176話_黒き翼を追いて
「さて、じゃあ俺は行くぜ」
息を大きく吐いたリュウキは、ワイバーンの根城に向けて移動しようとした――が、
ぐ~きゅるきゅるきゅる。
なんとも間抜けな音がリュウキのお腹の辺りから聞こえてくる。
「あの、先輩」
聞かなかったことにはできなかった。
「…何もなかった」
向こうを向いたまま答えるリュウキ。
「今のぐーって音は」
「何もなかった」
「お腹空いてるんですか?」
「何もなかったって言ってるだろ!!殺すぞ!!」
顔を真っ赤にして息巻くリュウキ。しかし、俺にはお腹を空かせて困っている女の子にしか見えない。
「簡単なものだったら、僕つくりますよ」
「なんでもないって言ってるだろうが」
ぐ~~。
「……」
「…………」
沈黙。
「何もないと?」
「ねぇよ…」
「…」
「……」
「腹が減っては戦は出来ないと言いますし」
「……仕方ねぇ。そこまで言うなら食ってやるよ」
◆◆◆◆◆
しばし休戦となったので、リュウキに冷蔵庫の余り物でパスタ他料理をつくってあげた。
パクパク。
ガツガツ。
「(めっちゃ普通に食べてる……。余程お腹減ってたんだな)」
目の前の料理をあっさりと平らげて行くリュウキを黙って見つめる。
「……なんだよ?」
「いや、何も。味はどうですか?」
「……」
また黙って食べ続けるリュウキ。お皿に乗っている唐揚げをひょいとつまむ。
「(感想は言ってくれないんだ…)」
とは思ったものの、特に不満もなく食べているみたいでまぁ良しとするか。
あっという間にご飯を食べ終えたリュウキは、満足そうにフォークを置く。
「はい、食後のコーヒーです」
「なんだこの黒いのは?」
「コーヒーですよ。苦かったらそこの器に入ってる砂糖を入れてください」
「……苦っ!?熱っ!?なんだこれ!!」
恐る恐る飲んだコーヒーにしかめっ面をするリュウキ。
「コーヒー飲んだことないんですね」
「お前、最後に俺を殺す気だったな!!」
「違いますって、そういう飲み物なんですって!!」
そこで俺はコーヒーを甘めのカフェオレに替えてあげる。
「これならどうですか?」
「…飲めなくはない」
ようやく落ち着いたのか、黙って飲み始めるリュウキ。
お姫様、というのがなんかわからないでもないけど。ただ、俺がイメージしてたお姫様とは欠片も合ってないな。
まぁ、今まで会ってきた面々もそれは同じか。
俺は子供のようにカフェオレを飲む(少し喜んでいるように見える)リュウキを黙って眺めていた。
◆◆◆◆◆
ワイバーンの根城の地下の牢にて。
「…嫌な予感がするわ」
「どうしたの、ミュウ?」
「シオリが変な虫といる気がする」
「それは本当ですの?」
「そんな気がするって思っただけよ」
「驚かせないでください。これ以上邪魔な虫が増えるのは面倒ですわ」
「そうよね、面倒なことこの上ないわ」
互いに横目を合わせるミュウとレティ。
「邪魔な虫、というのは私のことではないわよね?」
「あら、しっかりと自覚がおありで」
「へぇ……ちょっとあんた表に出なさいよ」
「望むところですわ」
「まぁまぁ、落ち着け。どちらにしろ出られないだろう」
喧嘩しそうな2人をシェイドがなだめる。
「早いところ脱出の計画を固めてしまわなくてはな」
「チャミュの言うとおりだ」
「あのクルモロさんが言うには、あと数日で私達は売り飛ばされてしまうんですよね?」
「らしいな。チャンスはおそらくその時だろう」
「上までのルートは私が記憶している。皆には道を切り開いてもらうことにしよう」
「シェイドもやりなさいよ」
「勿論だ」
皆、理解したように頷く。
「シオリくんが助けに来るのを待たないのも、また私達らしいな」
「女も戦う時代なのよ」
「まぁ、そうだな。その通りだ」
シェイドはそう言うとニッと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます