216話_サキュバスと恋の一本釣り

その時、ソフィアの竿に大物がかかったらしい。


「シ、シオリ…竿が!」


「ソフィア、待ってろ!すぐ行く!!」


僕はすぐさまソフィアの元へ急ぐと、釣り竿を掴み思いきり力を込める。


「こいつは、でかいな!!さっきの奴か!?」


「おそらく……」


「ぐおっ、この…負けるかぁ!!」


僕は力を込めて天使化発動状態になる。それでも魚の引く強さは相変わらず凄まじい。


しかし、抜かりはない。さっきの教訓を生かして、チャミュに太い釣り糸に交換してもらっていたのだ!


これならそうそう切れることはない。


「ソフィア、頑張るんだ!!」


「はいっ!!」


2人して湖の中にいる魚と格闘をする。こいつはここで仕留めなければ。


「フレー、フレー旦那様ー」


「頑張れ頑張れシオリ、頑張れシオリ☆フォー!」


何故かチアガールの衣装に着替えて僕たちを応援しているミュウとレティ。オレンジ色のチアガール衣装がよく似合い、150度大きく振り上げた足の影響で縞縞のパンツが顔を出しているが、今の僕が言いたいことはそんなことではない!


「フォー!じゃねーよ!手伝えー!!」


なんでエール側なんだよ!


「でも、せっかくの姉様と2人きりの時間を邪魔するのもねぇ。姉様にとってはとても貴重なシオリとの密着タイムなんだから」


「……ふぅぅ」


「ソフィア、力を抜くな!ミュウが変なこと言うからソフィアが恥ずかしがって力が抜けてるじゃないか!!」


「事実を言っただけよ。姉様のお尻にはシオリのお腰に付けた釣り竿が」


「きびだんごみたいに言ってんじゃねぇ!あー、もう!!」


僕は怒りが頂点に達し、全力で竿を振り上げる。なんなら霞食(かしょく)の力も応用して、最大限の力で魚を釣り上げる。


「うぉぉおりゃぁぁぁあ!!!」


バッシャーーーン!!!


真っ青な体をした魚がその姿を現す。


「あれが!?」


「天界魚だ!!かなりでかいな!!」


興奮した面持ちで魚を見つめるチャミュ。


「やった!!」


魚はそのまま宙を舞った後、勢い良く地面に叩きつけられて跳ね回る。


ビタビタビタビタビタビタ。


「こいつ、すげぇ跳ねるな……」


元気が有り余っているのか、最期まで抵抗を続ける天界魚。


「せいっ!!」


そこに、レティが魚の急所(?)に突きを繰り出し、息の根を止める。


「旦那様、おとなしくなりましたわ」


「お、おぅ……」


こうして、ソフィアの初めての釣り体験は幕を閉じたのであった。



◆◆◆◆◆



「で、どうして私達には何もないのよ~」


「あるわけないだろ。何言ってんだよ。はい、ソフィア、あーん」


「あ、あーん」


可愛く開けられたソフィアの口に魚のほぐし身を放り込む。


ミュウとレティには正座をさせたまま、取り分けた焼き魚の一部を与えてやる。


ソフィアには、彼女達に罰を与える意味も込めて、彼女達が羨ましがることをやってあげることにした。


恥ずかしがるソフィアに魚を食べさせてあげる。


「あー、ずるい」


「旦那様に食べさせていただけるなんて。羨ましいですわ…」


「ずるくもなんともないよ。ソフィアは今日一番頑張ったんだから。お前達は少し反省してろ」


「納得いかないわ、私達も頑張って応援したのに」


「釣りをしろってんだよ!」


「きつい口調の旦那様も良いですわ~」


「レティは少し反省してくれよ……」


「シオリも、はい。口を開けて」


「あ、あぁ」


ソフィアに促されて魚を食べる。天界魚は鮭のような味をしていた。脂が乗っていてこれはご飯が欲しくなるな。


「美味しいですか?」


「うん、美味しいね。2人で釣った魚だし、喜びもひとしおかな」


「2人」


ポッと頬が赤くなるソフィア。


「ソフィアもだいぶ積極的になったのだな」


少し離れているところで2人の様子を見守るチャミュとシェイド。


「彼女もだいぶ変わったよ。うかうかしてると近付けなくなってしまうぞ?」


「わ、わたしは…いいんだ。彼女が幸せならば。一時期は振り向いて欲しいとも考えたが、シオリくんもあまり乗り気でないようだし」


「そうか。ならせめてこれだけでも」


そう言ってシェイドはシャツを渡す。


「これは……かたじけない」


チャミュはそのシャツを受け取ると、大事そうにそのシャツに顔をうずめた。


「(はぁ、落ち着く…)」


「君もだいぶ難儀な性格だな」


正座に飽きたミュウがシオリのそばへ近寄っていく。


「正座飽きたわ。シオリ、遊んでちょーだい」


「お前は少し反省しろ!」


「前みたいにやってもいいのよ?シオリの好きなシチュエーション」


お尻突き出してをシオリのお腹にくっつける。


「シオリの好きなシチュエーションって?」


「ソフィアは知らなくていいから!こら、ミュウ!」


「シオリが怒ったー」


「そりゃ怒るわ」


ミュウを追い立てると、さささと逃げて行く。


「シオリ、釣り楽しかったです」


「そう?じゃあ、また来ようか」


「はいっ」


ニッコリ笑うソフィア、それを見て僕も嬉しくなる。


「今度は、シオリのこと一本釣りしますから」


「えっ!?」


「ちょっと、ミュウ!」


「えへへ、似てた?」


ソフィアの声真似をしたミュウを、ソフィアと2人でもみくちゃにするのであった。






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