119話_天魔舞闘会 因縁の対決
いよいよ、対決の時がやって来た。
僕は準備運動を入念にすませると、ゆっくりと立ち上がる。
「シオリ、頑張ってください」
「あぁ、絶対に勝ってくるよ」
「あんな奴なんてコテンパンにのしちゃいなさい」
「徹底的にな」
ソフィア、ミュウと言葉をかわし、舞台へと上がって天帝が来るのを待つ。
ソフィアを救いに行った日が随分昔のことのように感じる。またこうして、奴と対峙する日がくるとは思わなかった。今度は僕一人だ。シェイドはいない。
「待ちわびたぞ、この時を」
「僕は別に待ってないけどな」
天帝も舞台に上がる。白い道着を身にまとい、こちらを悠然と見つめる。
「貴様に負けたあの日から、我は屈辱にまみれた日々を送っていた」
試合開始の合図が鳴る。天帝の体の周りに赤い発光体が浮かび上がり、僕めがけて飛んでくる。
最初から容赦する気はないみたいだ。
慌てて横っ飛びで受け身をとりながら、回転することでその攻撃を回避する。追尾するように地面に突き刺さる赤い球体。大きなハンマーで殴ったように地面にヒビが入っていく。
「危ない…いきなりかよ」
立ち上がり、天帝と距離をとる。
「貴様は私にとって最も不要な存在だ。ここでその関係を断つ」
「それは僕のセリフだ!!」
再び赤い球体を放つ天帝。それを避けながら天帝に少しずつ近付いていく。
「…ぐっ」
球体の攻撃は鈍く、重い。痛みに耐えながらもシェイドとの戦いを思い出し、接近戦を挑む。
「お前の存在が、彼女を苦しめる!!」
「ソフィアは良い女になったな!!あれは必ず再び手に入れてみせる。手始めに貴様を殺してな!!」
「それをさせないと言ってるんだ!!」
左足によるハイキックを天帝に見舞う。シェイドとの特訓で、自分の想像以上に体が動くようになっていた。
「ぐおっ!!」
「あの頃とは違うぞ!!」
よろけた天帝の脇腹にボディブローを喰らわせる。体をくねらせ、苦悶の表情をする天帝。
「シオリ、調子良いわね」
「あぁ、強くなった。あの頃とは比べ物にならないくらい」
「シオリ、どうか無事で」
それぞれ試合の行く末を見守る3人。観客席では、長と臣下がその光景を眺めていた。
「仕上がりは上々みたいだね」
「使えそうですか?」
「あぁ、順調だね。彼女にも感謝をしないと。あれの準備だけ、進めといてよ」
「承知しました」
臣下は1人席を立ち、長は天帝とシオリを眺め続ける。
「完成された器がどんな反応を示すか。楽しみだね」
不適な笑みを浮かべる長。
そんなやりとりが繰り広げられているとは
正真正銘、1対1の闘い。天帝は遠距離、シオリは近距離と互いに距離を詰めては離れてを繰り返す。
「しつこいぞ!!貴様!!」
「お前が離れるのが悪いんだよ!!」
距離を詰め、拳の乱打を浴びせる。
僕にとってここまで大嫌いな人物が出てくるのは珍しいことだった。今まで生きてきた中で本気で怒ったことなんてそうない。
ただ、この天帝だけは、ソフィアを苦しめた奴だけは、時間が経った今でも許すことができなかった。
「お前の身勝手な行動は絶対許さない!!」
天帝のアゴをアッパーで突き上げる。
「ぐっ!!」
よろける天帝。
「シオリが優勢だな。このまま押し切れれば」
「上手くいきすぎているのが少し不安ね。
ミュウの心配をよそに、僕は攻撃を避けて天帝にダメージを当てていく。
「シオリ、シオリの姿が……」
ソフィアは僕の異変に気が付いていた。僕の背中から、白い翼が生えてくる。
「貴様…なんだその翼は」
「うわっ!?なんだこれ!!?」
突然背中にずっしりとくる重み。巨大な翼が背中から生えている。
「姉様…あれって……」
「えぇ、ルキの転生者ということは、その線もあり得ることではあったけど……」
不安そうに見つめるソフィアとミュウ。
「消えろ、消えろ!!」
後ろを向きながら強く念じると、翼は少しずつ小さくなって見えなくなった。
「ふぅ…なんなんだ、一体…」
「貴様……そういうことか…」
天帝は何かに気付いたように笑みを浮かべる。
「…なんだよ」
「お前を葬り去る理由がまた一つ増えたということだ」
天帝の言いたいことはよくわからない。
「訳がわからないけど、なんかお前にとって良くないことが起きてるのだけはわかった。決着をつけよう」
「望むところだ」
僕と天帝は、距離をとり次の一撃で終わらせる構えをとった。
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