勝利だギューちゃん

第1話

「久しぶりだね」

「うん」


今、僕は夜景の綺麗さで人気の高級レストランにいる。

本来なら、僕みたいな人間には不釣り合いな場所だ。

自分でも、それはわかる。


「相変わらず、こういう場所は苦手なんだね」

「うん・・・」


眼の前にいる女性は、綺麗におめかししている。

それに対して僕は、スーツ姿だ。


女性とは学生時代の同級生とか、幼馴染とか、そんな関係ではない。

会社の同僚とかでもない。


「じゃあ、再会に乾杯」

「乾杯」

グラスを重ねる。


女性のグラスには、カクテルが注がれている。

名前は知らない。


女性は僕とは同い年だ。

面識はある。


女性は本来なら、僕なんかが手に届く存在ではない。

とあるきっかけで、知り合うことになる。


以来、たまに会っていた。

何度か食事もしたが、このような高級レストランは拒んだ。


もっとも、ふたりきりで食事をするのは、初めてだ。


「子供は元気?」

僕は女性に尋ねた。

「うん。元気だよ。あなたは結婚したの?」

「独身だよ」


女性は笑みを浮かべる。

意図はわからないが、不快な気分はなかった。


「まさか、あなたとこうして食事出来るなんて思わなかったわ」

「僕もだよ」

「さっきあなたを見かけて、取り次いでもらったんだけど、迷惑だった?」

「いや。それはいいんだけど、よくわかったね、僕だよ・・・」

「女の子は、一度好きになった男の子の事は、すぐにわかるんだよ」


好きというのは、LIKEだろう・・・


「でも、とうしていきなり僕と・・・」

「あなたの活躍は耳にしてるわ。それで話を聞きたくて」

「本名ではないんだが・・・」


彼女は、かつてアイドルだった。

芸能界のスターだった。


しかし、最近は垣根が薄いのか、親しくなる機会が多い。

彼女と僕も、その関係なのだが・・・


「立場が逆転したね」

「そんな大袈裟な・・・」


僕にとって、彼女はいつまでも、スターなのだ。

それは、変わらない。


彼女は太陽だ。

自力で輝ける。


僕は月だ。

自力では輝けない。


「あなたは地球だよ」

「地球?」

「君の中には、大勢の人が住んでいる。

とても、住み心地がいい。

私も今では、その住民だよ」


僕が地球でも、彼女が太陽であることには変わらない。

彼女と言う太陽がいるから、微笑みがある。


「じゃあ、これからの活躍を祈って、乾杯」

「乾杯」

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勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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