第177話 作ってみた☆
カエデと和解した後。
念のため彼女に直接、水天の広間の扉を再封印してもらい、俺たちは地上にもどった。
遺跡に自動修復機能があるとはいえ、どの程度の時間で修復されるのかが分からない。
余裕があればその辺の研究をしてみても面白いだろうが、残念ながら当分はそんな暇はなさそうだ。
テナ村の村長の家で遅めの昼食を食べると、俺たちは速やかに領都ペントへと帰還したのだった。
☆
和解したとはいえ、なかなか緊張を強いられた一日だった。
それはカエデも同じだったようで、少々お疲れモードで屋敷の門をくぐった俺とカエデ。
そんな二人を、エステル邸の車回しで出迎えてくれたのは……
「ボルマンさまっ!」
可憐な俺の婚約者だった。
どうやら屋敷の窓から、俺たちの姿を見て急いで出てきてくれたらしい。
「ただいま、エステル」
「お帰りなさいませ、ボルマンさま。お仕事お疲れさまでした。––––カエデも、ご苦労さまでした」
「ただいま戻りました、お嬢様」
馬を下りた俺たちは、表に出てきた馬丁に馬を預けると、エステルのもとに歩いてゆく。
「二人とも、無事に戻ってきてよかったです。あんなことがあった場所ですし、ちょっとだけ心配してたんですよ?」
困ったように微笑むエステル。
可愛い。
「「(ほわぁ…………)」」
全力で癒される俺とカエデ。
なんか色々あったけど、今のでとりあえず結果オーライな……いや、むしろ最高の一日になったな。うん。
そんなことを思っていると、エステルが両の指を合わせ、もじもじと言葉を続けた。
「ボルマンさま。よかったらお茶を飲んで休んでいかれませんか? 試してみて頂きたいものがあるんです」
「? 」
どうやら、何かサプライズがあるらしい。
どこか恥ずかしそうに、ちらちらと上目遣いでこちらを見るエステル。
なにこのかわいい生きもの。
「––––わかった。せっかくだからご馳走になろうかな」
そう言って頷くと、
「はいっ!」
目の前で、可憐な笑顔の花が咲いた。
☆
十分後。
エステル邸のティールームで、俺はエリスと話をしながらエステルを待っていた。
「––––という訳で、銃身の方は再来週くらいにはめどをつけたいと思ってる。そっちはどんな感じだ?」
「爆轟(エクスプロージョン)の封術陣をどう分割するか、っていう概念設計は大体できたわ。あとは各封術板の詳細設計ね」
「それはどれくらいかかる?」
「そうね……たぶん一週間もあればできると思う」
「いいね。じゃあそれで頼む。あと明日の午後、打合せの時間を作って欲しいんだが」
「別にいいけど。何の打合せ?」
訝しげに俺を見るエリス。
俺はにやりと笑って言った。
「今回の開発の打合せに決まってるだろ。実はこの件で人を呼んでるんだが––––」
詳細を説明しようとした時だった。
「二人とも、おまたせしました」
部屋のドアが開き、可愛い声が響く。
その瞬間、部屋の空気が仕事モードからくつろぎモードにがらっと変わった。
(「まあ、とにかく時間を開けといてくれ」)
(「はいはい」)
俺とエリスは話を打ちきると、部屋の入口に目をやった。
いそいそと部屋に入ってくるエステルと、その後ろに続くカエデ。
エステルは何やら数本の小さなガラス瓶を抱え、カエデはティーセットを乗せたワゴンを押していた。
「二人に試してみて頂きたいのは、これなんです」
そう言ってテーブルの上に瓶を置いてゆくエステル。
テーブルの上には、3本の小瓶が並べられた。
「これは……ひょっとしてジャム?」
俺が顔を上げると、エステルは恥ずかしそうにはにかんで「はい」と頷いた。
「りんごを使ったジャムの試作品です。それぞれ少しずつ作り方を変えてみたので、よかったら試食して感想を頂きたくて……」
もじもじとそんなことを言うエステル。
天使か。
––––やっぱり今日は最高の一日だったな。うん。
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