115話_天魔舞闘会 長の思惑

シェイド、ミュウの勝利で早くも2勝目。あと1勝で2回戦も難なく突破できそうだ。


次の戦いは魔界の長ハーディスとレティの戦いだ。


「では、次は私ですね」


「魔界の長が相手だ、大丈夫か?」


「ええ、ご心配なさらず」


レティはゆっくりと立ち上がると、舞台に入る手前で僕の方に振り返り、そして一礼。


「旦那様、ありがとうございます」


「あ、あぁ、気を付けて」


深々と下げられた頭。僕は、その時心配したことのお礼を言っているのだと思っていた。


レティは礼を終えると、優しい笑みを浮かべゆっくり舞台へ歩いていく。


「レティ――」


「なにがあったのかしら」


ソフィア、ミュウはその行動を不思議に見つめていた。


両者が舞台に出揃う。


ハーディスがなにやらレティに話しかけているのが見える。


「レティ、わかっているだろうね」


「――はい」


試合開始、と思われた次の瞬間。その発言は、仲間の誰もが予想もしないものだった。


「勝者 ハーディス!!」


レティの棄権の発言を受けて、審判が魔界側の勝利を告げた。



◆◆◆◆◆



「ちょっと!!どういうこと!!?」


それは唐突な出来事だった。僕にしがみついていたミュウが、戻ってきたレティに食ってかかる。


「レティ、どうしたんだ……」


「…旦那様、いえ、天寿シオリさん、心からお詫び申し上げます」


レティは表情を崩さず深々と頭を下げる。


「…どういうことなんだ?長になにか言われたのか?」


「契約満了の連絡を受けました。これをもってシオリさんの妻としてのお役目は終わりとなります」


「青女……ちょっとあなた、本気で言ってるの?」


ミュウは怒りを抑えきれず、レティの胸ぐらを掴む。


「雇われたから、ただそれだけでシオリに近付いたって言うの?」


「ええ、その通りです。長との契約内容だったからその分の働きをしたまで」


パンッ


ミュウの平手打ちが、レティの頬を打つ。レティは黙ってその平手打ちを受ける。


「消えて…私の目の前から消えて…!!」


怒りを爆発させるミュウ。目にはうっすら涙が浮かんでいる。


「ミュウ、落ち着け!!レティにだって何か事情が!!」


「ないわ!!そんなの!!この女は金のために近付いて、金のために裏切ったのよ!!」


激しく暴れるミュウを後ろから抑えつける。怒りが頂点に達しているようだ。


「姉様も何か言って!!こんな奴にシオリを取られるかもしれなかったなんて…許せないわ!!」


「レティ、あなた本当に?」


「ええ、本当です」


「――では、どうして目から涙を流しているの?」


レティはハッとして、頬を触る。レティの毅然きぜんとした表情とは裏腹に両目からは涙が流れていた。


「これは……いえ、もう終わったこと。このような形で終わることとなり申し訳なく思います。もう二度と会うことはないでしょう、さようなら」


レティはそのまま振り返りもせず、歩いていってしまった。


「二度と来るなー!!!」


ミュウの怒号が響き渡る。


「レティ、何があったんだ」


「シオリ、まだ言うの?裏切り者よ、あれは」


「私も気にかかります。あんなに簡単に割り切れるものでしょうか……」


「この試合が終わったら、長に聞いてみるのがいいだろうな」


「……あぁ、そうなのかもしれない。じゃあ、この試合を終わらせないとな」


「それなら、私が行きます」


ソフィアが僕の前に立つ。


「でも…」


「私と、リアにやらせてください。色々と鬱憤うっぷんが溜まっているようですので」


ソフィアは片目を指さす。


「ソフィア…強くなったね」


「え、ぇぇ!?…そ、そうですか?」


「うん、そうだよ。だって一番最初に会った頃は目も合わせられなかっただろう?」


「そういえば――そうですね。私、強くなれたんですね」


ソフィアはニッコリと笑う。


「ありがとう、シオリ。勇気が湧いてきました。行ってきます」


「姉様、頑張って!!」


「油断せずにな」


仲間の声援を受けて、舞台に上がるソフィア。


「(シオリは、私のことをちゃんと見てくれていた…)」


ソフィアの心の中に嬉しい気持ちが集まってくる。心の中でリアとソフィアが向き合い、互いに見つめ合う。


「ソフィアリアらしくなってきたんじゃない?」


リアが笑う。


「そうなのかな?」


ソフィアは少し困り顔をする。


「そうだよ、私が知ってるソフィアが混ざってきてるもん」


「リアが言うのなら、きっとそうなのね。ねぇリア、私に力を貸して」


「いいよ、ルキのために何かしたいって気持ち、わかるから」


ソフィアはリアに手をさしのべる。リアもその手を取ると淡い光が2人を包んだ───。


「さぁ、第4試合の始まりです!!アラクネア対ソフィア!!」


審判の合図により試合が開始する。


ソフィアの前に立ちはだかるのは、蜘蛛のような腕を背中に6本背負った女性型モンスターだった。モンスターと人間がくっついたとでも言えばいいのだろうか。


「なかなか可愛い子ね、いじり甲斐がありそう」


「この試合で終わらせて、私達は決勝に行きます」


ソフィアは深呼吸をすると、体中に光を集め始めた。


右手には光を左手には闇を集め、体の前で合わせて混ぜるように体内に取り込んで行く。


「あ、あれは……!!?」


ソフィアの体を光と闇が取り囲む。

一瞬の発光に皆が目を奪われた後、舞台に立っているのは黒い翼2枚と白い翼2枚を携えた、今までに見たことのないソフィアの姿だった。


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