第69話 ギュゲスの指輪 3
直感が判断基準!更に決断力で人生でも戦闘でもサバイバビリティを発揮してきたアトキンズにとって哲学は退屈なものだった。
(だからと言ってバカじゃないのよねえ……)
そんなアトキンズをフレヤはむしろ大したものだと感心している。
(たぶん…この人は途中をすっ飛ばしても結果的には正しい選択をしているような?生まれつき、なんてことはないか…戦闘機の刹那の判断で
フレヤは呆れて苦笑する。アトキンズは葛藤や苦悩を避けるのではなく意にも介さずに
「?」
「ああ、何でもないのよ?気にしないで………んんっ!さて、長い前置きをしたけれど、ちゃんとこの指輪の話をしましょうか?」
くすりと笑ってからフレヤはせき払いをして仕切り直すと指輪を摘んだ。
「この指輪はね、母親にもらったモノなの」
「形見、じゃあ無いよな?まさかその指輪が本物の…姿が消える指輪なんてことは……?」
「ふふ…はめてみる?」
「!、おいおい……っウソだろ?」
思わずアトキンズが身を引いた。魔女という超上の人種に改まられると指輪の鈍い光が特別なものに見えてくる。
「冗談よ…そんな
「ハハ……そうだよな?」
「でもウチではギュゲスの指輪として、私は母さんから、母さんはおばあちゃんから、おばあちゃんはひいおばあちゃんからと、代々指輪を与えられてきたの。もちろん、その度に新品の指輪をね……」
その指輪をアトキンズは見つめた。
「ギュゲスの指輪として?」
「そう。私達は望んでいたわけでは無いけれど、ギュゲスの指輪以上の『力』を与えられて生まれてきた。一体何のために…そう考えたこともあるけれど、答えがあるとも思えないし、結局は単に足が速いとか、アタマが良いとか、飛行機の操縦がウマいとか、ただ普通よりちょっと…特殊で特別な個性を持っているだけだと思うようになった」
「あれをちょっととか言うなよ……」
散々目の当たりにしているアトキンズは魔女の能力を受け入れてはいるが、やはりあれは夢だったのではないか、まだそんな錯覚を引きずっていた。
「そうよね?私達にとっては当たり前で長く馴染んでいることでも、他人から見ればやっぱり危険で、理解のできない『魔法』なのでしょうね?」
「そうだな…まさに神話クラスの超能力だな。でも、それは君達に対する不理解……知ろうとしてこなかった人々と歴史が根本にあったからだ。ホントに人間は臆病で、懐が浅くて心も狭いもんだよな」
「くす……だけどそれでも、私達は共存していかないと……それに、それだけじゃ無い。歯止めも効かずこの力の奴隷になってしまえば、同族の中でも居場所が無くなってしまうのよ」
アトキンズは天井を眺めて考えた。
「だとすればやはり……俺がまだ知らない力があるんだな?まあ、それも当然か……」
「そうね…だから、この、私のどの指にも収まらない大きな指輪は母さんの想いであり、戒めなのよ。『力』の使い方を誤らないようにね……」
「そうか、なるほどな。この上なく納得した」
神妙に頷くアトキンズを眺めて、彼女はニヤリと口元を上げた。
「ええ、どこかのイイ男の思い出じゃないから、安心なさいな?」
「っ!、な、なんっ!?」
そしてジットリと何かを見つめられている。それを避けようもないが彼はたじろいだ。
「ま…ったく…………も、もちろんそんな勘ぐりもしたさ。そんなの当然だろう?」
「ふふ……そうね」
急に居心地が悪くなってアトキンズは紅茶を
「君達に限らず、この俺の腕に宿っている力も同じことだな。何を握るのか、何にぶつけるのかは俺にしか決められない、か…………とは言え、ホントに君の力には興味が尽きないが…やめておこう」
「ふうん、殊勝だこと。まあ、覚悟や決意も無しにあまり深入りされてもね……」
アトキンズは何やら含みのある言葉と顔を見せられて一旦は腰を引くが…
「ん?ああ…分かっているさ……しかし君は『聞かなきゃ始まらない。答えるかどうかは私の勝手』と言ったよな?」
ひるむことなく当たりに出た。
「!?……どうしたの、今日は?まあ、確かに言ったわ。ワタシに二言は無いわよ」
「まるで挑戦を受けるチャンピオンみたいだな?別にそんな身構えるようなことでも無いが……君と出逢って魔女の力を垣間見て、俺の中にも君達と同じ血が流れていると言われたりして、色々と考えて…いや、取り止めのない想像だな。それとか自分の家系にも興味が湧いたりな……」
「そう…それで?」
「まあ、いくら想像を巡らしたところで実感も無いものに答えは出ないワケだが、やっぱり大きな疑問はひとつ……君達の力は一体何なんだろうな?」
生真面目なアトキンズの顔を見たフレヤは不可解を目で首を傾げた。
「…………は?」
「は……?」
「ナニ切り返しているのよ!突拍子も無いし言っている事が大雑把すぎて…何を聞かれたのかすら分からないでしょ?」
すると彼は口をへの字に曲げて腕を組んだ。
「そう、そうなんだよな。具体的に何を考えればいいのかも分からない……考えるのは苦手だが、俺もこうまでままならないのは初めてだよ」
呆れたフレヤはため息をついた。
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