第38話 魔石と石と新技と
クリストフは熟考するように語り出す。
「それですなあ。……戦士の祝福は滅多に出るものじゃないんですが。普通は何十回、何百回と戦って一度出るかどうか。腕にも左右されますが、まあ宝くじみたいなもんです」
おお、宝くじ!
そういえばユグトリア・ノーツには宝くじイベントもあったな。
「それだけ出ない戦士の祝福が、一度の戦いで三人も。しかも盾の特技まで! そんなものは、私も聞いたことがありませんぞ」
「そうか。クリストフも知らないのか……」
どうやらスタニエフのあれは、相当特殊らしい。
「まあ、その辺のことは、馬車でステータスを調べてみられるとよいでしょう。何か分かるかもしれませんぞ」
なるほど。ステータスか。
確かに、何か変わっているかもしれない。
後で確認してみるか。
クリストフは笑顔で、パン、と手を打った。
「さあ、あと少しでペントです。ゴブリンから魔石を回収して、とりあえず出発しましょう。アイテムを回収して街に戻るまでが戦闘ですぞ! はっはっは!!」
遠足かよ!
思わず心の中でつっこむ。
まあ、勝って油断して他の敵にやられたら面白くないしな。
「やれやれ。さっさと片付けるとしようか」
俺たちはゴブリンの胸を開き、体内に持っている赤く光る石……魔石を回収してまわったのだった。
「ところで、魔石って何なんだろうな?」
幌馬車の荷台で揺られながら、子分たちに訊いてみた。
実はユグトリア・ノーツのゲームには「魔石」なるアイテムは存在しない。
魔物との戦闘後には、経験値と、運が良ければ魔物固有のアイテム、そして金(セルー)を直接入手していた。
この世界の魔物は金(セルー)を落とさない。
その代わり討伐者は、魔物の胸部に埋まっている魔石を抜き取り、冒険者ギルドに売るのだ。
魔石の色や形は魔物によって異なっていて、それがクエストの討伐証明にもなる、という仕組みだった。
アイテムも、人物も、イベントもゲーム通りのこの世界で、魔石の存在は今までのところ唯一、明確にゲーム内と違う点だった。
「魔石はアレだろ。魔物の腹にあって、冒険者ギルドで売れるやつだ」
ジャイルズが「何言ってんだ」的な感じで返してくる。
「腹じゃなくて胸ですけどね。一説には、魔物の核とか、エネルギー源て言われてますよね」
スタニエフがツッコみつつ補足してくれた。
「核はともかくエネルギー源はないだろ。魔物だってモノ食うんだし」
スタニエフにさらにツッコミを入れるカレーナ。
「わたしら封術士にとっちゃ、封力石の入れ物扱いだけどね」
「え、そうなの?」
カレーナの意外な言葉に驚き、思わず聞き返した。
彼女は「え……」と一瞬呆けると、小馬鹿にしたようにこちらを見た。
「常識だろ? 冒険者ギルドが買い取った魔石は全て教会が引き取って浄化してる。んで、オルスタン神聖国で神(オルリス)の力を封入して、封力石として教会やギルドで売られてるんだ」
ドヤ顔で語るカレーナ。
ちなみにオルスタン神聖国はこのローレンティア王国の北の海の真ん中に浮かぶ島国で、名前が示す通り宗教国家だ。
オルリス教会の総本山があり、ユグトリア・ノーツのパーティーメンバー、聖女ファティの出身地でもある。
当然、ゲームでも一度は立ち寄る場所だ。
「へえ……。初めて知ったよ。じゃあ使い終わった封力石はまたギルドや教会が回収して、再生するのかい?」
「いや、使い終わった封力石はただの石になる。ほれ、見てみ」
カレーナはそれまで手の中で弄んでいたものを、右手の平に乗せて差し出してきた。
「へえ……」
それは確かにただの石ころだった。
「こっちが使用前だな」
ごそごそと腰袋を漁り、左手に封力石を乗せて見せてくる。
こっちの石は、白い光を発していた。
「あ、さっきの戦闘で使った封力石はわたしの持ち出しだからな。ギルドか教会でちゃんと補給してくれよ」
カレーナが口を尖らせて要求してくる。
「もちろん。ペントに戻ったら共同ギルド支部で買って来るから安心していいよ」
苦笑いして彼女に言い返す。
「……ならいいけどさ」
金髪ショートの少女封術士は、ちょっと安心したように二つの石を仕舞った。
今のやりとりにあった共同ギルド支部というのは、文字通り複数のギルドが共同で運営しているギルド支部のことだ。
ダルクバルトはあまりに辺境のため、各ギルドが個別に支部を置いてもくれない。
それでもギルドの需要はあるし、ギルド会員への最低限のサービスやら何やらは提供しないといけないから、僻地の領には共同の窓口を用意している。
ペントの支部は冒険者ギルドと商業ギルドの共同窓口で、確か夫婦が運営していたはずだ。
なんか簡易郵便局みたいだな。
「話が変わるんだが、さっきの戦闘で俺とジャイルズとスタニエフは特技を習得したと思う。一度ステータスを確認しときたいんで、皆、ちょっと見せてくれるか?」
俺の言葉に皆ステータスを開き、それを自分のものを含めひとりずつ確認していく。
「ほうほうほう。これはこれは……」
見てみると、全員レベルが上がり、Lv7になっていた。
スタニエフは飛び級だ。
俺は「返し斬り(攻撃力+100%・回避+30%)」を習得。
ジャイルズは「力動斬(攻撃力+200%・命中率−50%)を習得していた。
それぞれ剣や封術のレベルも上がっていたが、特筆すべきはスタニエフだろう。
なんと「盾Lv5 (盾の守備力+35%・回避+35%)」と「弾撃打(盾の守備力+200%で攻撃)」なる特技を習得していた。
「やっぱり。こんな特技見たことないな。大体さっきまで表示もなかった『盾』がいきなりLv5ってどういうことよ?」
見た瞬間、ついつっこんでしまう。
「あの、僕にもさっぱり……」
スタニエフも困惑顔だ。
まあ、クリストフも首を傾げてたしな。
「普通、戦士を目指すなら剣や槍、斧の練習するし、あえて盾の訓練なんてやらない。師匠の訓練を盾でこなすうちに練度が上がって、今までほとんどの人が気づかなかった特技を習得できた、ってことかな……」
ぶつぶつ考えたことを呟いていると、ジャイルズに、ばん、と背中を叩かれた。
「まあ、いいじゃねえか坊ちゃん! 後衛を護る奴がしっかりしてねえと、俺らも安心して戦えねー。運動オンチなスタニエフもこれで引け目なく一緒に戦えるってもんだ」
ああ、なるほど。
ちょっと脳筋なジャイルズとツッコミを入れては締められるスタニエフ。
仲が良いんだか悪いんだか分からないが、戦闘で活躍できなさそうなスタニエフに対して、ジャイルズなりに思うところがあったんだろう。
「そうだな。スタニエフ、引き続き後衛(カレーナ)の護衛を頼むぞ」
「は、はい!!」
件の盾の戦士は、コクコクと何度も頷いたのだった。
間もなく馬車は、懐かしのペントの街に到着した。
今回の旅で立ち寄ったどの領都にも劣る田舎町。
それでも自宅の門をくぐると、なんとも言えない安堵感に包まれた。
まずは休もう。
そして明日から領地と領民を護るため、着々とやるべきことをやってゆくのだ。
一週間後。
俺たちはペントから南に半日のところにあるトーサ村の村長の家にいた。
ちなみにトーサ村は、ゲーム内でボルマンが継ぎ、テナ村とともに魔物に滅ばされてしまう村だ。
応接間には、片側に俺とスタニエフ。
反対側には、テンコーサの商人ギルドに出した依頼を受け足を運んでくれた商人がいる。
今は商談の真っ最中。
一週間かけてうちの倉庫からこっそり運び出した母親の秘蔵コレクション十点の、査定結果を聞こうとしていたところだ。
「それで、いくらになった?」
俺の問いに、難しい顔をしていた商人が、躊躇いながら答えた。
「…………500セルーです」
「「は?!」」
商人の言葉に驚き、聞き返す俺とスタニエフ。
500セルーとは、つまり約5万円だ。
元の金額は、合わせて3万セルー、つまり300万円はしたはずだ。
ご丁寧に購入時の価格証明書までついていたから、間違いない。
「いやいやいや。さすがに冗談が過ぎるでしょう。元の金額は3万セルーはしたんですよ?」
俺の言葉に、商人は困った顔をしてこう言った。
「大変申し上げにくいことなのですが……。あれらは全て贋作です」
俺たちは、あんぐりと口を開けたまま固まった。
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