177話_最深部を目指せ

翌日、少し仮眠をとった僕とリュウキはワイバーンの根城に向けて移動を開始した。


仮眠をとるまでも一悶着あったのだがそれは省略しておく。


「敵の勢力はどれくらいなんですか?」


「さぁ、わからない」


「わからないって…」


「うるせぇな!全部倒せばいいだろうが!」


「(…この人、もしかして馬鹿なのか?)」


「おい、今僕のこと馬鹿だと思ったろ?」


「いや、そんなこと、ないですよ」


リュウキに表情を読み取られたのか内心焦る。


「そういえば、先輩はなんで修行の時にあんな格好を?」


話題を逸らすべく考えついたのがその話だった。


「……師範に教えてもらう条件だったんだよ」


「なるほど……」


変態師範の考えそうなことである。


「あの師範、相当な変態ですよね」


「否定はしない。だが、おかげでワイバーンを倒す力を手に入れた。後悔はしていない」


「……本当ですか?」


あの格好は黒歴史モノだったと思うのだが。


「…殺すぞ」


リュウキは顔を真っ赤にしてそっぽを向いたまま呟いた。



◆◆◆◆◆



その頃、ソフィア達一行は脱出に向けて行動を開始していた。


まず、ミュウとレティが内輪もめを始める(演技をする)。他の3人は横になって寝たフリ。


「なによこの青女!!」


「やる気ですわねゴシック女!!」


商品に傷がついてはいけないと喧嘩を止めに入った看守の隙をつき、寝たフリをしていたシェイドとチャミュが手刀で気絶させる。


「ざっと、こんなもんだな」


驚くほど簡単な作業だった。3分クッキングでもこうはいくまい。


「やりましたね」


「青女…あんた本気でやったでしょ」


「あら失礼、つい本音が」


「この…」


「はいはい、喧嘩はここを出てからだ」


シェイドの制止で、看守を置いて牢の外に出る。


牢外のデスクにあった小冊子を見つけ、目を通すミュウ。そこには、彼女達の写真とおそらく値段と思しきものが下に書かれてあった。


「これは…気分が悪くなるわね……」


「完全に商品だったというわけだな。確かに、これは腹立たしいな」


ミュウ、シェイドは腕に付けられていた手錠を外す。看守を油断させるために残していただけであって、いつでも外せる状態であった。


「姉様、先に外に出ていて頂戴。私はここを潰してから出るわ」


ミュウは両手に黒と白の薔薇の剣を取り出す。


「ミュウ、1人だけでは危ないわ」


「でも、これは私のワガママだから」


「ここを潰しておいた方がいいのは、私も賛成だな」


「女を物扱いする輩には、きついお灸を据えないといけませんわね」


レティも同じく前に出る。


「ソフィアはチャミュと一緒にシオリと合流してくれ、私達はここの大元を叩く」


きらびやかな踊り子衣装を着た3人からは、歴戦の強者の風格がとめどなく溢れていた。



◆◆◆◆◆


ワイバーンの根城、その最深部。

他の場所とは違い、大理石の神殿でつくられたその場所は、淡い光を放つ虫が照らす神秘的な場所だった。


クルモロの姿をした悪魔ワイバーン。そこには大小様々な黒い棺が立てかけられていた。ワイバーンはそれを懐かしむように眺めている。


「クラウンバベル様、もう少しであなたを甦らせることができる。その最後のピースがもうすぐここを訪れるのです…」


ワイバーンは棺の中のひとつに手を触れると、優しく微笑んだ。



◆◆◆◆◆



「お前、遅いな」


「先輩が速いんですよ!!」


僕とリュウキは、ワイバーンの根城に向けて走り続けていた。


どうやって目的地に移動するのかと思っていたら、まさかの“走る”だった。


「散々修行でやっただろ?」とはリュウキの弁だが、本当に走ることになるとは思わなかった。文明の利器とか使わないんですか?


霞食でなんとか体力を温存しているが、リュウキの走る速さはなかなかのもので追い付くのにも必死だった。そんなことを続けているうちに、あっという間に敵の本拠地までたどり着いてしまった。


「着いた。ハァハァ…」


「なんだ、だらしねぇ」


リュウキは息一つ乱れていない。体力がバカなのか、霞食の補給が上手いのか。


「(たぶんバカの体力なんだろうな……)」


「お前、今バカの体力持ちだって思っただろ?」


「!?……思ってませんよ」

ほぼ近いことを言い当てられてドキッとする。人の心の中でも読めるのか、この人は。


「じゃあ、行くとするか。途中でお前がピンチになっても助けないからな」


「それはお互い様ですよ」


互いに憎まれ口をたたきながら、僕達は根城の入口へとたどり着く。


スタンダードな洋風悪魔とでもいえばいいのか。阿吽の像を悪魔風にアレンジした大柄な悪魔が、門番としてどっしりと立っていた。


知性がなさそうな見た目でとてもわかりやすい。


「なんだ、お前らは。さっさと失せろ」


「それはこっちの台詞だ。僕達は今からここを通るんだよ。死にたくなかったらさっさと扉を開けろ」


「グワハハハハ!!笑わせるわ!!!通りたいのなら、通ってみろ!この鉄の門はビクともしないだろうがな」


その台詞を聞いたリュウキは鼻で笑う。


「おい、霞食をするタイミングで思いっきり蹴りに力を込めろ」


リュウキと僕は鉄の門の前まで歩み寄ると。一呼吸置いて、それぞれ

左右の扉に後ろ回し蹴りを食らわせる。


「ふんっ!!」


バゴォォン!!!



すさまじい音と共に開く鉄の扉。


「!!!?」


門番達は目を真ん丸にして、僕達を見ている。


「さぁ、行くぞ」


「(いよいよ人間ではなくなってきたなぁ、僕も……)」


驚く門番を無視して、僕とリュウキは最深部を目指していくのであった。


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