第58話 理解できない覚悟 5
「少佐のこと……」
「ん?」
「パイロットとして少佐のことをどう思います……?」
「ええ?」
取り
「私はパイロットじゃないわよ?」
「そうかな?」
「それにしても変な質問ね?まあ……すごいんじゃない、彼はパイロットとしては?きっと、飛行機を操る道具としてじゃなくて、鳥の翼のように自分の一部だと思っている。その自然さが他の人との決定的な違いかしら?」
「いつも少佐は飛行機のことが感覚的に分かると言っています。まるで自分の身体の調子を推し量るみたいに……」
「ふむ、機械相手でも神経が通うのかしらね?」
「『共感覚』とは違うんだろうなあ…」
少し考えてローレルがそんな事を
「共感覚?」
「ええ、『シナスタジア』…本来とは異なった感覚器の知覚。ごく
(それって…)
「はたしてそれが異常なのか、それとも人間のバリエーション、多様性として考えるべきなのかは分かりません。ただ、でも少佐の場合は、どの程度身体の感覚とシンクロしているのか分からないから何とも…多分経験の
「共感覚……ね」
ローレルが話す共感覚の世界は、今までフレヤが目にしてきたモノと似ているかもしれない。それで彼女達の能力を
「フレヤさん?」
「え?ううん、何でも無いわ。でも…」
「?」
「彼がどんな能力を持っているにせよ、飛ぶことに関しては私を超える感性を持っているかもね?」
ローレルがハッとフレヤを見る。
「それってつまり?」
「ううん、飛行機が劣っているとか言いたいワケでは無いのよ?ただ私とは飛ぶ方法が違いすぎる。だからもし彼が私と同じ能力を持っていたなら、私は勝てないかもしれない、そう思うワケ…」
フレヤは目を伏せて言葉を続ける。
「そんなふうに思えたのは私にとって初めてのことだし、セアラ
そして見せる無邪気な微笑みにローレルはキュッと手を握った。
「フレ……」
「ん?」
「あ、いえ……フレヤさんが、私は、羨ましい……自由に空を飛ぶことができて……少佐と、空を共有することができて……」
するとフレヤは眉を僅かに上げて言う。
「自由、ねえ……なら、あなたもパイロットになればいい」
「ぱっ?!わ、私が…っ?運動音痴でまかり通っていて、テニスをすれば後ろにボールを飛ばすのが特技の私がっ?」
「は?それってむしろ凄いけども?どういうこと…??」
「解りません!流体力学よりも難しいことは間違いありません。私にとっての『コラッツ予想』です!」
「コラ……?え?ナニ??」
「簡単そうなのにまったく解けない……ムズムズと自分がもどかしくなるってことです」
「うん、ゴメン、まったく共有できていないけどね……」
「ええー?そっか…こちらこそゴメンなさい……なぜかフレヤさんなら知っている気がして…」
(ソフィアになら通じたかもね?)
もどかしそうにローレルの眉間にシワが寄った。
そしてグッとシワを深くして力を貯めると、自分をはぐらかしていた不安をたまらずに吐き出した。
「フレヤさんは、あ《・》の《・》
「……」
不安と緊張でいっぱいになりながら覚悟を口にしたローレルを見てフレヤはためらった。その問いの意味も取り違えようも無い。
「出会ってまだ、わずかな時間しか経っていないのに?」
「…………」
もちろんフレヤは、他人や、ましてや自分を嘘でごまかすことなど我慢ならない。『嘘』と『騙す』は別のモノとも考えているが、余程の確信が無ければ『優しい嘘』をつくこともしなかった。
そのままローレルは答えを待った。
「好きよ…」
「っ!」
どきりと心臓が脈を打つ。するとフレヤがフッと笑って言った。
「でも、恋愛とは言えない…友人でありたいとは、思ってる」
「おとこ友達……?」
「ええ……」
「今は…まだ………?」
「?、先の話しをされても何も分からないわ。意味のないことじゃない?」
「それは……」
「不安?私が怖い?それならナゼ、あなたは待ち続けているの?今までもこんなことはあったはずよね?」
「!、それは……」
うつむくローレルを見てフレヤは自分をたしなめる。
「ゴメン…意地の悪い、意味の無い質問だった」
ローレルは首を振る。
「ううん」
「まあ、戦時中の軍人なんて最たるものよね?明日の自分が想像できない人達っていうのは、この世に自分が居た
「少佐はこの戦争が始まってからずっと孤独です。人当たりは良いけれど誰に対しても急に距離を取るようになって…深く関わろうとはしなくなりました。まるで自分の存在を消そうとしているみたいに……」
「そう」
くすりと笑ってローレルは言う。
「フフ、本当はもっと子供っぽい人なんですよ、言うことは聞かないし、とにかく気ままな人でよく笑って、誰を相手にしても
(ふむ、そのままよね?)
「フレヤさんは、よく分かっていますよね?」
「ん?」
「だって…そんな少佐がフレヤさんに対しては積極的に関わろうとしている。以前の様子で接しているように見えます」
僅かに噛みつぶすように言った。
「それは、私がもの珍しい魔女だからよ。私が飛べることを
「そうかも、しれない…けど」
「私だったら相手の都合なんて考えない。そこから一歩も進めずに立ち尽くしているなんて我慢できないもの。イヤなら断られるだけだし、そうしたら酷く傷つけられたフリをするから。私の好意をフイにしたことを気に病みながら死ねばいいのよ」
ローレルは呆れて目を丸くした。
「あきれた……今まで好きだった人にそんなことができるの?」
「モチロンよ!そしてもっと楽しいことを探して進み始めるのよ。とにかく自分のペースは変えたくないの、じゃないと一緒に歩いて行ける人を見つけられないでしょう?」
「!……なんかカッコいい…フレヤさんは男前ですね……」
「!、それはヤメて!」
フレヤは手のひらを突き出してローレルの言葉を
「え?な、なにかな??」
驚いたローレルの横には店内を回っていたセアラが見計らったようにそこに居た。
「ほっほっほ〜……ウチのオーナーはねローレルさん、『男前』と褒められるのがイヤなんですよー。それはもうおモテになるんですよー、女の子に……」
「へえー、そうなんだ。なるほどなるほどー、納得納得……」
ふむふむと
「ちょっとっ、勝手に納得しないで!男前なんてサッパリ意味が分からない、まったく納得できないわよっ!」
「フフ、いいじゃないですか?男前、とは言わなくてもエレガントで颯爽と現れて守ってくれそうな姉御肌、可愛らしい女の子はコロコロとコロがされちゃいそう。私もちょっと危ないかも……?」
「なっ…?!」
フレヤは後ずさって身構えた。
「からかうのはヤメて!そういう背中からすり寄られるみたいなのはホント苦手なんだからっ」
「なるほど、そういうところがまた……」
「っ!?」
弱みを見せるとローレルとセアラに好奇の目で見つめられる。
「もうヤメた!」
「え?」
「へ??」
「もうこれからは弱々しくてしおらしい女として生きていくわ!」
2人は驚いて目を見合わせてからセアラが残念な顔をして言う。
「ええと、フレヤさん?」
「なによ!?」
唸るように言った。
「ああ…もうこの時点でダメダメですけどー……前もそんなことを言って結局5分ともたなかったじゃないですか?」
「う…またそんな随分と前の話を……」
「えー?まだ、1年も経ってないですけど……」
素知らぬ顔をしながらローレルが心の中で
(そうなんだ…でもまた納得……)
さらにフレヤの言いがかりは続く。
「大体あなたナゼ敬語なのよ?!」
「は?だって仕事中はそうしろってフレヤさん…オーナーが言ったじゃ…ないですか?」
「う、むむ……敬語でディスリスペクトされると、なんかハラ立つ……」
「はい?ナンて理不尽!どこが弱々しくてしおらしい女の子なんですか?」
「む……うっ」
2人の他愛のない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます