129話_サキュバスと乙女心色々

ゲーム。


それは時に勝敗を決する重要なもの。

1分1秒に命を削り、勝利のために邁進まいしんする。


今日はリビングで死闘を繰り広げた者たちの話─────。


その日、僕達は意見が割れていた。


夏の暑さも続き、今日の夕飯を何にしようか考えていたのだが、それぞれ食べたい物のリクエストが違っていた。


「私は親子丼が食べたいです」


「私はピザがいいわ。ハーフアンドハーフのマルゲリータと3種のきのこピザ」


「私はそうめんがいいな」


三者三様にして相容れる要素なし。


「シェイドまだそうめん気に入ってたのか…。僕は、オムライス」


「夏関係ないじゃないの。馬鹿舌なの?」


「誰が馬鹿舌だ!それならミュウだって何関係ないだろ!」


「トマトが入ってるから夏らしいわよ」


「それならこっちもケチャップ使うから似たようなもんだ!」


「まぁまぁシオリ、落ち着いて。珍しく皆の食べたいものがバラバラになったので、何か決める方法を考えないと」


「それなら、これはどうだ?」


シェイドは白いマットにカラフルな丸がついたものと、木組みのおもちゃみたいなものを取り出した。


「それは?」


「これはエデモアが置いていったものでな。ツイスターゲームという」


「はい、却下」


僕は即答で手を上げた。


ツイスターゲームといえば、順番にルーレットを回して、指定された丸の場所に決められた手や足を置いて、先に態勢を維持できなくなった人の負け、というものだ。


いつもの流れだとソフィアやミュウと組んずほぐれつしつつ、また面倒な事になるに違いない。


よって却下である。


「えぇ、どうして?面白そうじゃない。シオリ、2人きりでやりましょうよ」


「もうそれ夕飯決める目的じゃないよね?」


「どうせなら、ベッドの中でも私は構わないわよ。お互い裸で……楽しそうね」


「もしもーし、ミュウさーん、話聞いてる?」


勝手に妄想の世界に旅立つミュウに困惑しつつ、他のゲームを探す。


「それなら、これはどうですか?ジェンガ」


シェイドの持っていたもう一つの木組みのおもちゃを受け取るソフィア。


「面白そうなんだけど、これ負けた1人を決めるゲームなんだよね」


「あっ、じゃあ夕飯決められないですね」


「そうなんだよ」


夕飯を決めるゲームすら決められずに迷っているとシェイドが新たな案を持ってきた。


「なら、大好きゲームだ」


「大好きゲーム?」


皆シェイドの方を見る。


「そう、互いに向き合い、片方が大好きだと言う。言われた側は照れたら負け。平常心なら勝ち、というゲームだ」


「いいですね」


「面白そうじゃない、やってみましょうよ」


「え、でもこれで夕飯決められるのか」


「じゃあこうしましょうよ。シオリがそれぞれ私たちに愛を告白して、照れなかった人の料理に決めるの」


「あれっ、それだと僕のオムライスはどこに」


「そもそも除外よ」


「ひどいっ!!」


勝手に三択にされた中、半ば強制的に大好きゲームは始まった。


「それじゃあ、始めましょう。まずは私からね」


当然とでも言うように、ミュウが僕の向かいに座る。


「僕が、ミュウを照れさせれば勝ちなんだな」


「ええ、そうよ。そしたら少しくらいオムライスを考えてあげる」


「よし…わかった」


「まぁ、そんなこと無理でしょうけれど(いつも軽々しく私を扱うシオリの言葉が響くはずないわ)」


僕は一呼吸おくと、神経を集中させる。1週間連続そうめんは流石に飽きた、オムライスのために、負けられない。


「ミュウ、大好きだ」


ゾクゾクゾクッ。ドキュンッ。


ミュウの背中に電流が走り、瞳にハートマークが写る。


「……シオリ、嬉しい!私も大好きよ!」


ギュッと僕の手を掴み、そのまま勢い良くもたれかかってくるミュウ。


「ちょ、ちょっと!ミュウ」


「こんなにシオリが真剣に大好きって言ってくれるなんて!もっと、もっと言って!もっと私を愛して!」


息荒く迫ってくるミュウを引きはがそうとするが、力では圧倒的に負けているのでどうにもできない。


ミュウはラブモード全開暴走寸前だった。さっきまでの余裕綽々よゆうしゃくしゃくなセリフはなんだったのか。


「はい、ミュウおしまい」


「ミュウの負けだな」


「え?」


我に返り、僕の上に乗ったまま2人の方を見る。


「でも、照れてはいないわよ?」


「そこでその返し!?ポジティブだな」


ミュウのルールの隙をつくような言葉に思わず突っ込んでしまう。

 

「シオリの言葉に負けたので、負けです」


「はい、降りた降りた。では、次は私だな」


暴れるミュウを放し、次はシェイドが向き合う。


「それでは始めようか」


「シェイドか、緊張するな」


しかし、ここでシェイドが勝つとそうめん1週間1と日連続が確定する。勘弁して欲しい。


僕は言霊に魂を込める。


「シェイド、大好きだ」


ピクッ。膝の上に置かれていた手が少し動く。


「大好きだ」


ピクピクッ。黙ってはいるが、頬が少しずつ紅潮しているのがわかる。もう一押しだ。


「大好きだ、シェイド」


「シオリ」


立ち上がり僕の手を握るシェイド。ミュウほどの勢いはないが、近くまで迫ってくるのは変わらない。


「何故だろう、この胸の高鳴り…凄くドキドキする」


「シェイド…」


シェイドの意外な反応にこちらもドキドキしてくる。


「はい、おしまーい」


「シェイドも負けですね」


冷静になったミュウがひょいと僕とシェイドを引き離す。


「うむ、平常心でいられる自信はあったのだが…」


「シオリの言葉はなにか能力がかかっているのよ」


2人してなにやらつぶやいている。


「そ、それでは、最後は私ですね」


向かいに座るソフィア。


なのだが……。


なんというか……。


もう既に、顔が真っ赤なのである。


「(姉様、もうアウトじゃないの)」


「(言う前から決まっているな)」


「ソフィア、それじゃあいくよ」


「はい…(ドキドキ)」


その時、ソフィアの意識が消えていき


「ソフィア、大好きだ」


その言葉を聞いたのは、リアだった。


「ふぁー、あれ、起きちゃった。ルキじゃん、おはよう」


「あれ、ソフィアは?」


「え、知らない。急に意識なくなったから私が起きちゃった」


あっけらかんと喋るリア。


「なになに、何やってたの?」


「大好きゲームだ」


「しっ、言わなくていいよシェイド」


「大好きゲーム?大好きな人と一緒にいたらいいの?じゃあルキと一緒にいよーっと。暑いし、ルキとシャワー入ろー」


ゲームを独自解釈し、僕を風呂に連れ込もうとするリア。


「ちょっと離しなさいよ。シオリはこれから私とベッドの中でツイスターゲームやるんだから」


「やらねぇよ!」


「それもおもしろそー、私もやるー」


「やらないってば!」


「仕方ない、ソフィアは棄権ということで、今日の夕飯決めは振り出しだな」


「もうそうめんでいいわよ、リア。シオリと一緒にお風呂入りましょ」


「おー、そうしよー」


「やだやだ!そうめんはもういい!僕全部勝ったんだからオムライスだろそこは!!理不尽だー!」


シェイドはそうめんを茹でに、僕はミュウとリアに拘束されてお風呂場へと連行されるのであった。


ゲーム。

それは時に勝敗とは関係のないものになったりもする。

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