く帰りたい俺は皆を急かし、保健室を出て帰りの支度を始めたのだった。

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