144話_暗闇の淵に
僕達4人が風呂から上がると、チャミュとシェイドが料理を運んできてくれた。
天界の料理は、味付けが優しいシチューのようなものに、もちもちしたパン、色とりどりのサラダと健康に良さそうな物だった。
「おかわりはある。沢山食べるといい」
お腹が空いていたので、お皿をみるみるうちに空にしていく。僕はものの数分で全て平らげてしまった。
「ふーっ、食べた。御馳走さま」
「片付けは私の方でしておく。シオリ達は今のうちに休んでいてくれ」
「そっか、ありがとうシェイド」
「この後は激しい戦いになるだろう。万全を期さなくてはな」
シェイドに後のことを任せ、僕は教えられた休息室へと向かう。そこには人が8人は眠れそうな大きなベッドがあった。
「ここで皆寝ろってことか」
「全員寝られる場所があるのね、丁度良いわ」
「おわっと」
ミュウは、僕を引っ張ってベッドにダイブする。
「姉様も、早く寝ましょ」
「えぇ。ミュウ、早くこっちに」
ソフィアがミュウラゼルドを手招きする。恥ずかしそうにモジモジするミュウラゼルド。
「大丈夫よ、私が隣にいるから。一緒に寝ましょう」
「姉様…」
ソフィアに説得されて、ミュウラゼルドもベッドに横になる。
ミュウ、僕、少し離れてソフィア、ミュウラゼルドと横になる。満腹感もあってか、僕はすぐに眠ってしまった。
「シオリ、寝ちゃったわね」
「疲れていても無理はないでしょう。大変だったんですから」
「こっちの私は、いつもシオリと寝ているのか?」
「大体はそうよ。どうして?」
「姉様の相手だというのに……」
「あなたの世界ではそうかもしれないけれど、私の世界では私の相手でもあるのよ」
「そうなのか、姉様」
「そうね、ミュウもシオリが好き。私もシオリが好きなの」
「それは、不便ではないのか?」
ミュウラゼルドは思ったことをそのまま口にする。
「確かに、不都合もあるわ。けれど、私は満足している」
「どっちも大切な人だから、お互いに大切に出来るのなら、構わないわ」
「…………シオリも言っていたが、私の知っている日常とはだいぶ違うようだ」
「そうでしょうね、だからあなたが思っているような未来になるとも限らない」
「……そういう考え方もあるんだな」
「さぁ、私達も寝ましょう。起きたらもっと忙しくなるわ」
「そうね、おやすみなさい姉様」
◆◆◆◆◆
数時間後、休息がしっかりと取れた4人は、着替えを済ませ広場へと場所を移す。
「シェイド、この反応なんだが」
周りを監視していたチャミュがシェイドの元に歩いてくる。
エデモアから渡された生体レーダーが、こちらに向かってくる反応を示していた。
「これは、レティの反応だな」
識別反応がある色に変わっている。反応は、すぐそこまで近付いていた。
「もう近くまで来ているようだな」
「あぁ、だが…レティはこの場所を知らないはずだ」
この場所は、シオリ達にも初めて教えた場所。彼らが彼女に伝える時間はないはずだ。
チャミュは言いようのない不安を覚える。
「私が出よう」
シェイドは、境界の入り口へと歩いていく。そこには、三節棍を携えたレティがボロボロな出で立ちで立っていた。
今にも倒れそうな態勢で、辛うじて体を支えている。
「レティ、その体は…」
「シェイド……」
レティを支えようと近付くシェイド。
その時、折れて動かないはずの右腕が急にシェイドの首元に伸びていく。
「……!!」
すんでのところで、その腕を掴むシェイド。しかし、その腕はまるで腕力の強い男性のように、徐々に首に近付いていた。
「お前は……レティでは、ないな!!」
◆◆◆◆◆
腕を弾き、距離をとるシェイド。そこに、チャミュの話を聞いた僕達がその場に駆け付ける。
「シェイド、無事か!!」
「あなたは、レティ!?」
「無事だったのね、青女!」
口々に叫ぶ皆をシェイドが制止する。
「レティの姿をしているが、どうやら本人ではないようだ」
シェイドに弾かれたレティはゆっくりと起きあがると、傷も衣装の汚れもなくし、正常な状態へと戻していく。
「きちんと反映させたつもりだったが」
声はレティだが、喋る内容は本人のものではない。
「彼女はこの場所を知らない。お前がその姿で来た時点で、既にバレている」
「ふふっ、そうか。それは非常に
レティの姿をした奴は、その姿のまま高笑いをする。
「レティをどこにやった!?」
「これか?これは私の中にいるよ。返してほしければ…お前の死と交換だ」
「くっ……!」
「シオリ、落ち着いて。レティは奴の中に取り込まれている。まだ助ける手段はある」
「本当か!?」
「奴は仲間内で戦わせているように見せて姉様とシオリの絶望を誘うことが目的。それを忘れないで」
ミュウラゼルドは薔薇の拳銃と剣を取り出し、前に出る。
「相変わらず、やることが姑息だ」
「お前との戦いも、もう飽きた。何故そこまで私の邪魔をする?」
「私の願いの中に、お前はいないからだ」
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