128話_サキュバスと真夏のハイスピード流しそうめん
続く猛暑。
今年の暑さはなかなかに手強いらしい。
最近ではリビングのエアコンを付けたまま、皆で川の字になって寝るようにしている。電気代の節約と、アイシャのひんやりの力を借りるという賢い選択だった。
ミュウもよく遊びに来るので、目が覚めると両端にソフィアとミュウがいるということもしばしば。とても賑やかな日々を過ごしていた。
「今日は流しそうめんをやろう」
唐突な発案。言い出したのは僕だった。何故なら、夏っぽいからという安直な理由だった。
「流しそうめんってなんですか?」
実に良いリアクションだ。
「半分に割った竹を斜めにして、レールのようにするんだ。その間に水を流して、そうめんを落とすんだよ」
「そうめんのウォータースライダーみたいな感じですね」
「まさしくそうだね!」
「面白そうね、それ。天界にはなかった発想だわ。早速やりましょうよ」
なかなか良い感触。提案した
「そうだな。では、エデモアに装置をつくってもらおう」
「え?」
突如“エデモア”という言葉が出てきたことに驚きを禁じ得ない。
正気か?
数々の問題を起こした
…………正気か?
僕の中には不安しかなかった。
◆◆◆◆◆
結局、家の庭にエデモアが秒速でつくった流しそうめん装置が設置される。
夏の雰囲気を、ということで僕は紺の
「エデモア……」
「ん~、なんだい~?」
「これは……」
「流しそうめん装置だよ~」
「いや、絶対違うだろ!!」
僕の目の前には、落とし口こそ高いところにあるものの、そのレーンは∞(無限)の形をした奇っ怪なものだった。
何故、
「1回入れたら、このコースを半永久的に回り続けるから、好きにとってもらうといいよ~」
「エデモア、流しそうめんってやったことある?」
「ん~?ないよ~」
さらっと言ってのけるエデモア。まるで流しそうめんのように。
「回転寿司の縦バージョンみたいなものでしょ~?」
「違う、全然違う」
「シオリ、顔が…」
「あぁ、ごめん。あまりの理解度に顔が渋くなってしまった…」
「まぁ、やってみたらいいじゃない。そうめん、用意したわよ」
「(ミュウのそのポジティブさはどこからくるんだ…前にひどい目にあったはずなのに…)」
どうして皆がエデモアの装置をすんなり受け入れているのか、僕には理解できなかった。僕か、僕が変なのか?
「流すわよー」
バシュンッ!!!
ミュウが手から離れた
流れて行く、というより火花を散らしながらコースを走る、といった方が適切か。
「これが流しそうめん……」
「絶対違うよ!!」
体感時速100kmで無限の字を描き続けるそうめん。
徐々にそうめんの表面が削れていき、次第に小さくなっていく。
「とれねぇよ……」
一応箸とお椀は渡されたものの、速すぎて取れる気配がない。そのまま、そうめんは姿も形もなくなってしまった。
「そうめん、なくなっちゃいましたね」
「何をやっているのよシオリ、早く取らないと」
「取れるかっ!!」
どれだけ動体視力が必要なんだよ。イージーモードはおろか、ハードモード飛び越えて鬼モードじゃないか。
「次行くわよー」
バシュンッ!!!
再び射出されるそうめん2号。
シュパッ。
そうめんが1周してまた下に戻ってきた瞬間を狙い、シェイドは高速で手を動かした。
シェイドが持っていたお椀にそうめんが収まる。
「ふむ、こんな感じか?」
「取ってるし……」
難易度鬼のそうめんを軽々とキャッチするシェイド。
「どんどん行くわよー」
バシュンッ!!!バシュンッ!!!
流しそうめんをやる音ではない音が立て続けに聞こえる。
それをいとも簡単に掴むソフィア、シェイド。
「こんな感じでいいんでしょうか?」
「い、いいんじゃないかな……」
ソフィアも普段は控えめだが、身体能力はずば抜けて高かったりする。このくらいは見えるのだろう。
「いや~、風流だね~」
「お前その言葉どこで覚えた。あと、絶対違うからな」
良い物をつくった、と誇らしげなエデモアに釘を刺す。しかし、のれんに腕押し、ぬかに釘。全く効く気配はない。
「なによ、シオリ全く取ってないじゃないの。お腹空いてないの?」
「取ってないんじゃなくて取れないんだよ!!」
「シオリ、精神を集中するんだ」
「シェイド……」
シェイドが僕の手を支えるように後ろに回り込む。
「そうめんの動きは一定だ。それを予測して箸を出し、戻す。少し先の未来のそうめんを箸ですくい取るんだ」
「(なんかちょっとかっこいい……)」
などと的外れな感想を抱きつつ、装置に向かう。
「次、行くわよー」
バシュンッ!!!
射出されたそうめんに意識を集中する。
コンマ秒後に僕の目の前を通過する高速そうめん。
「……そこだっ!!」
脳内に電流が走り、光より早く箸を突き出す。
「やったな、シオリ」
「あぁ…」
僕のお椀の中には、火花で焦げたそうめんがしっかりと収まっていた。
「違う、僕の求めていた流しそうめんはこれじゃない…」
僕は、謎の達成感とコレジャナイ感に苛まれていたのであった。
P.s.この後、チャミュがたまたま来たことにより、いたって普通の流しそうめんが開催されたのであった。
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