180話_ワイバーンとリュウキ

「お前は手を出すな」


リュウキは、前に出ようとした僕を制止した。


「危なくなったら加勢に入りますよ」


「そうなることはねぇ、引っ込んでろ」


リュウキの言葉に従い、僕は後ろに下がることにする。


「シオリ、彼女を1人にして大丈夫なのですか?」


「助けに入りたいところだけど、彼女は1人で戦いたいみたいだ。因縁のある相手みたいだし、危なくなるまではここで見守ることにするよ」


国を滅ぼした敵が目の前にいる。彼女の気持ちを考えると、1人で戦いたいというのもわからないくはない。


「危なくなったら私が治療します」


「ありがとうソフィア。助かるよ」


「シオリくん、敵の狙いはシオリくん自身にあるようだ。警戒はしておいた方がいい」


「あぁ、そうだな」


リュウキとワイバーンの戦いに目を移す。

ワイバーンはクルモロの姿を保ったまま、爪と翼を生やし空から攻撃を仕掛ける。


直接的な攻撃の他に、リュウキの死角から繰り出される攻撃が、リュウキの反撃の糸口を狭めていた。遠くから見ている僕にも、その攻撃がどこからくるのか予想が出来ない。


「弱いですね!その程度で私をどうにかしようとしていたんですか!!」


動きについてこれないリュウキを挑発するワイバーン。


「殺された者達もさぞ残念でしょう!!身を挺して救ったお姫様がこんなに弱者だったなんて!!」


空を舞い、リュウキの攻撃が届かない距離から攻撃を続ける。


「あいつ、わざと攻撃が届かないところから!!」


「地の利を生かすのは戦法として悪いことではないが。奴は自分が優位な位置から相手を見下したいようだな」


「じゃあ、彼女はどうすれば……」


ワイバーンが巻き起こす鋭利な風の刃がリュウキを苦しめる。


四方八方から飛んでくる上に、避けても追随してくる面倒な攻撃だった。


「くっ…!!」


飛び道具を持たないリュウキは動き回りながら、風の刃をかわしていく。


刃は立てかけられた棺を無惨にも引き裂いていく。


「あれは、奴の仲間たちのものではないのだろうか」


「わからない。けど、大事なものではないみたいだな」


ワイバーンは遠くから攻撃を続ける。


「おい、いい加減降りてきたらどうだ?そんなに俺に攻撃されるのが怖いのか?」


リュウキは転んでついた体の埃をポンポンと払う。


「ほう、まだ強がりを言う余裕がありますか?まぁ、いいでしょう。これ以上遊んでいても仕方ありませんからね。これで終わりです」


ワイバーンが急降下し、鋭利な爪がリュウキの頭目掛けて飛んでいく。


刹那。


リュウキの体が動き、右拳がワイバーンの顔面をとらえた。


「!!!?」


吹き飛ぶワイバーン。

僕達は、その光景に呆気にとられていた。


「……フゥ。俺の弱い演技はそんなに信じられたか?」


リュウキは拳をブラブラと振ると、ニヤリと笑った。

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