108話_大会前のざわつき

天魔舞闘会まで残すところ1週間。


僕はシェイドに朝の稽古をつけてもらいながら、昼は学校、夕方は皆集まって作戦会議といった1日を過ごしていた。


「皆、お揃いの衣装なんてどうですか?」


そう提案したのはソフィアだった。チームとして出るからには、統一性があった方が良いんじゃないかということらしい。


「いいんじゃないかな?僕は賛成だけど」


「私もいいわよ」


「特に衣装にこだわりはない。ソフィアに任そう」


「レティは?」


「ゴシック女と一緒でなければ構いません」


「なによ青女、やるっていうのかしら」


チクリと牽制けんせいしたレティの言葉に乗るミュウ。拳での戦い以降ずっとこんな調子だ。ミュウはレティのことを青女、レティはミュウのことをゴシック女と呼ぶ。見た目まんまの話だ。


「じゃあ、決まりですね。衣装は私がつくります。採寸だけさせてくださいね」


「採寸、そうね。シオリのは私がやっておくわ」


「いいえ、私がやっておきます。ゴシック女はおとなしくしていてください」


「私がやるって言ってるのよ……」


「おとなしくしていなさいと言ってるんです……」


「……」


立ち込める暗雲。まぁ、慣れてきている自分もいるのだが。


「まぁ、落ち着いて2人とも」


「シオリは黙っ……わかったわ、ここは青女に譲ってあげる」


ミュウが突然何かを思いついたようにスッと身を引く。


「気持ち悪いですね、突然身を引くなんて。何を考えているんですか?」


「なにも。さぁシオリの採寸をしてあげたらどうかしら」


ミュウはソフィアの方に行くと、なにやら話をしているようだ。


「ゴシック女、何か策があるみたいですね……まぁいいでしょう。旦那、ではこちらへ。サイズをお調べ致します」


レティは巻き尺を手に、僕の体のサイズをひとつずつ丁寧に測っていく。


「旦那様、なかなかしっかりとした筋肉をお持ちですよね。外から見ただけではわからない柔らかくしなやかな筋肉です」


「あまり触られるとくすぐったいな」


「すみません。ですが、なかなか素晴らしいです」


僕の腕や胸を興味深く触るレティ。


「今度肩が凝った際には私をお呼びくださいませ。旦那様をマッサージして差し上げます」


「あぁ、ありがとう」


「あまり長いこと採寸してるんじゃないわよ、デザイン決めるんだから」


「ゴシック女は黙っていてください」


「はいはい」


「にしても、レティもこの家に慣れたというか、固さが抜けてきたね」


「旦那様には許可をとっても全て断られてしまいますので、その手順は踏まないことに致しました」


「えぇっと、まぁそうだね(いいですかと言われて、はいとは言えない)」


「ですので…」


レティは僕にギュッと体を押し付けてくる。胸が体に当たってレティの柔らかさを意識してしまう。


「あー!!ちょっと、何してるのよ!!」


レティは満足したようにニッコリと笑う。


「私もあのゴシック女に習うことに致しました」


「レ、レティ…」


「ちょっと青女、なにやってるのよ…」


「ゴシック女、あなたを真似ただけです。旦那様は来る者は拒めないようですので。であれば、妻である私のことも受け入れてくださる。これで良かったのです」


「良くないわよ!!シオリは私と姉様のなんだから!!」


ミュウは僕の腕をぐいっと掴むと、強引に引き寄せる。


「シオリは私と姉様を見て。こんな青女にうつつを抜かしていないで」


ミュウは僕の顔をギュッと掴む。


「ふぁ、ふぁい…」


「旦那様はあなただけのものではありません」


「ふん、あなたにそんな覚悟があるのかしら」


ミュウは、ゴシックのワンピースのボタンを外し、その場で脱いでいく。黒と紫であしらわれたレースの下着と靴下だけになる。レースの下着も大事なところはスケルトン仕様で布面積がとても少なくなっていてとても過激な仕様だ。


「ミュ、ミュウ!?」


「どう?あなたにこれくらいのことが出来て?私はいつだってシオリが求めてきてもいいように万全の態勢でいるのよ」


ミュウは僕にピタッとくっつくと上目遣いで見つめてくる。


「シオリ。あとで私のことを採寸して、隅々まであなたの指で」


「ゆ、指でって」


「こうよ、優しく」


ミュウは僕の指を握るとゆっくり自分の肌へあてがっていく。それを胸から下腹部へと滑らせたところで、


「ゴシック女、私を甘く見ないことです」


レティもセーターとジーンズを脱いでいく。脱いだものはきちんと折り畳むのが彼女らしい。


エメラルドグリーンの光沢がかったブラジャーとローライズの紐パン姿になったレティが僕の前に現れる。


「旦那様のため、いつも準備万端なのは私の方も同じです。旦那様、私はいつでもお待ちしています」


レティが僕に近付こうとするのをミュウが牽制する。


「そこをどきなさい、ゴシック女…」


「嫌よ、青女。あなたにはシオリの採寸を譲ってあげたでしょ。ここからは私の時間よ」


「あれはそういうことだったのですか…。釣り合いがとれません、離れてください」


「イヤ」


「離れなさい」


「イーヤー」


止まらない2人の応酬。だんだんと駄々をこねる子供とそれをいさめる母親の図に近くなっていく。そして板挟みに合う僕。目は天国、耳は地獄の状態だった。


「ソフィア、あの2人を止めないでいいのか?」


「えぇ…もう慣れましたので。それよりもシェイド、デザインを考えるのにいくつか資料を集めてきてもらえませんか」


「わかった、部屋からいくつか本を持ってこよう」


3人は放っておいてデザインを進めるソフィアとシェイド。ソフィアの中では、ミュウとレティの日常の恒例行事にいちいち一喜一憂することはしなくなっていた。大抵その夜の日はこっそり僕に会いに来る流れになっていたりするが。


ともかく、いつもの喧嘩をしながらソフィアの超絶的な技巧により、あっという間に衣装は仕上がっていったのであった。



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