196話_ドタバタ旅館アタック3
夕飯も終わり、満足な気持ちで椅子に寄りかかる僕とソフィア。
その傍らで、黙々と準備されていく布団。どうやら、1枚大きなものが敷かれているようだ。
向こうは完全にこちらをカップルか夫婦だと思っているだろう。
シオリもソフィアも、そのことを訂正する勇気が出ず、あっという間に寝る場所は出来上がってしまっていた。
「(この後、どうしようか…)」
「(この後、どうしたら…)」
2人の間に再び気まずい沈黙が流れるのであった。
◆◆◆◆◆
「この料理、美味しいわね」
「たしかに。優しい味だな、この茶碗蒸しは」
テーブルの前に並べられた小鉢を取り、箸を進めていくミュウ、シェイド。チャミュは部屋の片隅でもがいているレティを心配そうに見ながらも、近くにあったきんぴらごぼうに箸をつける。
レティはゆるくなったさるぐつわを外し、食事を楽しんでいるミュウ達に叫ぶ。
「あなた達!!この紐を解きなさいよ!!」
「シオリの部屋に行かないのなら解いてあげる」
「旦那様のところには後で行きますわ」
「じゃあ解くわけないでしょ。チャミュ、青女のさるぐつわをかませておいて」
「すまないな、レティくん」
ミュウの指示でレティの口を再び布でふさぐ。
「ふごーっ!!ふごーっ!!」
「レティくん、興奮しているな」
「いいのよ。私達は夕飯を楽しみましょう」
ミュウは淡々と、おひつに入っていた白米をよそう。
「ここの料理、なかなか美味しいわね」
「うむ、家で是非再現したいものだ」
「まったく、強い精神力だよ……。ミュウくんも、シェイドも」
◆◆◆◆◆
2人の沈黙は続いていた。
お互い距離をどうやって取ればいいのかがわからず、部屋の隅に座り込む。
今まで2人きりの時に、どうやってソフィアと話をしていたのか全く思い出せない。
「(どんな話をしてたんだっけ…)」
ソフィアもシオリも、旅館に備え付けてあった浴衣に着替えてリラックスした格好になっている。
カップルなんだし少しくらい近付いてもバチは当たらないんじゃないか。そう思うが、ソフィアと視線が合ってしまい、その勇気も閉ざされてしまう。
当のソフィアはというと、今まで感じたことのない感情と葛藤していた。サキュバスではなく、天使として愛する人を欲するという欲望に。
サキュバスの時と違って、具体的な肉欲は湧いてはこない。だが、シオリを独占したいという欲望はそれ以上に強く感じられる気がしていた。
近くでシオリに手を握ってほしい。そんなことすら、顔から火が出るほどに恥ずかしく、口に出せない状況だった。
サキュバスの能力で勢いに任せていけた方がどれだけ楽か。精神が安定している今では、何をどう考えても上手くいくとは思えなかった。
結果、悶々とした想いだけを重ねる形となるのであった。
「(こんなに近いのに…でも…どうしたら)」
その時、突如電気が消え、真っ暗になる。
「わっ!?」
「えっ!?何が起きたんですか?」
「わからない、停電でもしたのかな。ちょっと電源見てみるよ」
「えっ、あっ、私も今そちらの方に、きゃっ!!」
「うわっ!!」
ボフンと柔らかいものに飛び込んだ形になるシオリ。
顔の近くにたゆんたゆんと柔らかいものが跳ねている気がする。
「(なんだこの柔らかいのは…)」
「ひゃんっ」
片手でその柔らかいものをつまむと、可愛らしい声が聞こえてくる。
今のは、ソフィア?
もみゅもみゅ。
右手に伝わる温かな、柔らかな感触。どこかで触ったことのある……。
「シオリ…ですよね…?」
「えっ、あぁ、ごめん、つい!!」
つい、なんだというのだろうか。
シオリは慌てて起きあがろうとするが、ソフィアに首に手をかけられ、そのままもう一度ダイブしてしまう。
「ソフィア?」
「動かないで、少し、このままで」
暗くて見えないが、シオリの顔の前には、おそらくソフィアのおっぱいがある。しかも、ブラジャーをしていないから、直接のおっぱいが。
ドクン、ドクン。
シオリは跳ねる心臓を押さえながら、ソフィアのお風呂上がりの心地良い匂いに包まれていた。
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