205話_トリックアンドトリート
「ソフィア、大丈夫か?」
レティに抱きしめられながらジタバタしていたシオリが、ソフィアの異変に気が付いた。
「…ソフィア?」
「…えっ?なんですか?」
「ボーッとしてたみたいだけど…」
表情は明らかに良くない。が、彼女自身気付いてないようだ。
「大丈夫です、大丈夫ですから…アハハ」
その場を適当に取り繕うよう返事をする。
「(大丈夫なのかな…)」
「まぁ、いいですわ。旦那様が既に仮装していらっしゃるのですから、私達も着替えましょう」
元気の戻ったレティは、挽回と言わんばかりに拳を高く突き上げる。
「そうね、飾りつけもあることだし。着替えてからやりましょうか」
「僕は一緒じゃなくていいだろー!」
ミュウとレティに、家の中に無理矢理引っ張り込まれていくシオリ。子どもの抵抗など可愛いものだ。残ったシェイドとソフィアは顔を見合わせる。
「ソフィア、大丈夫か。だいぶ顔色が悪いが」
「え、そ、そうかな…」
「あれはシオリの子供ではないから心配する必要はない」
「えっ!?そ、そのことで悩んでいるじゃなくて!」
そのことでショックを受けていたのだが、バレたくないので必死にごまかす。
「と、とにかく!私達も着替えに行きますよ!」
◆◆◆◆◆
家の中に入り、ミュウ達は部屋の中で着替えを始める。ハロウィン、というのはあくまで名目で、シオリにトリック(イタズラ)したいだけなのであった。
そんなシオリは、部屋の外に出てしゃがんで目を閉じている。
「シオリ、中に入ってきてもいいのよ?」
「いいわけないだろ!」
ドア越しにミュウの誘いを断る。
「旦那様を挑発するなら、これくらいはしませんと」
レティは網タイツに脚を通し、バニーガールの衣装を手に取る。豊満な胸がはちきれんばかりに、ぷるんぷるんと揺れている。
「胸がでかいからっていい気にならないでよね」
ピンッとレティのおっぱいを指ではじく。
「きゃっ!何をするんですの!」
ミュウは小悪魔スタイルの黒いミニスカートに尻尾を生やし、上は革のジャケットを羽織っている。胸元は上部分が露出したセクシーな衣装だ。
シェイドはミニスカポリスのような衣装に着替えている。
「やっぱり、セクシーに攻めないと」
「ゴシック女はただのサキュバス、そのままじゃないですの」
「これだから素人は……」
ミュウは、レティの反論にため息で返す。
「大人の色気はこのラインにあるのよ」
すらりと伸びた脚をなでるミュウ。
「ちんちくりんが何を言うのやら」
「誰がちんちくりんよ!!」
喧嘩を始めた2人の横でソフィアが魔女の衣装に着替える。露出はなるべく少なくしているが、ミニスカートなので、大人の色気はミュウより明らかに出ている。
「ふぅ、これ結構きついのね」
「姉様が大きいのよ」
おっぱいを無理矢理押し込んだ形になっている衣装を薄目で見るミュウ。
「あ、あまりジロジロ見ないで」
「これならシオリも喜ぶわね」
「えっ、そ、そうかな」
明らかに嬉しそうな顔をしたソフィアを、ミュウは見逃さなかった。
「姉様、嬉しそうね」
「えっ、な、なっ、なにが?」
「言わなくてもわかるわよ。今まで近くにいたんだから」
ミュウは満面の笑みを見せる。
「姉様が嬉しいと私も嬉しいわ。ねぇ、考えがあるのだけれど…こんなのどうかしら」
ミュウはコソッとソフィアに耳打ちをする。なにやら長めに話をしているようだが。
話が終わった後、一気にソフィアの顔が赤くなる。
「無理無理無理!」
全力で否定する。
「大丈夫、できるわよ。シオリー!着替え終わったわよー」
ミュウはドアを開けて、シオリを中に入れる。
「どう、可愛いでしょう?」
「あ、うん、まぁ…」
目を逸らした子供シオリにヘッドロックをかけるミュウ。子供の体格なので容易にかかってしまう。
「ぐぅ、苦しい……」
「可愛いでしょ?」
「可愛い、可愛いから。助けて」
パンパンと腕を叩く。
「ミュウ、その辺にしてあげないとシオリが苦しそう」
「わかったわよ、姉様に免じて許してあげる。さ、姉様」
ミュウがシオリを抱えてソフィアと対面するように抱っこする。
「早く、姉様」
「え、え、で、でも…」
催促するミュウ、戸惑うソフィア。シオリは訳も分からず2人の顔を見つめる。
ソフィアは一度目を瞑ると、意を決したようにシオリの顔を見る。赤ら顔の魔女が、潤んだ瞳でこちらを見てくるのがなんともいじらしい。
「ユ、シオリ、ハロウィンだから、あの言葉を言って」
ソフィアは手に持っていたお菓子が沢山入ったカボチャのバケツを目の前に取り出す。
「(トリックオアトリートのことかな。イタズラ、ってなったらまた面倒なことになるけど、今出したお菓子をくれるんだろうか…ミュウじゃあるまいし、ソフィアなら大丈夫だろう)じゃあ、トリックオアトリート」
シオリはソフィアの要望通り、トリックオアトリートと口にする。
チュッ。
その時、ソフィアの唇がシオリの唇に触れた。
チョコでも食べているかのような、ソフィアの甘い唾液の味が口元にふわりと残る。
まさかの不意打ちに完全に顔が真っ赤になるシオリ。
「…ス、ソフィア?」
「トリック(イタズラで)アンドトリート(甘いお菓子)って、ミュウが…」
にやり笑みを浮かべているミュウ。
「(これがやりたかったのか…)」
ブフゥと鼻血を流して倒れるシオリ。子供になったシオリには、ちょっと早い大人のイタズラなのであった。
※後日、朝起きたら体は普通に戻っていたそうな。
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