第146話 オフェル村へ
翌朝。
早めに目が覚めた俺はベッドに腰掛け、白んできた空を見上げながら、ボーっとこれからのことを考えていた。
今回起こった2つの事件。
エステル誘拐事件と、狂化ゴブリンによるオフェル村襲撃事件は、一応、解決した。
だが、解決したら解決したでやらなければならないことがある。要するに、必要にせまられて色々やったことの後片付けだ。
「何から手をつければいいのやら」
思わず遠い目をする。
問題は山積みである。
とりあえず思いつくものから一つずつ考えていこう。
①テナ村の人々の帰還について
昨日、俺はラムズたちとの戦闘が拡大する可能性を考え、テナ村の人々をトーサ村経由でペントまで避難させようとした。
脅威が去った今、村人たちを家に戻さなければならない。彼らにも生活があるのだ。
幸いなことに、彼らはペントまでは移動していなかった。昨日の夕方、彼らがトーサ村に到着して休憩をとっているところに、クリストフの部下が追いつき、事件が解決したことを伝えたのだ。
さすがにその日のうちに皆を村に戻すのは大変なので、昨夜はトーサ村にて一泊させ、今日、村に戻す手はずになっている。
この件は、クリストフと領兵たちがうまくやってくれるだろう。
②ミエハル子爵への報告
今回の誘拐については、表沙汰にしないことでエステル、カエデと合意した。
エチゴールの信用だけでなく、カエデの出自にも関わることで「子爵には知られたくない」ということで意見が一致したのだ。
彼女の屋敷の使用人には「修行のためカエデが抜き打ちでエステルを連れ出した」と説明することになっている。
これもまあ、二人に任せればいいだろう。
③フリード伯爵領軍の送還
幸いなことに、大きな被害もなく狂化ゴブリンを退治することができた。
目の前の脅威がなくなった以上、彼らを無用にダルクバルトに引き止めるのは、双方のためにならないだろう。
……まあ、うちの金銭的な問題が一番大きいんだけどな。
現状、ケイマン率いる先発隊がテナ村にいて、本隊は今日、ペント入りするはずだ。本隊の方々には到着早々帰還頂くことになるが、ちょっとした小旅行だったと思ってもらおう。
彼らに対しては、ケイマンにこちらの意向を伝えれば、その通りにしてくれるだろう。
「…………」
そうなると、やはり俺が直接、手をつけるべきなのは4つ目の問題か。
④ティナ、及び彼女のペンダントの保護
ゲーム『ユグトリア・ノーツ』のヒロイン、ティナ。
彼女と彼女の母親の形見のペンダントは、ゲームと同じく遺跡の『鍵』である可能性が高い。
もう一つの『鍵』であるカエデは、エステルを人質に取られ、帝国の密偵に利用された。
ゲーム内でティナが拉致されるのは3年後だが、既にゲームと異なる展開になってしまい2人の密偵を始末している以上、帝国の動きが前倒しされる前提で動いた方が良いだろう。
早急に、手を打つ必要がある。
オフェル村に向かわねばならない。
それにあんなことがあった後だ。
村人たちに領主家の顔を見せておくべきだろう。
「オフェル村、か」
俺は立ち上がり、騒がしくなってきた窓の外を見る。
村の中に張られたテントからは兵士たちが起き出し、朝の準備を始めていた。
☆
「オフェル村経由でペントに帰還する」
朝食中に放った俺の言葉に、スタニエフが反応した。
「何か、目的があるんですか?」
さすが未来の商会長。
察しがいい。
「ああ。領主の息子として村の被害を確認するというのが一つ。もう一つは、ティナとペンダントの保護の算段をつけるためだ。ゲームの内容通り彼女が遺跡の『鍵』なら、遅かれ早かれ帝国に狙われることになるからな」
「なるほど。そういうことですか」
納得するスタニエフ。
が、隣のジャイルズは珍しく暗い顔だ。
「ティナがそんな素直に従うかな」
そんなことを言う。
あらやだ、この子反抗期?
思わずまじまじとジャイルズの顔を見てしまった。
悩み事でもあるのか、俯き気味に一定のペースで食べ物を口に運んでいる。
「まあ、素直には従わないだろうけどな」
こっちの世界にやって来たときの様子を見る限り、彼女とリードの俺に対する評価は、推して知るべしだ。
ただまあ、本人がどう考えるかは関係ない。
「従わせるようにするさ。ティナの母親は死んでいるが、たしか父親は同居してるだろう?」
俺の言葉に、スプーンを止めるジャイルズ。
「ああ。元猟師で弓職人をやってるダリルさんだな。あの人はあの人で人当たりはいいけど、曲げないことは曲げない人だぜ?」
おや?
「詳しいな、ジャイルズ。お前、ティナの父親と知り合いなのか?」
驚いて尋ねると、ジャイルズは首を振った。
「いや、話したこともないけどさ。領内のガキどものことは、親兄弟含めてある程度知ってるから」
ボソボソとそんなことを言う脳筋の方の子分。
まじか?
「すごいなジャイルズ。お前がそんなことに目配りしてるなんて初めて知ったぞ?!」
「いや、まあ、そんな大したことねーよ」
照れているのか、ジャイルズは再び食事に没頭し始めたのだった。
☆
「じゃあ、テナ村の住民を頼む」
「承知しましたぞ!!」
村長宅の前で、クリストフとケイマンが俺たちを見送りに来ていた。
「ケイマン、後でペントで会おう」
「はっ。昼頃ペントに到着予定の本隊には、先ほど伝令を出しておきました。ですから多少遅くなっても大丈夫ですよ」
「恩にきるよ」
クリストフとケイマンたちは、トーサ村経由でペントに向かう。
うまくいけば、夕方にはペントで落ち合えるだろう。
「よしっ! それじゃあ、オフェル村に出発!!」
俺は号令とともに馬を進める。
隣には、もちろんエステルが轡を並べている。
『楽しい旅程になるといいな』と思いながら、テナ村の北門を出立したのだった。
☆
––––数刻後。
俺の目の前には、胸元のペンダントを握りしめる少女と、そんな彼女を守るようにこちらに木剣を向けて立つ、茶髪の少年がいた。
「ボルマン、約束が違うぞ!? 潔くあきらめろ!!」
往来のど真ん中で、ゲームの主人公、リードが叫ぶ。
…………。
一体、どうしてこうなった???
☆近況ノートでもご報告させて頂きましたが、先日本作は 500万PV & 累計ランキング50位を達成致しました。これも本作を支えて下さっている皆さまのおかげです。本当にありがとうございます! 今後とも本作をよろしくお願い致します。
☆本作では引き続き、一緒に未来を作って下さる方を募集中です。
「エステルとボルマンたちの活躍をもっと見たい」、「コミカライズして欲しい」という方は、ぜひ書籍版を。
◯紙の本は店頭にほとんど置いていませんので、お取り寄せ頂くかネット通販で。
◯電子書籍は各電書サイトで扱っていますので、そちらもぜひご利用下さい。
☆KADOKAWAさんの電書サイト↓
https://bookwalker.jp/ded674430e-5984-4111-92ba-dcc5374c6200/
それでは今後とも「ロープレ〜」をよろしくお願い致します。
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